1997年10月号会報 巻頭言「風」より

会の5年目へ・・・そしてパキスタン

加藤 三郎


今年も10月を迎え、本会と本誌とがまた一つ年を重ねた。昨年11月に会発足から3年たって初めて開催した全国交流大会での議論は、会の方向づけに大いに有益であったが、その中から出てきた成果の一つとして、①会員がある程度集まっている地区に支部、また②共通の関心事項を課題にして部会が設けられた。会報でご覧のように、これらの支部・部会は文字通り手探りながらも活動を少しずつ前進しているのは、うれしいことである。遠方にお住まいの会員や仕事が忙しくてこれら支部・部会の活動に参加できない方も、ご関心の活動について本誌を通じ、あるいはE-mailやfaxなどを通じてでも参加し、活動の輪を拡げ深めていただければなおうれしいことである。

本誌を通じて既にご案内しているように、この11月15日(土)には川崎にて第2回の全国交流大会を「環境NGOは何をすべきか-「考える会」の今後の課題-」をテーマに開催することにしている。できるだけ多くの方がご参加下さり、大いに盛り上げてくれることを期待している。

また来年1月には、第2回目の日米合同セミナーをハワイで開催する。アメリカ側のパートナーでおなじみのスーザン・マーコット女史も張り切っておられるので、こちらにも楽しく参加下さり、アメリカ人NGOの考え方、感じ方との異同を直に触れ交流する機会としてほしい。

ところで、前号のうらかた日記で鈴木編集主幹がふれていたように、この夏の終わり、私は、(社)海外環境協力センターの役員として、パキスタンを調査旅行した。昨年春に引き続いて2度目であるが、今回は、より良く見られただけに、この国が抱えているずっしりと重い課題がいつまでも心から離れない思いでいる。一言で表せば、絶望的な貧しさであり、独立して50年たっても今なおこの国をこの状況にさせているパキスタンの指導者層に対する怒りにも似たいらだちであった。

〈人口も不明〉

一国にとって最も基本的な人口調査も1981年以来16年間も実施していない。今年には実施するとのことだが、それが9月なのか10月なのか、役所の方に聞いてもはっきりしていない。今年もできないのではないか、いや必ずやると見方はまちまちで頼りない。したがって、この国の人口は正確なところは誰も判らず、私が聞いた範囲では1.3~2億人までの幅がある(ちなみに現地の国連機関UNDPは、1.4億人と推測)。

〈国の窮迫財政〉

インドなどの近隣諸国と長年緊張関係が続いていることもあって、防衛費が国の財政の約25%を占め、これに対外債務などの国の借金が約45%の重圧となっている。つまり国防と借金返済だけで国の歳出の70%にもなっているのだ。従って、例えば次代を教育する予算すら確保できない状況にある。

〈貧しい教育〉

私はたまたまカラチ市内の公立小学校を訪ねる機会があったが、教室はごみにまみれ、机すら満足でない状況に立ちすくんでしまった。カラチのような都会では、公立学校の教師の社会的地位は失業者に次ぐ程度で、教師は長続きしないとの話を後で聞き、私の見た教育現場の荒廃を悲しい思いで思い出した。ある邦人によると、それでも「学校」にゆける子供はまだ幸せの部類で、多くの子供は学校にも行かないで働かされるとのこと。この国の文盲率は公式には75%、カラチのような大都会(人口は1200万人ほどと見込まれている)では多分9割に及ぶだろうとのことである(カラチ首都圏庁の人)。大人の多くが文字すら満足に読めない、書けない国、またそれを放置しておく政治とは一体なんだろうか。

〈たれ流し〉

ラワルピンジやカラチで水質汚濁の状況を見て歩いたが、生活排水も工場排水も、ほとんど無処理のたれ流しであるので、水は汚れ放題である。カラチの新規の工場地帯も訪ねたが処理というものをしていないので、排水は真っ黒である。案内してくれた環境担当者に規制なり処分なりはできないのかとたずねても、政治的経済的に不可能とのことであった。この汚れ川はすぐに湾に注いでいる。そこではエビ、カニなどの海産物の名所であるが、知識のある現地の人は、そこの魚介類は危なくて食べられないと言っていた。この他に水汚染による地下水など貴重な水資源への打撃は計り知れない。

〈停電、盗電、水買い〉

途上国では、電気が足りなくて計画的に停電するところはよくあるが、この国のは、その程度を超えたものになりつつあるようだ。カラチ市の場合、最近では、ほとんど毎日、しかも突然で、5~6時間続くこともざらという。この理由の一つに、人が勝手に電気を盗むことから配電が思うようにできないとのことである。金持ちの家やホテル、高級レストランなどでは自家発電装置を備えてあるから何とかしのげるが、普通の市民の生活は、いくら慣れているとはいえ苦しいものであろう。この結果として、水道が出なくなり、水を会社から買わなければならない。主な水源は地下水であり、水質は悪く、市民の間に消化器系の病気はとても多いとのことである。

〈パキスタンに幸あれ〉

こう書いてくると、一生懸命生きようとしているパキスタンのことを悪く書きすぎたかもしれない。しかし、これでも私の見たことの一部を記しただけだが、この辺でもうやめよう。当会の代表として私のできることはこの豊かに見える20世紀末にあっても、途上国の中にはこのような悲劇的な状況が続いていることを会員にも知っていただき、この国の中から、このような苦境を脱する知恵と力が早く出てくることを祈るばかりである。