1998年2月号会報 巻頭言「風」より

利便性と環境の狭間-自販機を考える(1)

加藤 三郎


昨年の全国交流大会の報告(12月号)と先月号の支部・部会だよりで紹介しているのでお気づきの方も多いと思うが、昨年6月設けられた本会の「制度部会」は、自動販売機問題に焦点をあて、多面的に取り組み始めている。

まちのいたるところに置かれており、それなりに便利に使っている自販機は、今やわれわれの快適な生活の一部となっている。ジュースやビール、たばこや食品、さらには、下着やポルノ類に至るまで実に30種類近く様々なものがある。その自販機を「制度部会」が取り上げて検討していると聞けば、一体どういうことなの、なぜ自販機なのかなど、不可解に思われる方もおられるかもしれない。しかし現在10名ほどの当部会の面々は、私も含めて大マジメなのである。

理由はいろいろあるが、一口で言えば、20世紀文明の重要な特徴である機器の利便性とそれが不可避的に有する環境へのインパクトとを比較考量し、その間のバランスをとろうとする問題としては恰好の題材と考えるに至ったからである。

おそらく人は「制度部会」の検討課題として取り上げるなら、例えば温暖化対策にからめて炭素税とか、ごみ税などを含む環境税のような税制の問題、あるいは機器(科学技術)の利便性と環境保護のバランスを言うのなら、車社会や原子力発電などに伴う諸問題を取り上げるべきと思うかもしれない。実際、グループメンバーはそのようなことも視野に入れて検討を開始したが、身近に存在し、それなりに環境と深い係わりは持っているにもかかわらず制度的取り組みがあまりなされていない自販機、特に飲料自販機にまず注目し、多くの会員の参加も誘って多面的にこの問題を検討することとしたのである。

飲料自販機の利便性・快適性を言えば、例えば寒い冬にバスや列車をこごえながら待つ間にも、温かいコーヒーを110円ほどで入手し、心身ともに温められることができる。24時間稼動しているので、夜間族には殊のほか便利であろう。自販機を設置する事業所や個人の側でも、人件費の節約、閉店後も客の取り込み、さらに自販機を自社製品の広告塔にすることもできる。

その一方で問題点もいくつもある。利便性とのひきかえとしての電力の消費である。平均的大きさの自販機は平均的家庭の約8割分の電力を消費している。全国に約260万台あり、しかも密集している。制度部会の会員が川崎市のある典型的な住宅街を自転車で隈無く調査したところ、約71.2m四方に1台の割であることが判った。

街並みの景観や交通阻害、倒壊などの危険性も問題だ。ホテル、病院、駅、市役所などの事業所内に設置してあるのも多いが、歩道などわざと目につくところに置いてあるものが大変多い。しかも、会社や製品の広告塔代わりをさせているものが最近目立つ。

実は今回の日米ハワイセミナーで私は、この自販機問題を取り上げ、スライドで日本の現状を見せアメリカ側の反応を探った。私が意見を求めた人はすべて「ショックだ」ということで、口々にアメリカでは屋内で目立たないように置くことはできるが、街頭で日本のような形でさらすことは考えられず法令で規制されているとのことであった。現にホノルルでは街頭の飲料自販機は一台も見かけなかった。

そのほか空カンの取扱い、青少年の心身への影響などいろいろあるが、「制度部会」としては、これを単に弾劾すればことすむと考えているわけではない。自販機が有している利便性と環境などとのバランスを制度上どうとるかこれが核心である。多くの会員から知恵をお寄せいただくことを期待している。(「制度部会」ではさらに検討を重ね、本誌の4、5月号で本件を多角的に取り上げる。)