1998年3月号会報 巻頭言「風」より

今回もハワイは深かった

加藤 三郎


前からの会員はご記憶のことと思うが、2年前に本会がハワイで開催した持続可能な生活に関する第1回日米合同セミナーの模様を本誌が特集(Vol.4 No.2)した際に、私は本欄で「ハワイは深かった」と題して、思いもかけずに体験した深い感動をつづった後、次のようにしめくくっている。「この地に来て、改めて、20世紀の大量生産・消費の文明が、ハワイだけでなく日本もアメリカもアジアの国々の環境や文化をいかに変質させ、持続性を損なってしまったか、そしてそれを回復することがいかに苦難に満ちたものであるかを思い知らされたのである」と。

今回の第2回日米合同ハワイセミナーにおいても、持続可能な生活とは何か、西欧文明に端を発する物質文明がわれわれの伝統的生活をいかに変質したかについて、再び深いものを見せていただき、考えさせていただくこととなった。それはアメリカ側主催者であるスーザン・マーコット女史やハワイ大学海洋学部長のバリー・ラレイ先生の英知ある計らいにより、丸一日の見学先に最先端の学術フィールドだけでなく、ハワイ原住民が伝統的生活や文化を継承してゆくうえで極めて大切にしてきたコミュニティも加え、米側参加者には、ノーベル物理学賞受賞者のケンダールMIT教授に代表される知性のほか、環境に配慮したリゾート経営を実践している若き実業家、宗教関係者さらにハワイアン・コミュニティ活動家や米本土のインディアンを自称する森林管理者など多彩な顔ぶれがそろったことがまず大きい。それに加えて、日本からの参加者も、アメリカ側に負けず劣らず著名な学者、研究者を含む様々な分野での実践者が参加し、会議にはきわめて柔軟に参加し反応していたので、文字通り、日米の参加者が一体となって、およそ持続可能な生活とは何か、そのためには何が大切であるかなどにつ いて自由に意見を交換し、そして共感し合えたと思うからである。

私自身について言えば、今回は殊の外、ハワイ原住民やインディアンの間で長い間維持されてきたというよりは必死に護り伝えようとしてきた伝統文化と近代の物質文明との鋭い交差や葛藤が未だ終わっていない、いや規模は小さくとも激しい戦闘が物質文明や市場経済万能と思われるアメリカにおいて今もって戦われていることに名状しがたい感銘を受けた。

あえて言えば、ハワイとは、多くの現代日本人にとっては、ハネムーン、ゴルフ、サーフィン、ショッピングなどに代表される享楽的リゾート地であるが、この地でキャプテン・クックによってもたらされた西洋文明とポリネシアの伝統文明とが数世紀を経て未だに激しく戦われていること、そしてその戦いは、実は、ハワイだけの特殊な問題ではなく、日本やアメリカ本土を含め、世界のほとんどの土地で、20世紀型の物質文明とは何であったか、そのなかで持続性を求めることとは何か、伝統社会や伝統文明は21世紀にかけてわれわれの行くべき道を照らしてくれる光明たりうるか否かを真剣に問い、答える戦いでもあることが改めて明瞭に見えてくる会合でもあった。