1998年11月号会報 巻頭言「風」より

「緑の党」の今後に注視

加藤 三郎


9月末に実施されたドイツの総選挙で社会民主党(SPD)が大躍進した。政策協議を経て、10月27日に90年同盟・緑の党(以下単に「緑の党」)と連立してシュレーダー政権が樹立され、16年間続いたコール政権に替わった。フランスやイギリスで先行した社会民主党系政権がドイツでも発足し、ヨーロッパはさらに少しだけ「左傾」したと伝えられている。

ここで特に注目されたのは、1970年代末から平和、反原子力、女性の権利伸張などを強く主張し続けてきた「緑の党」の入閣である。ドイツの16人の閣僚のうち副首相兼外相、環境相及び保健相の3大臣(うち1人は女性)が緑の党から出たことである。彼等のこれまでのラディカルな主張がドイツの政権を担う現実の重みのなかで、どのように試され、展開をとげて新しい政治の地平を拓いてゆけるのか、あるいは現実との無原則な妥協を重ねて失望と混乱をもたらすのか、それとも不毛な原則論への固執のなかで現実との対応方向を見失ってついえてゆくのか、ドイツ国民だけでなく、ヨーロッパの人々、そして日本を含む世界中の環境関係者が固唾を呑んで注視しているといっても過言ではあるまい。

私自身は、95年9月にドイツ「緑の党」創設者の1人であるリッペルト議員にお目にかかり、緑の党の政策について伺う機会があった。丁度、議会開催中で忙しいなかであったが、議場に戻る時間も忘れて1時間半位の時間を議会食堂の片隅で割いてくれた。ボサボサの髪をかきあげる度に飛び散るフケと早口の英語に私はいささか閉口しながらもノートを取った。彼が強調したのは、従来のエコロジー(環境)に加えてエコノミー(経済)にも力を入れ、環境税など経済的手法により、環境政策を遂行しようということであった。

昨年5月、ヨーロッパの環境NGOを調査した際にも、私はフランスとドイツの「緑の党」幹部にインタビューしている。リッペルト議員の時と同様に、経済と環境の統合を強調したことと、ヨーロッパにおけるグリーン・ポリティックスの将来に楽観的であるのが印象的であった。

さて、日本の場合はどうか。先の参院選で「環境主義」を掲げて戦ったさきがけは、失速しほとんど消えてしまった。今は、公明、自民の両党間では、数兆円の「商品券ばらまき政治」が協議されている有様だ。このような状況下では環境を大切にする政治が力を持つのをしばらくは期待できぬが、やがてそれも出てくるに違いない。そのためには、我々国民一人ひとりが、21世紀にかけて何が大切かを常に問い直していなければいけない。私にとってその答えは、「経済と環境とが統合された循環社会づくり」ということになる。

人によって答えは違うだろうが、21世紀の課題について自問自答を重ねながら投票活動に反映させていくしかない。それが日本の政治のグリーン化、つまり国民が子や孫の代の生活や環境を安心して託するに足る政党や強力な政治家の出現につながると考えるからである。