1999年11月号会報 巻頭言「風」より

日本の未来に役立つNPO法人へ

加藤 三郎


私事にわたって恐縮であるが、この会報が皆様のお手元に届くころには、私は60才。つまり還暦を迎える。気持ちのうえでは、まだまだ3、40の若造のつもりでいるが、年の数は着実に重ねて、人生の大きな節目を越すことになる。多くの先輩たちもそうであったろうと思うが、私も感慨なしとはしないのである。

第二次世界大戦がヨーロッパで勃発した直後の11月、福島県の貧しい山村出身の父と愛知県の漁村出身の母の間の末子として私は東京の下町で生まれた。以来、今日まで喜びや悲しみ、楽しみや苦しみ、得意や失意、誉や恥などを人並みに沢山味わってきたと思っている。しかし、日本や世界で多くの人が戦火や圧政あるいは事故や自然災害などで苦難にあえぎ、不慮や不条理な死を遂げているこの20世紀の現状を思うと、私の場合は、多少の波風はあったにしても、21,900日ほどをほぼ平穏に元気に生きてこれた幸せをかみしめている。これも先輩・友人はもとより、多数の見ず知らずの方々からいただいた教え、支えや厚意などがあったればこそと深謝している。

6年余前から会員の皆様と一緒に任意団体として活動を開始した「考える会」も、10月20日には「特定非営利活動法人(NPO法人)環境文明21」として登記などの手続きをすべて完了し正式に発足した。丁度そんな時に、還暦という人生の大切な節目を迎えられたことを素直に喜んでいる。残りの人生に私がすべきことは、ただひたすら社会の持続的発展、つまり一世紀ももたない大量生産・大量消費を基とする社会・経済システムから環境負荷の少ない循環を基調とする社会システムへの転換にNGO/NPOとして頑張り、日本の、いや世界の選択肢をもう一つ拡げることにお役に立つことだと考えている。

このような思いは、本会設立の当初から基本的には変わっていないが、一、二年前から、私にとってもう一つの意味が加わった。それはNGO/NPOの力を伸ばして、これまで主として政・官・産・学の四極の結合を中心にしてきた日本のパワー構造を変えねばという思いである。

ドイツ、アメリカ、イギリス、デンマークなどのNGOが社会のなかでどのように位置づけられ、どのような働きを積極的にこなしているかを現地で見聞きするにつけ、そしてまた日本の社会が政・官・産・学の癒着とも言える自縄状態から抜け出られない行き詰まりの姿を見るにつけ(図1)、このような思いは深まった。さらに言えば、私自身の官僚生活を自省的、批判的に振り返ることができるだけの時間を経たことも影響しているかと思う。

もちろんNGO/NPOが日本社会を活性化し、調整的役割を果たすためには(図2)、まず何よりも私たち自身が力をつける努力を組織的、継続的にしなければならない。具体的には、少なくとも次の5点ぐらいはしっかり持っていなければならない。それは、①辿り着くべき社会についてのビジョンとNGOとしての明確な活動目的、②自立の精神と健全な資金基盤、③柔軟なアプローチ、④政策形成能力、⑤社会との対話(コミュニケーション)能力である。

このようなことがNGO側で可能になるためには社会からの支援もまた必要だ。この9月、オックスフォード委員会出席のあと、イギリスのNGOを訪れ、その活動状況調査をしたときに、登録されたNGOに対しては、税制上の優遇措置はもちろん、家賃や電話代まで手厚い資金的支援があると知って、日本の現状と比べてあまりの差に一度はびっくりした。しかし、よく考えてみれば日本では、金融システムがおかしくなれば、60兆円もの公的資金を用意し、実際に相当額の支援を銀行にしている現実を思えば、NPOへの支援ぐらい何でもない筈とすぐに納得された。つまり日本では銀行ですら税金を使って救うのなら、NPOへの支援もまた日本の将来の活性化のためには大いに役立つと思うのは私だけではなかろう。

なにはともあれ、私は60才。NPO法人として新たなスタートを開始した環境文明21ともども、いたわりつつ育ててほしいと会員の皆様に心よりお願いする。