1999年12月号会報 巻頭言「風」より

明暗こもごも年の暮れ

加藤 三郎


本誌が会員のお手元に届く頃には、千年紀の最後の年が間もなく幕を閉じ、20世紀最後の年が始まろうとしている頃であろう。世は今、文字通りの世紀末の冬景色(とはいっても、今年もこれまでのところ異様な暖冬であるが)のただ中にいる。確かに99年には様々な不幸な出来事が相次いだ反面、「環境の世紀」と見られる新しい時代への期待も交差する時にあった。そんな年の瀬に明暗こもごも混じったこの一年を振り返ってみるのも意味あることであろう。

まずは、「暗」の側面から見てみると、環境面はもとより政治的にも経済的にも社会的にも材料には事欠かない。私にとって特に気がかりなのは、小渕内閣になってから、そこのけそこのけ「景気」が通る、といわんばかりの短期的な利害にウェイトを置いた「景気浮揚一色」となり、97年12月の京都議定書が求める、日本の経済構造の転換や政策のプライオリティの切り替えには、ほとんど踏み出していないことである。

政治として経済に配慮するのは当然であろうが、その経済への配慮や施策が一時しのぎの単なるバラマキでなく、21世紀に活きてくるハードとソフトの基盤づくりに転化してこそ政治家らしい知恵というものだ。それなのに、財政再建は放り投げて、相変わらずの縦割り発想を基本的には超えることができずにいることが残念でならないのである。ただ、よく見ると、従来の政策の延長上にあるものに多少の色を付け、それなりの配慮のあとも認められるが、21世紀に求められるエネルギー政策、税制、財政、教育などには、まともに手をつけようとしていない。

このような状況は、与野党を問わず他の政党も大なり小なり似た立場にあるように見える。また不況、リストラなどに苦しむ国民も中長期的な視点から、自らに痛みを伴う政治の大手術を求めてはおらず、短期的な景気や雇用状況に一喜一憂するにとどまっているように思われる。

文字通りの閉塞状況の中で、温暖化に伴う異常気象現象だけでなく、化学物質による心身の汚染、廃棄物処分場の逼迫などは今年も不気味に進行した。世界的にも、様々な地域でのいろいろな取り組みや努力にも関わらず、人口増加の圧力や物質的な豊かさへの飽くなき追求などもあって、大気、水、土壌、生物などに関する各種の地球環境指標はほとんど確実に悪化しつづけていることは、本年に出版された国連の環境庁(UNEP)の地球白書でも明らかだ。また、国連(UNDP)の最近の統計によると、南北間の貧富の差は拡大しつづけており、北の先進国にいる約12億人ほどが地球の富の85%程度を消費しているのに対し、人類社会の最底辺にいる約13億人は、1日1ドル以下(年収にして4万円以下)で生活しているという。環境破壊とこのような不公平の拡大を放置しておけば、地球に紛争は絶えず、21世紀の人類社会は、泥沼にもがき苦しむことになりはせぬかとの心配は大きくなるばかりだ。

このように暗い側面が色濃いなかにあって、将来に希望を託せる法律などを沢山成立させたのも小渕内閣である。私はかねてから、「環境問題」を日本の政治の真ん中で議論すべきで、そのためには、環境税の導入とともに憲法に環境条項を入れるべきだと主張してきたが、やっと国会法が改正され、衆参の調査会で憲法がまともに議論されるようになった。ここで「環境」が正面から取り上げられることを強く期待している。

一方、環境税の方は、まだまだ本格的な動きは見られないが、自動車関連税のグリーン化論議がやっと動き始めた。しかし、本稿執筆時点ではグリーン化税制は来年には実現化しそうもない状況と報じられているが、今回の動きがやがて大きな波になることが期待できる。

本年に成立した法律のなかには、日本の行政の骨格を大きく変化させ、将来に希望を持たせるものが多数あることに注目したい。まず「行政機関の保有する情報の一層の公開を図り、政府の諸活動を国民に説明する責務が全うされるようにするとともに、国民の的確な理解と批判の下にある公正で民主的な行政の推進に資する」ことを目的に制定された情報公開法。国と地方とをこれまでのような上下関係から「対等」の関係に規定する地方分権推進法。国会の審議を政治家本位の審議で活性化する国会法の改正。中央省庁組織の改革に関する一連の法律の制定。民間資金、経営能力や技術的能力を活用した公共施設の整備等を促進する法律(PFI法)の制定。さらに男女の共同参画を促す基本法の制定や新農業基本法とも略称される食料・農業・農村基本法の制定も食や農をとりまく環境を大きく変えるのに力を出すであろう。

環境分野についても、昨98年に成立した地球温暖化対策推進法が施行され、日本の全国地球温暖化防止推進センターも動き出した。数百に及ぶ特定化学物質の環境への排出量の把握や管理の改善を促す法律(PRTR法)の制定は、議員立法により制定されたダイオキシン類対策特別措置法とともに、わが国の化学物質の管理を一段と強化することを期待できる。

法律の名前が沢山並んでしまったが、今年の国会で、日本の将来に希望を託せる極めて重要なシステムも多数法制化されたということも再認識していただきたかっただけである。問題は、仏作って魂が入らない状況にしないよう、私たち一人ひとりがそれぞれの立場で、新たに制定化されたシステムが十分に活用されるよう監視するだけでなく頑張るしかない、そんなことを考えさせられた年の暮れでもある。