2024年5月号会報 巻頭言「風」より
「憲法に環境・持続性原則を」の提案を忘れないために
藤村 コノヱ
長年当会の活動をご支援下さる皆様は、当会が、全ての政策の大元になる日本国憲法に“環境・持続性原則の導入を”という活動を続けていることはご承知のことと思います。
憲法記念日にあたり、改めてその活動を振り返ると、それは、現在の憲法には“環境”の「か」の字もないことから、これからの時代を考えれば、それはありえないという加藤顧問(当時は代表)の発想から出発したものでした。この活動を始めるにあたり、最初に行ったのは、会員アンケートで(2004年4月)、この活動の是非を問いましたが、結果として「憲法改正を市民レベルで議論すること」に対して賛成が96%(64票)、反対が3%(2票)。賛成の理由として、「社会・経済状況が時代と共に大きく変化したから」「市民生活に極めて重大な影響を与えるものは、市民こそがその議論に参加すべき」という回答が大半をしめました。大方の賛同を得たことから、この問題に関心のある会員を中心とした憲法部会を立ち上げ(2004年7月)、議論を重ねて、2005年1月に、環境の脅威のみならず貧困や格差拡大など社会の持続性が重要な課題となる今世紀においては、あらゆる生命の基盤である環境の保全が重要であることから、日本国憲法の大原則「主権在民(国民主権)」「戦争の放棄(平和主義)」「基本的人権の尊重」に、もう一つの柱を加えること、すなわち、「日本国憲法に環境条項を盛り込む提案」を第一次案として発表しました。その後も、会員だけでなく国会議員や研究者も交えたシンポジウムや勉強会を継続し、その都度内容にも変更を加え、2019年に『日本国憲法に「環境(持続性)原則」を追加する提案』として第五次案を公表しました。
その一方で、国では、日本国憲法について広範かつ総合的に調査を行う「憲法調査会」に代わって、2007(H19)年からは「憲法審査会」が衆参各議院の常設機関として設置され、主に憲法改正国民投票法案に係る議論が続けられてきました。しかし、当会が提案した環境や持続性に係る議論は全く見られず、また安倍内閣における憲法改正議論には危険性も感じたこともあり、当会の活動も、関心のありそうな議員(例えば、石破茂議員や小渕優子議員など)に直接面会して働きかけたり、第五次案を送付するなどに留まっていました。
しかし、その間にも環境の悪化は進み社会の持続性も失われつつあります。そして「人類は地獄の門を開けた」とグテーレス国連事務総長が警告するほど気候危機が切迫する状況でも、日本政府の対応は、CO2の削減目標は低いままであり、CO2の大量発生源である石炭火力発電所の延命や地震国日本での原発の再稼働や小型原発の開発を進めようとするなど、世界からも批判される政策が続いています。
現在環境省では第6次環境基本計画の改定を進めていますが、その内容は、以前と変わらず経済成長を目的としたものであり、政府内で唯一「環境価値」を主張すべき立場にある環境省の計画としては物足りなさを感じます。また経産省では第7次エネルギー基本計画の見直しが進められようとしていますが、ここでも石炭火力延命のために、CO2削減効果の極めて低い水素・アンモニア混焼や原発推進など、環境や持続性に逆行する政策が目立ちます。しかし残念ながら、環境基本計画(環境基本法でも)では、脱炭素に逆行する経産省の政策に歯止めをかけることはできません。
一方憲法は、国民の権利・自由を守るために、国がやってはいけないこと(またはやるべきこと)について国民が定めた最高法規であり、ここに環境・持続性原則が入ることで、全ての法律や政策にもこの原則が適応され、それに反する法律や政策は阻止することができるはずです。
現在、当会も含め、様々なNPOが環境基本計画やエネルギー基本計画に対して、多くの意見を提出しており、それ自体は市民参加の意味ではとても大切な事ですが、憲法に環境・持続性原則を入れるという当会の提案には、9条との関係を危惧してか、なかなか賛同が得られません。ただ、環境や持続性に逆行するような法律や政策を阻止するには、最高法規である憲法に環境・持続性原則を入れることが効果的という観点から、もう少し当会の提案に対しても関心をもってほしいと思うのです。 私たちの提案は、あくまで加憲であり、次頁に示すように、前文にも、あらゆる生命の基盤である“環境”の明記を提案しています。加えて、現行憲法の第二章「戦争の放棄」と、第三章「国民の権利及び義務」の間に、「第三章 環境」を新たに挿入することを提案しています。特に、三の一条(権利と義務)では、環境の恵みを享受する権利だけを主張するのではなく、将来世代に健全で恵み豊かな環境を継承する義務があることを明記するものです。また三の二条(国の責務と国民の参加)では、環境やエネルギー政策など国民生活に密接な政策の立案や実施の過程では、国民の参画を保障するといった、ごく当たり前の権利を憲法でも明記することを求めています。さらに三の三条(予防原則)では、例え科学的知見が不確実であっても、人や生態系に重大な影響を及ぼす恐れがある行為や技術に対しては、人としての倫理観と想像力を働かせ未然に防止する予防原則を守ることを求めています。
こうしてみると、私たちの提案はごく当たり前の主張であり、他国の憲法の中ではすでに盛り込まれている内容が殆どです。
平和憲法さえも蔑ろにされそうな昨今の政治状況の中で、環境・持続性などの加憲の立場で議論を盛り上げることは容易ではありません。それでも持続可能な環境文明社会を築いていくために、必須の議論であることを忘れず、そうした場を年に一度でも開催したいと、5月の憲法記念日にあたって思っているところです。