2024年8月号会報 巻頭言「風」より
ニュージーランド訪問
杉浦淳吉
先の7月上旬、国際シミュレーション&ゲーミング学会(ISAGA 2024)に出席するため、ニュージーランド(以下、NZ)のクライストチャーチに6日間滞在してきました。この時期の南半球は冬で、日本とのギャップにどう対処するかが最初の課題でした。
南半球に行くこと自体が初めてで、出発前に私が担当する大学のある講義では、出張先と出張目的を学生に紹介し、季節が真逆の地域に出かける際の工夫について投げかけてみました。講義後のコメントをみると、 6人の学生がこの話題でコメントを書いてくれていたのですが、そのうちの4人は私がオーストラリアに出かけるかのような内容だったのです。私は一言もオーストラリアとは言っていなかったのに、です。別のある方には、NZに出張するため、その期間は連絡が取りづらくなるかもしれないと事前にお伝えしていたのですが、会期中にいただいたメールには「今、オーストラリアでしょうか?」と書かれていました。同様のことは他にもありました。
これは自戒を込めて書くのですが、私たちはそれくらいNZのことを知らないのではないかと思い至りました(詳しい方がおられたら、ぜひご教示ください)。心理学では関連あるいくつもの事柄が記憶のネットワークで繋がっているというように捉えます。地理的に近い、そして地図の上で大きな大陸として認識されるオーストラリアと同じカテゴリーで認識されることは、その点では合理的なことでもあるのです。
NZはオーストラリアと同様に英語が公用語の一つですが、イギリスの植民地になる前から住んでいた人々の言葉、マオリ語も使われています。学会のオープニングでは、マオリ語による挨拶がありました。私が所属する文学部社会学専攻には文化人類学が専門の同僚がいますが、そんな基礎的なことも知らないのかと呆れられるのではないかと思ったほど、NZという国の経緯を知らなかったことを認識すると同時に、大いにこの国に対して興味が湧いてきました。
さて、NZの玄関口、オークランド空港では入国のための審査があります。乗り継ぎがあるのですが、検疫のためにこの空港で預けた荷物もいったん受け取ります。検疫に関しても機内で配布される専用の用紙以外にアプリでもできます。そこには一切の食べ物や薬などを持ち込まないという宣言をする必要がありました。持ち込むとなれば厳しい検疫を受けなくてはなりません。機内で食事と一緒に出されたスナックをとっておいたのですが、それも諦めました。学会に参加する共同研究者は、持病の処方薬のための英語の説明書を用意するなど、大変そうでした。
無事入国を済ませ、目的地のクライストチャーチへの便に乗り継ぎます。窓際の席で、1時間半の所要時間の間、NZの北島から南島まで、その美しい国土を眺めることができました。尖った山が連なり高い山には雪が積もる、日本で言えば北アルプスのような形態の山々や富士山のような山も見られ、この環太平洋の火山の島の美しさに感銘を受けました。自然を守るために検疫が厳しいことも納得がいきました。
学会のオープニングの際には、地震が発生した際にどう対処したらよいか、というアナウンスがありました。工学系の参加者によれば、開催されたカンタベリー大学の建物は高度な耐震性があるような設計になっているそうです。
今回の学会は、その性格上、コミュニケーションをデザインすることも重要な課題の一つであり、口頭発表のセッションでは、発表後に小グループでセッションの内容を討議し、共有するという取組もありました。私は本年2月号の本欄で紹介した「化学反応ゲーム」をポスター発表しました。ポスター前で参加者にカードを手渡し、ゲームのデモンストレーションも行いました。結果としてベストポスター賞をいただくことができ、大変光栄でした。比較的小規模な学会ですが、それ故に参加者同志の討論にも熱が入ります。5日間の会期中、ホテルの朝食会場から寝るまでの間、各国からの方々と対面して時間を過ごしました。
学会会場と宿泊したホテルとは少し離れたところにあり、4人ぐらいで乗り合わせてウーバー(ライドシェアリングサービス)を利用しました。スマートフォンのアプリで行き先を入力すると、すぐに車が手配され、車種とナンバーが通知されます。何度も利用したのですが、そのほとんどの車種がトヨタのプリウスでした。運転手さんに尋ねてみるとNZでは日本の中古車の人気が高いようで、日本語のナビゲーターが搭載されている車もありました。日本の気候変動政策に批判的な方々からはプリウスなどは批判の槍玉に挙げられるところですが、NZでこうして活躍しています。しかし問題はそこではありません。「環境に配慮した車」として日本で使われていた車が、まだ十分使えるのに、ここNZで立派に活躍していることに、少なからずショックを受けました。まだ十分乗れる日本の車がNZの中古車市場に出てきているのですから。
スーパーマーケットに足を運んでみると、NZ産の食料事情を垣間見ることもできます。為替レートで日本円に換算すると全体的に高い印象ですが、羊や牛肉は相対的に安価でした。特に私が注目したのはワインの棚です。非常に多くの種類のワインが並べられているのですが、ほとんどがNZ産で豪州のものも割と置いてありますが、欧州のワインの種類は驚くほど少ないのです。自国で生産された食料が豊富に存在していることが短い滞在の間に伝わってきました。
書ききれないことがたくさんありますが、異文化への出会いは自分にとって当たり前の文化を映す鏡だと改めて実感できたことが伝われば幸いです。