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  • 平成13年度(2001年度)「「道路特定財源見直し」に対する緊急声明」

「道路特定財源見直し」に対する緊急声明

私たちNPO法人環境文明21では、過去2年間に日本のクルマ社会―自動車に過度に依存した社会―が抱える環境問題を調査研究してきました。

この度、小泉純一郎内閣が「道路特定財源を見直し、一般財源化する」と表明したことに対し、党内や自動車関連業界などから少なからぬ抵抗があると報ぜられています。しかし、私たちは道路特定財源の見直しを強く支持します。そして、見直しによって税収の使途の一部を少なくとも、安全な歩道や自転車道への重点的投資、物流の鉄道・船舶へのモーダルシフト推進、公共交通の充実、新技術の開発を含む自動車公害対策など自動車に過度に依存した社会の是正のために活用することを強く求めます。さらに、見直し案の一つとして、揮発油税や自動車重量税の暫定税率を廃止して本来の税率に戻した上での環境税の創設案も報道されていますが、この考え方についても強く支持します。

道路特定財源見直し論に対する反論として、「道路以外の整備に転用すれば、『受益と負担の関係』を壊す」というものがあります。しかし、現状において受益と負担は一致していません。自動車走行による大気汚染、騒音・振動、さらに地球温暖化など環境の悪化分、歩行者空間が侵害された分、そして何より交通事故によって失われた人の健康や命などの社会的費用を、自動車利用者が応分に負担していないのは明らかです。むしろ、区画道路その他の自動車用設備の建設には一般財源も投入されており、自動車利用者の受益は負担よりもはるかに大きいのが現実です。そんな状態が長く続いているにもかかわらず、「受益と負担の一致」を言うならば、それは詭弁であると私たちは考えます。

「見直すなら暫定税率の廃止を」という主張についても、先ほどの受益と負担の関係を考慮すれば的のはずれた議論であり、暫定税率の廃止は、社会的費用の大きな自動車の利用をますます助長することになります。自動車利用を適正な量に抑制し、公共交通機関との公正な競争を維持するためにも現在以上の税率を維持し、揮発油税に自動車利用量の調整機能と環境対策等の社会的費用の負担機能を持たせるべきです。

日本では、道路に潤沢な資金が充てられつづけている一方で、公共交通に対する補助は少なく、原則として運賃収入だけでの独立採算による厳しい経営を迫られています。都市部のバスや電車はすし詰め状態、地方では赤字ローカル線の切り捨てが進んで、ますます公共交通をやめてクルマの個人所有へと進まざるを得ない社会となっています。また、道路に充てられるといっても、クルマ優先の道路ばかりで、安全に利用できる歩道や自転車道路はほとんど見当たりません。そのような日本の交通事情に対して、最近では「クルマを持つ者と持たない者が平等なモビリティを得られる社会」にすべきだという考え方が出てきています。自動車にかかる税収は、まさにこのような状況を改善するためにこそ手厚く使われるべきであると、私たちは考えます。

以上のような理由から、私たちは道路特定財源の大胆な見直しを支持し、それによる自動車に過度に依存した社会の是正と環境対策の一層の進展を求めます。

2001年6月1日
NPO法人環境文明21
代表理事  加藤 三郎