日本の文化と自然を見つめ直すin屋久島
(2001年5月3日~6日)

かんの会エコツアーin屋久島

会報「環境と文明」2001年7月号より転載

屋久島紀行

田中 慎一

「日本の自然と文化を見つめ直す」という「かんの会」今年のテーマに基づき、世界遺産を見てみたいという会員の有志で、2001年5/3~5/6の日程で屋久島に行ってきました。

屋久島の雨の多さを、林芙美子は著書『浮雲』で、「一月に35日雨が降る」と表現しています。

この雨が縄文杉をはじめとする巨大な屋久杉を育てたことを実感してきました。

屋久杉を見るために、淀川小屋登山口から花之江河、ヤクスギランドへ行きました。淀川小屋登山口から花之江河は宮之浦岳への登山ルートにあたります。ヤクスギランドは昔の屋久杉の伐採跡地(今は屋久杉の伐採は行われていません)で、屋久杉の森を見るための遊歩道が整備された自然公園です。屋久島の木は深い苔に覆われていて、その苔が他の多くの植物を育てる土壌になっていました。大量の雨が苔を育て、その苔の土壌が屋久杉など多くの植物を育てているそうです。

屋久島の海を見てみたいというのが、私にとって今回の旅の一番の目的でした。屋久島は、山のてっぺんは北海道、海の中は沖縄という話を聞いていました。日本アルプスや北海道の大雪の山を思いおこすような宮之浦岳は見ているので、今度はサンゴ礁の海を見てみたかったのです。

現地のダイブショップの案内で、屋久島の北側の元浦で潜りました。海の中は10~15メートルの透明度で、水深2~4メートルのあたりにサンゴ礁がひろがっており、クマノミ、ツノダシといった南の海のカラフルな魚から、ボラのような相模湾や伊豆でみられる魚まで、浅い海でもたくさんの魚を見ることができました。浅瀬のサンゴ礁という地形のため、イバラカンザシやナマコ、シャコガイといった水底の生き物たちが多く見られました。

特にウミウサギというタカラガイの仲間の貝がサンゴに産卵しているシーンを見ることができたのは感動でした。普段は黒い外套幕に覆われていてとても貝には見えないのですが、危険を感じるとこの外套幕が貝の中に引っ込んでしまいます。その貝の真白できれいなところからウミウサギと呼ばれているのだと思います。妙な動きをしているなと思ったらサンゴの上に卵を産み付けていました。屋久島の海は、話に聞いていたとおり、熱帯のサンゴ礁と温帯域の両方の印象が合わさったような感じがしました。

世界遺産に選ばれたことで屋久島に訪れる方も近年、増えてきたそうです。屋久島は山も海も魅力的なところですで、今回訪れてみて、あらためてそれを感じました。しかし、島に訪れる多くの人が自然に大きな負担をかけているのではないかという心配もあります。縄文杉などの古い木は、周囲を人が歩き回ることによって根に負担がかからないようにロープが張ってあったり、遊歩道が整備されたりしていましたが、山小屋のトイレも、明らかに多くの人が利用しすぎていることで掃除が行き届いておらず、し尿処理も充分に行われているのか疑問です。

屋久島には、多くの人に、機会があったら行って、その自然に触れてみて欲しいと思います。でも、それと同時に、そのままの自然も残し続けていけるように考えていかなければ、とも感じました。限られた時期以外には長い休みを取れないという日本の社会状況は、多くの人が自然の中で遊ぶことを考えると変えていくことを考えてもいいのではないでしょうか。屋久島のような離島の限られた自然環境では負担をかけすぎないように保護地域を指定して、入場制限を考えてみることも必要なのかもしれません。

(たなか しんいち/かんの会メンバー)