環境文明21内の「制度部会」による提案です。
2002年1月11日
持続可能な交通の実現に向けた12項目の提言
NPO法人環境文明21
代表理事 加藤 三郎
私たちNPO法人環境文明21は、過去2年半、日本の交通・環境問題について調査研究を行い、地球温暖化や大気汚染、交通事故などの諸問題をかかえる持続可能でないクルマ社会―自動車に過度に依存した社会―を転換するための方策を検討してきました。ここにその成果を「持続可能な交通の実現に向けた12項目の提言」としてまとめ、関係行政機関、自治体、自動車・交通運輸関連産業、そして市民に対して訴えると共に、広く働きかけます。
なお、本年1月15・16日にわが国において、『交通に関する大臣会合~環境にやさしい交通の実現に向けて~』が開催されますが、そこでの議論に、私たちの提言も反映されることを強く望みます。
Ⅰ. 自動車からの環境負荷の総量削減
1. 効果的な経済的手法の導入
持続可能な交通システムの構築に資する、より効果的な経済的手法の導入を求めます。
私たちは、環境税導入の糸口になるであろうという観点から、2000年度から導入された自動車税および自動車取得税のグリーン化を評価します。しかし、現行のグリーン税制は、重量別に基準が定められているため、排気量が大きく、環境負荷が大きな重い車でも軽課される仕組みになっています。よって、次のことを政府に求めます。
- 車種別に、全車の平均燃費より悪い車は重課、良い車は軽課とする。
- 軽課による軽減額を上げ、重課をより厳しくする。
2.企業平均燃費規制の強化
車両の企業平均燃費規制が、より実質的かつ効果的に機能するような仕組みづくりをすべきです。
改正省エネルギー法(1999年4月)に基づいて導入された企業平均燃費規制は、その目標年が2010年と定められています。しかし、乗用車の平均保有年数は約9年なので、目標が達成出来ても直ちに効果的なCO2削減にはつながらないと考えられます。よって、以下のことを求めます。
- 例えば「2006年中に20%改善」などの中間目標を定め、その達成状況を毎年公表する。
- 米国の企業平均燃費規制のように、目標を達成できなかった場合の罰金制度や課税などの罰則規定を設ける。
- 目標燃費基準を、現行の95年比平均22.8%の燃費改善から、欧州並みの25%に改善する。
3.低公害車導入のための支援施策の見直し
低公害車の利用が、より多くの人々にとって身近になり、環境負荷の軽減が効果的に早急に進むよう、支援施策を見直すべきです。具体的に以下の点での改善を求めます。
- 政府および地方自治体は、低公害車導入のための支援施策として税制上の優遇措置を強化する。ただし、財源の限界や費用対効果、受益者負担の原則などを考慮し、車両購入に対する補助金を段階的に廃止する。
- 低公害車に対しては、高速道路使用料や公共の駐車場料金を割り引くなどの優遇措置を行う。(非低公害車に対しては、料金を割高にする。)
- LPG車は、CO2その他の排出ガス量がCNG車と同程度であり、すでに1,900ヶ所のスタンドが整備されている。よって、LPG車を低公害車に認定する。
Ⅱ. 自動車利用者による費用負担
4.自動車の社会的費用の内部化と道路財源の見直し
むだな道路投資をなくし、自動車利用を適正な量に抑制し、公共交通機関との公正な競争を維持するために、自動車の社会的費用の内部化と道路財源の見直しを求めます。
これまで、道路整備には道路特定財源のみならず一般財源も約4割が投入されてきた上、地方自治体の管理する道路の維持管理費のほとんどが一般財源で賄われてきました。つまり、自動車の利用者はそれに必要な経費を払っていないと言えます。この他にも、自動車利用者は、環境への悪影響、交通事故等の社会的損失を発生させています。これらの費用は、基本的に自動車利用者が払うべきです。一方で、公共交通機関については独立採算制が基本とされています。よって、以下のことを求めます。
- 自動車関連諸税の税率を現状以上に維持し、自動車利用者に道路の整備費・維持管理費に加え、環境対策等の社会的費用を負担させる。またこれにより自動車利用を適正な量に抑制する。
- 短期的には、クルマを利用できない人の交通権を確保するために、赤字の公共交通機関を公的資金で維持する。長期的には、自動車利用と鉄道等公共交通機関の最適な配分が実現される税制、ロードプライシング等の施策を実施する。
Ⅲ. 交通関連規制の強化
5.高速道路の最高速度を全車種時速80キロに
高速道路の最高速度を、以下の観点から全車種80キロにすべきです。これにより、ほとんど費用をかけずにCO2と事故の低減が可能になります。
1) 燃費の向上と環境負荷の軽減
現在の自動車のエンジンは通常、時速60~80キロ付近での燃費が最も良くなるように設計されており、100キロで走行するとその燃費は8割程度に、120キロでは約5割に低下してしまいます。したがって、高速道路の最高速度を全車種時速80キロに制限すれば、車の流れが円滑になるとともに、燃費の最も良い条件近くで運転されることになり、CO2の削減に寄与できることは確実です。
2)事故の低減
大型トラックのスピードリミッター(上限、時速90キロ)の装着の義務付けにより、高速道路での大型トラックによる死亡事故が2~4割低減すると国土交通省が試算しているように、事故の低減にも有効です。
6.免許制度の見直し
交通事故とその累犯の防止を強化するために、免許制度の見直しを求めます。
交通事故のなかでも、死亡事故および重度障害事故の加害者の少なくとも半数は、事故歴のある者であり、つまり累犯者による事故がかなり多いのが現状です。交通心理学者によっても事故を繰り返すドライバーの存在が指摘されており、現にドイツでは、免許取消しの再申請者には運転の適性を証明する書類の提出が義務付けられています。よって、以下の点を求めます。
- 死亡事故および重度障害事故を起こした場合、処分前歴を考慮の上免許取消し基準をより厳しくし、再申請者の全員に、「運転適性診断」と適性の証明、安全運転に関するより本格的な講義の受講を義務付ける。
- 安全運転不適格者には、次に重大事故を起こした場合には免許を再交付しないことを法制化する。
- 重大な処分前歴は免許証への永久記録を義務付け、免許停止および取り消し処分の欠格期間も延長する。
Ⅳ. マイカー以外の代替交通手段の充実
7.歩行者・自転車および公共交通優先の交通行政への転換
自動車を持つ人と持たない人が、移動し、目的地にアクセスする平等な権利を確保できるまちづくりを進めるべきです。
自動車交通偏重の交通施策から歩行者・自転車通行者の安全や公共交通の利用促進を優先する交通行政への転換のために、以下のことを、自治体及び警察に求めます。
- 商店街での公共交通優先とマイカー乗り入れ規制、細街路へのクルマの侵入禁止や通過交通の防止、歩行者優先道路の整備、分離信号の導入推進、ハンプの設置等によるクルマの速度低減措置を講ずる。
- 地域の骨格をなす道路での公共交通機関・複数人乗車専用レーンの設定等による自動車交通量削減のための事業をすすめる。
- 上記事業を、地域住民と協力・連携し、円滑な合意形成を行った上で進める。
次に、自転車の適正な利用の推進を求めます。
自転車は、子供から大人までが利用でき、またCO2や大気汚染物質の排出などによる環境破壊を発生せず、そしてクルマに比べればはるかに死傷事故が少ない乗り物であり、持続可能な交通手段であるからです。そこで、一層の普及のために、以下のことを国及び自治体に求めます。
- オランダをはじめとする欧州諸国の自転車政策を調査し、わが国においても自転車道や駐輪場等のハードインフラを整備する。
- レンタサイクルシステム、自転車利用に際して積極的なインセンティブを与える等、ソフトインフラも整備する。
- 企業は、自動車通勤者から職場の駐車場使用料金を徴収し、公共交通機関の利用者や自転車・徒歩通勤者に(例えば通勤距離4km以上などの下限を決めて)通勤手当てを出す。
8.交通弱者のための交通手段の確保
地域の交通空白・不便地域を解消し、高齢者、障害者、小さい子どもを連れた人をはじめ全ての人が気軽に安全にまちに出られるようにするための手段の一つとして、「コミュニティバスの導入」を自治体は検討する価値があります。コミュニティ(地域社会)内の、既存バスサービスではカバーしきれない地域の人々のモビリティ(移動のしやすさ)の確保のため、市町村をはじめとした自治体が計画立案、初期投資負担、運行収支の赤字への補助金拠出などの形で運行支援するバスサービスを、日本では一般にコミュニティバスと呼んでいます。東京都武蔵野市のムーバスや石川県金沢市のふらっとバスなどが代表例です。
運営面から見ると、利用者(運賃負担)、バス事業者(運行)、自治体(初期投資と運行収支の赤字への補助)の三者で支え合うため、高いレベルのサービスを、独立採算制の枠内で運行しなければならない一般のバスに比べて安価で提供できます。自治体の負担も公営バスの運営より少なくてすみます。
- 自治体は、市民の真のニーズを掴み、本当にお客さんに乗ってもらえるようなシステムとルート設定をするように、住民への聞き取り調査をはじめとした十分な事前調査を行う必要がある。
- 政府は、補助金の一層の充実や自治体への情報提供等によって、自治体によるコミュニティバスなどの導入・運営を後押しする。
9.カーシェアリングの導入推進
カーシェアリングの導入を推進するための制度整備と、その普及啓発を求めます。
欧州ではクルマを共有する試み「カーシェアリング」がすでに社会に定着しており、①限られた都市空間の有効利用、②CO2等の排気ガス減少、③自動車の所有にかかるコストの削減(駐車場、税金、保険など)、④「所有」から「機能を活かす」価値観への転換、などの社会的効果が得られています。
わが国でもカーシェアリングの社会実験が開始されましたが、認知度はまだ十分ではありません。上記の効果が期待されるカーシェアリングを一層普及させるために、以下のことを政府に求めます。
- 社会実験のデータ収集分析を急ぎ、その情報を広く公開する。
- 多様な組織が、各地域に適応したカーシェアリングを導入するのに必要な、法制度およびインフラ整備に対する補助制度の導入。駐車施設、車両購入、システムへの初期投資、公共交通機関と組み合わせた立地への補助などを対象とする。
- 人的支援として、失業対策、身障者雇用、高齢者雇用などの適用事業とする。
Ⅴ. 市民の理解と参画
10.環境に配慮した交通教育と交通手段の選択
環境に配慮した交通行動のための教育の実施と、情報の公開を求めます。
移動は個人の日常的な行動なので、交通手段の選択は、一人一人が環境負荷の軽減に貢献できる大きなポイントです。ところが、交通に関して安全面からの教育はあっても、環境面からの教育はほとんどなされていないのが現状です。また、交通手段を選ぶ際に参考になるように、移動に伴って生じる時間や費用といったコストの他に、環境への負荷も認識する必要があります。こうした状況の改善のために、以下の点を求めます。
- 国、自治体及び企業は、交通情報の提供ツールに「環境負荷」を表示できるものを開発し、市民に利用しやすい形で提供する。
- 小学校低学年からの交通教育を、安全面と同時に、環境の視点から行うことを義務付ける。
- 教習所の教習課程、免許試験場での交通安全講習等の中に、環境の視点からの内容を組み込む(例:排気ガスの健康への影響、アイドリングストップの必要性、各種交通手段の環境負荷、エコドライブ、カーシェアリングの広報など)。
- すべての市民は、交通手段を選択する際に、「より環境負荷を小さく移動する」ことを心がける。
11.持続可能な環境保全型交通に関する普及啓発
国際レベルで展開されている「持続可能な交通」に関する普及啓発と、その実現に向けた制度の整備を求めます。
OECDでは、1994年から「持続可能な環境保全型交通(Environmentally Sustainable Transportation: EST)」に関する議論を開始し、2001年5月には野心的なガイドラインを公表しています。しかし、わが国はOECD加盟国でありながら、このESTについて国民に広く知られていません。よって、以下の点を求めます。
- 政府はESTに関する国民への広報を積極的に進める。
- 多種多様な主体による各地域に適応した持続可能な交通を実現化するためのフォーラムの立ち上げを、情報、場、資金などの提供により補助する。フォーラムは、行政、経済界、学者・研究者、NGO等が横断的に集まり、持続可能な交通のあり方について自由闊達な討議・検討を行うものとし、その情報を広く公開する。
12.交通・都市計画への市民参画の推進
市民の交通・都市計画への参画推進を求めます。また、その一環として、交通・都市計画の策定・実施に当たって説明会の開催や審査会及び市民の意見聴取等の機会を保証する戦略的環境アセスメント(SEA)の早期制度化を求めます。
市民は、①市民同士の、及び交通政策への理解を得るため(合意形成)、②現場を最もよく知り、柔軟なアイディアを持つ住民として(斬新性)、③共に地域のビジョンを作る主体として(責任)、交通・都市計画への参画に携わるべきです。市民参画の推進は、参画がない場合より、長期的に見ればかかる時間も経費も少ないと考えられます。
市民参画は日本各地で見られるようになりましたが、より十分なものとするために、以下の点を制度として法律や条例の中に明文化することを求めます。特に「都市計画法」の中にこれらを明記すべきです。
- 計画作成段階において市民やNGOが発議、意見表明できその内容を検討する。
- 計画作成の早い段階から計画実施後の影響まで、全てのプロセスを情報公開する。
- 情報公開は「複数案の提示」や「計画で予想される効果」など、当該問題に関する情報や様々な代替案の便益と費用に関する情報を含む。
- 市民参画にかかる予算を優先的に確保する。
- モデル都市を選定、実施し、結果をまとめ、広く公開する。