地球サミットから10年~これからの10年のために~
ミニ・ワークショップの概要
- ●日時
- 平成14年5月18日(土)
- ●場所
- 財団法人廃棄物研究財団 会議室
- ●内容
- 話題提供
地球サミットから10年を振り返って
加藤三郎(環境文明21代表)
パネルディスカッション
地球サミットから10年~これからの10年のために~
パネリスト:- 小林 料(東京電力株式会社顧問)
- 瀧田 浩(川崎市総合企画局長)
- 土屋真美子(よこはま里山研究所)
- 荒田鉄二(環境文明21主任研究員)
- 藤村コノヱ(環境文明21専務理事)
報告
5月18日(土)午後、財団法人廃棄物研究財団にて、本誌2月号~5月号のまとめをかねて開催したミニ・ワークショップには、非会員を含む約40名が参加した。当会代表の加藤三郎による話題提供の後、「地球サミットから10年~これからの10年のために~」をテーマに、企業・行政・NGOの各主体から4名のパネリストを迎えて、活発な意見交換が行われた。パネリストおよび会場からの発言を中心に紹介する。
これからの10年のために何が必要か
●小林料さん(東京電力株式会社)
これからの10年、地球が迎えるであろう環境や資源、エネルギーなどの問題に対処していくためには、地球規模の視点が非常に重要になる。講じられる対策についても、地球規模の視点で費用対効果を考えることが大切だ。経済や社会がグローバル化し、国境がなくなっているという前提のもと、地球規模の構造改革も必要だろう。
規制緩和、自由化が叫ばれるなか、消費者の側からみた自由化への対応は、いかにあるべきか。自由化というと、「今、買ったら安いものは何か」といった短絡的な視点に陥りがちだが、ここに長期的な環境の視点を取り入れる必要がある。
これからの10年を考えるうえで、ライフスタイルを見直すことは、大変重要なことではあるけれども、生易しいことではない。ライフスタイルをどう見直すことが、これからの地球の環境や資源のためにいいのか、今一度、私たち一人ひとりが考えなくてはいけないだろう。また、原子力をどう取り扱うかということは、避けては通れない問題であることを多くの人に認識してほしい。
●瀧田浩さん(川崎市総合企画局)
これから先、行政は、市民や企業とのパートナーシップで事業を進めていくことが基本となるだろう。行政からNGOへの業務委託は、依存体質に繋がる恐れがあるとの指摘もあったが、そうした意味では、行政は、あくまでも裏方に徹して、活動スペースの提供や事業に対する助成などを中心に据えていくべきだろう。事業者に対しては、ISO14000s取得の助成を中心に考えている。とりわけ、中小企業事業者への助成は重要だ。また、事業体の市としては、ISO取得に向けて積極的に取り組むなど、自ら率先して、模範を示すことが必要だろう。
市民や事業者の積極的な取り組みを促すには、超低公害車の自動車税が半分になったように、税の減免などのインセンティブを政策とセットにして考えるべきではないか。そうした政策の実施にあたっては、国と自治体の連携が、ますます重要になるだろう。
●土屋真美子さん(よこはま里山研究所)
これから先、私たちNGOは、調査研究や理論に基づいて体系的・具体的な政策提言を行い、立法過程に働きかえる能力(アドボカシー能力)を高めることが必要だ。今まで私たちは、おとなしすぎた。自らの主張を効果的にアピールするための手法についても、腕をさらに磨く必要があるだろう。
また、活動を通じて、良いモデルをつくっていくことも大切だ。よこはま里山研究所は、里山の手入れを自分たちでやれるところからやっていこうと活動を始めたが、活動を進めるうちに、持続可能な里山の実現には、システムづくりが欠かせないことに気づいた。そこで、薪や炭を使う機会が減り経済的価値を失った里山に、もう一度経済的価値を取り戻す必要があるとの観点から、里山を環境教育や観光の場として活用しようと様々な試みを実践している。私自身は、良いモデルができれば、それを真似するところが出てくるだろうから、との考えで活動を続けている。
●荒田鉄二(環境文明21)
NGOに何が必要かといえば、やはりアドボカシー能力だろう。これまでの環境文明21の活動を振り返ると、政策提言をつくると、それで安心してしまう傾向があった。私たちの提言を実際の政策に反映させるためには、誰にどうやって届けるかなど、より綿密な戦略が必要となる。
政策提言のベースとなる調査研究においても、成果の活用方法まで十分に検討したうえで、研究計画を立案することが大切だ。しかし現状では、財政的な事情もあり、そうしたことよりも、この研究計画で助成金が貰えるかということを一番に意識せざるを得ないことが多い。
また、自らが主張するのとは別に、論点をはっきりさせて、それを社会に伝え、多くの人が議論に参加できるようにしていくことも、NGOの使命の一つではないだろうか。
●参加者との意見交換
パネリストの発言の後、会場の参加者との意見交換を行った。以下に主な意見を紹介する。
- ある雑誌に載っていたというだけで、科学的な証拠があるわけでもないのに、温暖化は起きていないと言う知識人がいた。本気でそう思うなら、データを出して議論すればいい。事態は、20年、30年先を見て認識していく必要がある。
- 便利になった世の中で、環境に対しての危機感は、希薄になってきているようだ。「心身ともに健康で文化的な生活」を求めるならば、五体と五感を十分に働かせることが大切だ。
- 環境問題に対しての総論の段階は卒業して、今後は、各論、方法論に特化していくべきだろう。
- 経済界では失われた10年といわれているが、自治体からみると、非常に成果のある10年であった。財政状況が厳しくなるなか、「自分たちでできることは自分たちでやる」といった具合に、いい意味での成熟した市民社会に向かっているように思う。
- NGOの活動は、社会に働きかけることばかりではない。自分たちのために自分たちで何かするといった活動が、もっと広まってもいいだろう。
- 循環社会の流れは、生産から消費まで一方通行になるのではなく、静脈産業と動脈産業とが協力していくことが必要だ。
- 温暖化対策推進法の改正に伴い、新たに数値目標が盛り込まれることになった。数値目標が定められたことで、これからは、行政も事業者も、責任を具体的に突き付けられることになる。
- 企業が自治体やNGOなどと協調していくためには、まず企業自身による徹底した情報公開が必要である。環境省が環境会計のガイドラインを発表しているが、企業の自主的な情報公開に対して、「ご指導申し上げる」と言わんばかり。これは、いかがなものだろうか。
- 企業がいくら資金力や技術力を持っていても、現地のNGOの力を借りなければできないことがある。また逆に、熱心な現地のNGOだけでは、できないこともある。企業は、NGOとも協働し、経営資源を具体的な地球環境問題の解決のために役立ててほしい。
- 各主体による協働は、今後ますます重要となるだろう。しかし、協働の前に、私たちは、どんな社会に暮らしたいのか、何を目標にしているのかなど、グランドデザインの合意が得られているのか疑問だ。そうした合意形成ができていないと、手は組んだけれども、お互い全く別々のことをやっているといった事態になりかねない。
- 今の政治は感度が鈍い。国民の要求を掻き立て、それに応えてやるぞ、という要求型の政治になっている。こうした政治をやっている限り、サステナブルな社会は実現しない。そろそろ私たち一人ひとりが、政治のあり方や政治家の選び方にまで踏み込んで考えるときが来ているのではないだろうか。