憲法部会シンポジウム「憲法にもう一つの柱を」

シンポジウムの概要

● 日時 平成17年4月26日(火)

● 場所 星陵会館

報告

2005年4月26日、憲法部会第二次提案の場として、シンポジウム「憲法にもう一つの柱を」を開催した。シンポジウムでは、まず、加藤代表から第二次案の発表、続いて国会議員から私たちの提案に対するコメントや党あるいはご本人の考えを述べて頂いたあと、会場との質疑応答が行われた。当日は、関東一帯が季節外れの雷雨に見舞われたが、計8名の衆参両議員(1名は代理出席)、約150名の一般参加者が集い、熱心な議論が展開された(議員のコメントはご発言順に紹介)。


加藤修一(参)・公明党

加藤修一参議院議員

私たち公明党は現憲法との関連性を考えると、「加憲」という立場をとっている。憲法というのは国家の最高規範であるため、解釈が多様になることを避け、分かりやすいことが要件の一つと思う。時代に対応し、かつ、明示的にするために、「環境条項」の加憲がいいと思う。

内容も、良好な環境を享受し国家及び国民が環境保護に努めるといった趣旨の権利及び責務とすることを考えている。さらに、従来自然と人間との関係である「自然との共生」を大きく織り込み、エコロジカルな視点で環境を捉える必要がある。

公明党は、現在、基本的人権の中で環境のことを考えているが、今後さらに条項の中で権利や責務という形で展開し、より分かりやすい形にしていかなければならないと思っている。その点からも本提案は支持しうる。


簗瀬進(参)・民主党

簗瀬進参議院議員

本提案では前文の中で環境をしっかりと書いてある。一般には人権の中で環境権を考えてしまうが、そうすると自由権に位置づければいいのか、社会権に位置づければいいのか、と一種のドグマ的な議論に巻き込まれてしまう。そこで、私たち民主党は、人権というものの中に国家の方向性、ナショナルゴールを組み込んだほうがいいと思っている。そういった意味でも、本提案は充実した内容であり、個人としても民主党としてもこの方向で進むべきであると思う。

先日、参議院の憲法調査会の最終報告をまとめた。環境権については、憲法の中に盛り込むということで一致している。現時点では5つの小委員会を設け、前文に関しては第一小委員会が作成を行っている。その報告の中に7つの柱があるが、その6番目は「これからの社会と国家の基本原理として環境重視を盛り込むこと」と書いている。これは環境文明21の提言と一致している。

憲法改正の体制権は国民の皆さんが持っているが、国会は皆さんに提案する発議権をもっているにすぎない。皆さんのような熱心な方が、さらに憲法改正の議論について盛り上げていくということが重要であると思う。


小杉隆(衆)・自由民主党

小杉隆衆議院議員

憲法に環境を入れようという動きを見ると、長い間環境問題に取り組んできた身として感無量だ。

憲法の問題ついては、各政党や各NPOなど各方面からいろんな案が出ている。私は山崎卓さんと憲法改正の本を作った。最近の衆参両院の素案を見ると、私たちが作ったものと骨組みとして変わっていない。私は憲法の中に環境というのを位置づけるべきだと主張した。これに関しては大方の賛成は得ているし、各政党の案を見ても、この点に関しては全く一致していると考えている。

本日の提案は具体化していくのが大変で、大きな仕事となる。政府より民間からいろんな案が出てきて、この案を咀嚼し反映して、上から下への形ではなくボトムアップの形で憲法の中に環境について盛り込んでいけるよう頑張っていきたい。


渡部恒三(衆)・無所属

渡辺恒三衆議院議員

今日タイミングよく、衆議院の本会議で中山太郎憲法調査会長から「自民党民主党公明党の三党合意によって、いよいよ本格的に憲法改正をやる」との報告があった。34年前、憲法改正をやろうというと右翼だと言われたが、今はこの国の政治を担う各党が憲法改正をやろうという時代になった。

日本に「国やぶれて山河あり」という言葉がある。戦争に負けたけれども、美しい自然があり、緑があり、水があったことで日本はここまで来ることができた。人類にとっては当然だが、いま21世紀になすべきことは、やはりこの地球環境を守っていくということだから、今この憲法が改正されるとき、環境問題を憲法問題の柱にするというのは全く当然のことだ。


佐藤謙一郎(衆)・民主党

佐藤謙一郎衆議院議員

私はずっと憲法改正論者であったが、このところ、憲法改正は今この時期でいいのだろうかと思っている。私は前回の環境教育推進法の時に、市民の側が立法能力をつけていく時代が来ていると思った。そして今回、憲法改正の柱は環境権だと皆言うが、本当にそうなのか、皆さんに認識されているのか、疑問だ。環境権と同時に、失ってはいけないものは何かを認識しなければならない。

平成14年6月、通常国会で自然環境権を環境基本法に明記しようという請願が採択されている。 それにも係わらず、この4年間全く実現する動きすらなかった。我々は皆さんと共に、環境権を柱にすると同時に、ここの3つの柱を忘れずに総体として憲法改正の柱を作っていく必要があると思っている。

本案についての意見を言うと、一つは、予防原則は前文に入れるべきと考えている。環境だけではなく健康や資源の面でも、予防原則というのが我々の国民生活の中で前文で位置づけられるべき、より重たい価値であると考えている。

2つ目は人間が主語でいいのだろうかという疑問がある。私は人間中心主義の現憲法に極めて不満だ。人間の尊厳をいかに守るかというところから、今回の提案にあるように「生命の基盤としての環境」という考え方のように、人間中心主義をもう一歩進めていく必要があると思う。


田端正広(衆)・公明党

田端正広衆議院議員

三大原則は時代が変わろうと崩してはならない大切なものだと思うが、それに4つ目の柱としての環境権は、21世紀の地球環境を考えた上で大変重要な視点であり、全面的に賛成したいと思う。

憲法改正と簡単に言うが、実は憲法問題とは非常に重いことであるだけに、意見がたくさんあり議論が難しく、一度に憲法改正はできるのかと思っている。公明党は加憲という立場をとっているが、その最初として環境権をテーマとして、議論を積み上げて透明性を確保し、公平な議論のうえ合意できればいいと思うが、合意に至るのは大変であると思う。私としては国民が合意できたものから加えていくという方針をとりたいと考えている。そして真っ先に環境をテーマとして、今の憲法に加筆修正することはできないかと思う。この環境権の問題をどこからどのように切り開くか合意を得た上で、これを突破口として憲法改正として大きな作業をしたいと思っている。

最後に、「自然との共生」という言葉、スタンスを入れていただけないだろうか。環境は単なる環境問題ということに留まらず、世界の平和へ通じる視点を持っていると感じている。環境という視点を憲法の中に入れることが、世界平和に通じる大きな流れであるという認識を持って、さらにがんばっていただきたい。


村井宗明(衆)・民主党

村井宗明衆議院議員

私は環境権が憲法に入るということは、まだ第一段階にすぎないと考えている。憲法が変われば環境が変わるというわけではない。憲法を変えることを第一段階として、さらにそれに基づき法律を変え、政省令を変えるということで初めて実際の社会が変わる。

憲法はそのままでは法律的な効果は全くない。憲法の文言と全く逆の法律が現在多くあり、それらの全てが公共の福祉のためであれば、文言に反していても実際の憲法違反にならないと解釈されるのが今の枠組みである。環境権を盛り込むことは賛成だが、同時に違憲立法審査権を拡充しなくてはならない。憲法に違反する法律は無効であることがきちんと認められた上で、環境権が盛り込まれれば、法律が変わり、環境が守られていくという段取りができる。

もう一つ必要なことは、法律の下に政省令、閣議決定があり、国会で決めないことでほとんどの物事がきまっているということである。京都議定書を例に取ると、地球温暖化のための法律は国会で決めることができるが、どうやって目標を達成するのかという、実際の地球温暖化防止の行動を決める目標達成計画については、国会で審議されない。議員がどれだけ反対しようが、閣議決定や政省令で決まってしまう。

環境権を盛り込むことはもちろん賛成である。しかしそこから先に本当の戦いが待っている。人類の未来のために一生懸命やっていかなければならない。環境の拡充には、政治全体、環境省、霞ヶ関の全体を変えていかなければ、我々の目標は達成できないということを理解いただきたい。その第一段階として皆さんと一緒に環境権を盛り込んでいきたいと思う。


加藤紘一(衆)・自由民主党(秘書代読)

今まで「憲法改正」という言葉自体、タブーとされるような時代が長く続いてきたが、憲法は一国の基本法であり、国を取り巻く政治経済状況や、国民生活の変化に伴い、時代に合うように改正していくのは、ごく自然なことだと思う。

憲法改正の論点は安全保障をはじめ多々あるが、「環境」という観点はより根源的な切り口だといえる。環境問題は一国にとどまらず、地球全体に影響を与え、人類問題となっているからである。

現行憲法の前文には、この憲法が「人類普遍の原理」に基づくものであると示されている。「人類普遍の原理」、60年前には、「平和」こそが人類の安全と生存を保障するものと考えられていたが、今やこれに「環境」を加えなければならない時代となった。人類の経済活動の規模が、環境への配慮なしに安全と生存を保障できないくらい大きくなったからである。

私は15年ほど前より、憲法改正するときがきたら、9条より「環境権」が先だろうと思っていたが、今回のシンポジウムでは、より広義の「環境」を論じられるとのこと、敬意を表したいと思う。国際社会において名誉ある地位を占めるために、我が国が「環境」への配慮を憲法に盛り込むことを議論することは、大変有意義であると考えている。(一部編集)


(議員諸氏はいずれも熱っぽく語られたが、事務局の文責において、要旨のみ掲載した。)