2000年12月号会報 巻頭言「風」より
スウェーデン環境党(2)
加藤 三郎
前号では、スウェーデン環境党の結党の事情などを紹介しましたが、本号では、この政党の現状や目指しているものをお伝えしたいと思います。ヨーロッパにいくつもある環境党(ないしは緑の党)の政策の一つの典型をここに見ていただき、混迷を極める日本の政治状況との対比でお考えいただければ幸いです。
スウェーデン環境党の現状
現在、スウェーデンの国会議員は、349人いますが(一院制)、そのうち16人が環境党のメンバーです。ちなみに、男女の比率は、8人、8人で同数となっています(他の政党でも女性の比率は高い)。
環境党は、国会議員選挙に2回挑戦したあと、3回目の88年で初めて議席を得ることが出来ました。このあと、91年の選挙では、3.4%しか得票数がなく、一度は、国会の議席をすべて失いましたが、大方の厳しい予想に反し、94年には返り咲き、現在では、社会民主党、左翼党とともに政権を担っています。
これまでの最大の成果は、既存の政党の環境政策にタガをはめたこと、それに加え98年には既存の十数本の環境法令を整理し、強化統合して成立させた環境法典であるといいます。これにより、環境保全の政策が格段に強化されましたが、NGOは政府の施策に法的にアピールすることが可能になり、また、各種事業に環境上問題があれば、原告として法廷に立てることになりました。こうしてスウェーデンのNGOは、さらに大きな力を持つことになったのです。
環境党が目指すもの
ところで、この環境党の基本的なアイデアは何でしょうか。党が発刊している説明文書によると、次の4つの連帯のなかから生まれてくるといいます。それは、①動物、自然そして生態系との連帯、②将来世代との連帯、③世界の人々との連帯、④国内の人々との連帯のことです。ここで真っ先に、「動物、自然、そして生態系との連帯」とあるのが、いかにもこの党らしいと思います。日本の政党で、いの一番にこのような理念を掲げる政党の存在が考えられるでしょうか。また、「将来世代との連帯」も素晴らしい政策だと思います。日本の政党は、現世代の関心と票欲しさに将来世代にツケを送ることばかりにしか知恵がまわらないように思えます。
次に、党の全般的な政策目的を見てみましょう。
- 生態系についての知識が、政治的決定の基礎となること
- 民主的に持続可能な社会をつくり、そこでは、生命を守る条件が短期的な利益よりも重要となること
- 政治機構が限界を設け、公正な分配と人々が多様な方向に伸びてゆく権利を保障すること。平等は同一とは違う。
- 人々や企業が、環境的及び社会的枠組みのなかで行動できるよう法律や経済的手法を活用すること
- 長期的に持続可能なものが短期的にも家庭や商工業にとって利益となるよう経済政策を通して確保すること
- スウェーデン・モデルの良い部分は、守らねばならないこと。子供の世話、教育、医療及び老人介護は主として公的資金により、かつ連帯して支えられねばならないこと
- 社会のギャップを縮め、職をシェアし、外国人嫌いとたたかい、男女の間に真の平等をつくりだすこと
- 金を得られる仕事は人生で最も重要なことであるとの神話をなくし、人々が多くの価値あることで人生を充実させうる条件をつくること
- 使用者による小規模な所有の形態を促し、資本の国際的な移動を制限すること
- 軍縮と人権のために、新しい世界の連帯秩序と国際協力の増進に貢献すること。スウェーデンはEUから離脱すべきであること
- 世界貿易は、生態的、社会的ルールに従い、拘束力のある環境分野の条約が成立すること
わが国で、このような綱領を掲げ、活かしている党があるでしょうか。特に、第一の「生態系についての知識が、政治的決定の基礎となること」に比べたら、わが国ではどの政党も「景気への配慮」が政治的決定の基礎となっているではありませんか。この原稿を書いている今、自由民主党は政府に対し、株価を高く維持する施策を申し入れたとテレビのニュースは伝えています。日本の政治は、いよいよ「株屋政治」になってきたようです。
日本の政治家や、その政治家を選ぶ国民一人ひとりが「金を得られる仕事は人生で最も重要なことであるとの神話をなくし、人々が多くの価値あることで人生を充実させうる条件をつくること」との政策綱領を掲げる政党がスウェーデンには存在し、それが政権の一翼を担っていること、そして、なぜ日本は、そのような政党を持ち得ないかを考えていただきたいと思います。さらに「民主的に持続可能な社会をつくり、そこでは、生命を守る条件が短期的な利益よりも重要となること」も、とても重要なことと思います(これについては、別の機会に論じます)。
個別分野の目的
個別分野のうち、経済、環境及びエネルギー・交通の3分野をとりあげ、それぞれの政策目的を以下に見てみましょう。
(1)持続可能な経済
- 週の労働時間を30時間にすること
- 労働への税を軽くし、エネルギー、原料そして排出に対する税を重くすること
- 人工肥料や殺虫剤に対しては、高い料金を設定すること
- 世界貿易に環境基準と社会的ルールを導入すること
- 国をまたがる通貨の決裁に料金をかけること(EUの統一通貨ユーロに党は反対)
(2)自然保護と土地・森林
- 少なくともスウェーデン国土の10%は開発から護ること
- 環境法制を一本化し、強化すること
- 動物の遺伝子操作と動植物に係る特許を禁止すること
- 動物を保護する役所や協会をつくること
- 人工肥料や化学的な殺虫剤の料金を引き上げること
(3)エネルギーと交通
- 化石燃料から脱却すること
- 早期に原子力発電をやめること
- 石油、石炭そして化石のガスに対する税を引き上げること
- 鉄軌道の交通を発展させること
- 手つかずの河川や流域を護ること
業界団体などの圧力団体が闊歩している日本の政治のドロドロした様相を毎日のように見せられている私たちにしてみると、以上紹介したスウェーデン環境党の政策は、キレイ過ぎて、お伽話の国の物語を読んでいるような錯覚すら感じられるほどです。総人口が900万人に満たない国だからこそ、こんな政党が可能だとの声も日本では聞かれます。でも、これは、まぎれもなく、スウェーデンの政治の一つの現実なのです。そして、その政治を支えているのも、まぎれもなく、スウェーデンの国民なのです。なぜ、日本では、こんな政策が話題にすらなかなかならず、また、市民がそのような政治を求めようともしないのか、私は引き続き考えて参りますが、会員の皆様もどうかお考えを本誌にお寄せいただきたいと思います。