2002年7月号会報 巻頭言「風」より

ハワイだけでなく

加藤 三郎


1.4回目となった日米ハワイセミナー

1996年から2年毎に本会とアメリカのNGOとで開催してきた4日間のハワイセミナーが予定通り6月18日に終了した。これまでの4回に、日米から延べ150人を越す熱心な人々が参加したことになる。日本はもとより米本土からも遠く離れたハワイの地に、参加者の負担で集まってくる人の数が150人を越えたのはやはり嬉しい。これまでの参加者は大学教授、経営者、弁護士、公務員、地方議員、大学院生、学生、会社員など実にさまざまな人々で、そのなかにはノーベル物理学賞受賞者も含まれている。セミナーのテーマは基本的にはいつも同じ「持続可能な社会」である。

今回は、2年前から行ってきた持続可能な循環社会に関する研究報告書が日米両語で完成されたので、それをテキストにして、持続可能な社会とは何か、そこに至る道は、また持続可能な社会になったとすれば、私たちの生活は具体的にどんな姿になるのか、といったことを巡って参加者全員が議論し、楽しく交流した。

2.なぜハワイか

この日米セミナーは4回とも、そして将来もハワイの東西センターで開催するつもりだ。なぜハワイで会合するのか。それは、前にも(Vol.4 No.2、Vol.6 No.3)書いたが、アメリカ側のパートナーであるスーザン・マーコットさんが東海岸のボストンを拠点にしているので、東京とボストンのほぼ中間点として、いわば便宜上、セミナー開催地としてハワイを選んだに過ぎない。

しかし、実際ハワイに来る毎に、持続可能な循環社会を求める私たちにとって最適な場所だという思いが深まっている。なぜハワイが私たちにとって深い意味をもつか。簡単に言うと、イギリス人のキャプテン・クックが18世紀末にハワイ諸島に来航するまで、太平洋の島々に住んでいたポリネシア人たちは、山の幸と海の幸を大切にする「持続可能なライフスタイル」を長年にわたって維持してきた。その生活が、西欧の軍事力、技術力、工業力によって、破壊され変容された。日本風に言えば、1853年のペリー提督来航以来、幕末の日本に吹き荒れた尊皇攘夷運動のようなものが、ハワイでは文化的にも政治的にも細々とはいえまだ続いていることに驚きを覚えた。

政治的には問題にはならないが、今でもハワイを合衆国から独立させる運動があり、ハワイ人ではあるがアメリカ人ではないと公言する人もごく少数とはいえ存在することは並大抵の話ではない。日本では尊皇攘夷運動も、またマッカーサー元帥らによる日本支配によってもたらされた文明間の軋轢、抵抗も短期間で調整され同調されたが、ハワイでは西洋文明に対する抵抗と伝統社会との調和の努力が小規模とはいえ今なお続いている。

私たちが毎回、会合をする東西センターは、西の文明と東洋の知恵が文字通り出会い、学び合い、調和する世界を形成するのに役立つことを願って、米国議会が建てた会議場である。これまた偶然であるが私たちが毎回使用しているセンター内の宿舎のロビーには、「和」という漢字の大書が掲げられてある。ハワイといい、東西センターといい、「和」といい、私たちが6年前に偶然選んだ場所である。日本とアメリカの人々が集まり、近代文明のもたらした重大な文化や環境への影響を収拾し、新しい持続可能な文明の設計図を書くための真剣な話し合いの舞台となったことに、私は深い縁を感じるのである。

3.循環社会を必要とするハワイ

さて、そのハワイであるが、ポリネシア時代と違い現在は、州全体で120万、ホノルル市だけでもほぼ100万の人口を抱えている。海の幸、山の幸は豊かであったとはいえ、この人口と世界各地から訪れる観光客を収容するためにはエネルギー資源も食料も全く不足し、90%以上も米本土や海外に依存している。特にホノルル市のワイキキなどの中心部には高層ビルが林立し、観光客があふれ、交通、ゴミ、冷房用エネルギー使用は日本の都市と同様、大きな困難にぶつかっている。それだけにハワイ州はアメリカのなかでは最も持続可能な循環社会を必要とする位置にある。

ハワイ州もホノルル市当局もハワイの将来が持続可能であるために様々な工夫をこらしつつある。例えば、太陽の熱利用施設や太陽光発電装置に対して、付属品も含め設備本体や取り付け費の実費の35%までを原則として所得税から控除する措置を設けている。この措置は、一戸建てに対しても、アパート、マンションにしても、さらにホテル、商店、工場に対してでも、限度額はあるもののこれだけの控除を認めている。同様の措置は、風力発電に対しては原則20%、ヒートポンプは原則20%の税控除をしている。これによって自然エネルギーの利用者を経済的に支援する措置をしている。このような措置は日本にはまだない。

ガラス、プラスチック、アルミニウムの飲料容器が散乱ゴミの原因となったり、埋立地をかなり占有している状況から容器のリサイクルを促進する措置として、州は容器1個につき5セント(約6円)のデポジットをかける制度を導入しようとしている。これはすでに法案として州議会を通り、知事のサインを待つだけとのことであった。飲料容器デポジット制度も私たちNGOは前からその必要性を主張しているが、日本では八丈島などごく限られたところでしか使われておらず、都道府県のレベルではほとんど議論すらされていない。これについても、ハワイの努力に及ばないのだ。この他、冷房需要が1年中ある常夏のハワイにおいて、屋根や天井の断熱効果が極めて重要との考えから、ごくわかり易い断熱キャンペーンも行っている。

交通は世界中どこの都市でも困っているが、ハワイには電車も地下鉄もないので、もっぱらバスの利用効率をあげることに重点をあて、高齢者はもとより観光客にも優遇策を講じながら出来るだけ乗ってもらう努力をしている。私たちもその恩恵にあずかった。このように楽園といわれるハワイにおいても、持続可能な循環社会を創りたいと思う人の心はアメリカ社会のなかでは大きいようである。

しかしこれはハワイだけで終わる話でないことは言うまでもない。アメリカ本土においても循環社会の必要性を強く感じる時は間近にきている。現に、私たちの共同研究に参加した多くは、アメリカ本土の大学関係者であり、その人たちが持続可能な循環社会の必要性を熱く語っていることからいっても、またその話に耳を傾けディスカッションに参加する市民が少なくないのは、今年3月のサンフランシスコ大学での私たちの講演会でも実証済である。広く無限に見えるアメリカの大地においてももはや逃げ場がなくなるほど、私たちの文明は行き詰まりつつあるのではないか。だから一刻も早く日本やハワイだけでなく、アメリカ本土を含む世界全体が持続可能な循環社会へと移行するよう、私たちの努力を強化しなければならないと改めて強く感じた。