2002年12月号会報 巻頭言「風」より

NGO・NPO、数は増えたが・・・

藤村 コノエ


月日のたつのは本当に早く、「あっという間にまた1年が過ぎてしまった」という感想をお持ちの方は私だけではないと思います。そんな早い時間の流れの中で、私たちNGO・NPOを取り巻く環境は変わったのかどうか・・・、この1年を振り返ってみたいと思います。

まず「NGO」という言葉は、随分知られるようになったと思います。鈴木宗男議員に絡む様々な事件でアフガン支援のNGOが、最近では脱北者支援のNGOが頻繁にマスコミに登場しました。また、環境分野ではNGOがヨハネスブルクサミットの政府代表団の一角に加わるなど、「NGO」という言葉はかなり聞かれるようになりました。

実際その数も年々増加しています。内閣府の市民活動団体等基本調査によると、NPO(特定非営利活動法人)の認証数は、2002年1月時点で5,880団体だったのが、10月時点で8,679団体に増加しており、この1年間で3,000近く増えています。制度の創設期という事もあると思いますが、すごい勢いです。その中で最も多いのは福祉NPOが約60%、環境分野は約28%です。

しかしこうした数の増加に伴い、NGO・NPOが活動しやすくなったかというと、そう簡単ではなく、人々の注目は集まるようになったけれど、状況は相変わらず厳しいというのが実態です。

例えば、今年4月の内閣府の調査報告によると、年間30万円未満の財政規模の小さい団体が半数を占め、5,000万円以上の団体はわずか1%です(ちなみに当会の平成13年度の決算では、会費、助成金等の総収入は約3,300万円)。約3年前にNPOグループが調査したデータでは、予算規模30万円未満の団体は全体の3.5%、最も多いのが100万円以上500万円未満の団体で、5,000万円以上の団体が約5%という数字になっていましたから、ここ3年で経済規模の小さい団体が増えたと考えられます。またNPO専従スタッフの年間給与については、日本NPO学会等が2001年7月に行った調査結果では100~199万円の割合が最も多く、年間所得の平均は男性が253.5万円、女性が197.4万円と、やはり一般企業や公務員に比べてかなり低い状況は続いています。調査方法や母数の違いなどから明言はできませんが、以前と比べてNGO・NPOが経済的に楽になっているとはとても言えない状況です。

一方収入源としては、当会同様会費に支えられているNPOが最も多いのですが、当会の場合でも会員数は昨年と比べほぼ横這い状態です。また助成金収入も大きな財源ですが、NPOが増え申請団体が増えている上に、大学の研究者などからの申請も増えているので、一件当たりの助成額は低くなり、競争も激化しているのが現状です。さらに寄付に関しては、当会の場合今年3月から寄付を積極的に呼びかけたお陰で、10月末時点で約48万円の寄付を頂きましたが、総務省統計局の昨年1年間の家計調査結果によると、平成13年に一世帯が支出した寄付金額は平均2,670円で、平成12年まで3千円台で推移していたものが大きく3千円を割り込んだということです。ちなみにこの寄付の中には町内会費なども含まれているようです。

「NGO・NPOはボランティアだから」と誤解されている方もまだ世の中には多いようですが、精神はボランティア精神でも、社会を変革していこうとすれば、継続的な活動が重要で、そのための活動資金やスタッフの生活費は当然必要です。「同じ公共のための仕事をしているのに、公務員には安定的な給与が支払われ、税金の無駄遣いが続いているのに、なぜNGO・NPOには人件費も認められないのか」「大学の先生と違って、NGO・NPOは活動費も給与も稼がなければならないのに・・」と、愚痴も言いたくなります(ちなみに助成金には人件費が含まれない場合が多く、特に研究助成は大学の研究者を主な対象としている為、当会のような研究・政策提言型のNPOにも人件費はほとんどつきません)。

こうした状況を少しでも打破しようと、シーズ(市民活動を支える制度をつくる会)を中心に、「認定NPO法人制度」を改正しようとする動きが現在活発です。先日もその決起集会があり、私もスタッフ共々出かけてきましたが、会場には約400名近くのNGO・NPOが集結していました。NPOのうち認定NPOになれば寄付控除などの特典が与えられる制度ですが、現状では認定NPOになるための要件があまりに厳しく、11月現在わずか9団体と全体の0.1%しか認められていないため、なんとか次国会で改正しようというものです。ちなみにこの制度のモデルとなっているアメリカでは60%近くのNGOが認定され、多額の寄付を得ているそうです。

当日はこの改正に熱心な各党の議員が来ていましたが、ある議員は「シーラカンスのような人たちが牛耳っている自民党税制調査会をなんとかしなければ」と、またある議員は「国民の全てを下に置いておきたい役人、税金は自分のものだと思っている役人の意識を変えるのは大変」と、私達の思いを理解しつつも、その壁の厚さを語っていました。税制に関する議論は12月が山場だそうですので、この会報が届く頃には、事態はかなり変化していることと思います。

ところで、10月27日NHKスペシャルで「社会を変える新たな主役」という番組が放映されました。それによると、世界でNPOのプロとして働く人は約4,000万人。番組では、ピッツバーグのNPOが第二の市役所として「専門性」「リーダーシップ」「情熱」をもって街の再生に取り組んでいる姿や、大企業のポストを投げ打って私利私欲ではなく公共の利益の為に、職に就けない貧困層の人々の為に職業訓練学校を作り企業に斡旋するNPOを立ち上げた人物の紹介などがありました。また、イギリスでは、1998年ブレア政権とNPOの間で取り交わされたコンパクト(協約)により、NPOを政府の対等なパートナーとして位置付けていますし、ハンガリーでは「1%制度」というのがあって、希望者は所得税の1%を好きなNPOに回せる制度が6年前からスタートしているそうです。

以前にも、会報で、オランダではボランティア活動のための交通費も年間3万円までは税控除の対象になるという話や、ドイツやスウェーデンでは、NPO事務所の家賃が安くなったり、郵送料の割引があるという話を、海外調査報告の折に紹介しましたが、日本の現状と比べると、やはり行政・企業・NPOの三本柱に支えられた市民社会の成熟度の違いを感じないわけにはいきません。

いずれにせよ、NGO・NPOとよばれる私達市民の力が、新しい社会を開拓し築いていくベースになりつつあるのは、世界的な潮流のようです。

これまでの日本社会の常識が次々と崩壊する中、こうした世界の流れをいち早く感じ、それを推し進めることこそが、日本再生の鍵にもなることを確信して、来年も頑張りますので、引続きご支援ください。