2004年1月号会報 巻頭言「風」より

環境力で日本を元気に

加藤 三郎


2004年が始まりました。皆様いかが新年をお迎えになられたでしょうか。会員の皆様にとって今年がよいお年であることを願わずにいられません。

昨年を振り返りますと、この年もさまざまなこと、良いことも悪いことも沢山ありました。私もそろそろ年のせいか、悪いことは年毎に深刻に感じられるようになりました。社会が追い詰められつつあるのを実感しています。良いことといえば、やはりスポーツの話題が多かったようです。

松井秀喜さんは大リーグでも期待通りの大活躍をしました。イチローもかなりの活躍です。水泳では久しぶりにすばらしい記録が出ました。バルセロナの世界大会で北島康介選手は二つの世界新記録を樹立。体操の世界選手権では鹿島丈博選手があん馬と鉄棒で金メダルを取りました。レスリングでもフリースタイルの世界選手権で日本の女子選手が7階級中5階級を制覇。暮れには女子フィギュアースケートで村主章枝選手が日本人初の優勝を飾りました。

しかし、いい事を打ち消すような暗い話が続きました。イラク戦争の悲惨、異常気象、凶悪犯罪、しかも低年齢の犯罪も増えました。今この原稿を書いているときでも、中3の14才男子が殺人サイトのホームページを見て興奮し、小6の妹を鉄棒で殴り、頭の骨を折る重傷を負わせたというニュースが伝えられています。いったい日本の社会や私たち暮らしはどうなるのかという思いが深くなります。

一方、わが会について言えば、会員の皆様のご支援のおかげで比較的順調に推移することが出来ました。7月には私たちの努力もあって環境教育推進法が議員立法として成立しました。9月には会も10周年を祝うことが出来ました。

そんな中、私はお盆過ぎから本を書き始めました。それは、日本が相変わらず経済に価値を置いて経済成長をあがきながら追い求める道を行くか、それとも長期的な社会の持続性を追及する道を選ぶかの分かれ道にあり、その分かれ道の踏み台となるのが環境力だという思いからでした。

執筆中、改めて企業の環境に注目しました。メディアや諸団体から各種の環境賞を授与されている企業のリストを整理して眺めているうちに、そこには今元気な優良企業がずらっと並んでいることに気がついたからです。30~40年前、私が若いときは経済官庁や経済人からは公害対策などすると景気を悪くする、会社は左前になる、さらには公害対策は必要悪だとよく言われました。私はそのつど、公害対策をすることは新しい技術開発をすることであり、新しい産業を創ることにつながるのだと主張しました。例えば70年代の自動車産業が、深刻な公害問題に直面し苦労しながらも素晴らしい技術を開発した結果、日本の自動車メーカーが世界に追いつき、そしてリードする位置に達したのは典型例です。自動車以外の業種でも素晴らしい飛躍をまのあたりに見てきましたので、その後、地球温暖化対策を進めようとしたときに、経済が悪化するとの主張に対しては強く反対しました。

今、日本の大企業が盛んに環境経営ということを言い始めました。そして環境経営において優秀だと思われている企業が、経営全般においても優良企業であることを確認しています。つまり環境を守る努力を重ねることが企業にとって負担になるのではなく、むしろ新しい技術や新しいマーケットを作り出し、それが経済の活力になっていくのだという私たちの主張の何よりの証拠が、前述のリストだと確信しました。まさに環境力が企業の活力になるのだということを再確認したのです。

このことは何も企業だけにいえることではありません。今、元気に躍動している自治体、例えば東京都、岩手県、長野県など、どの知事も環境問題に並々ならぬ施策を展開していることはご承知の通りです。石原知事の「ディーゼル車NO」は国を動かしました。長野県の田中知事はダム建設に待ったをかけ、それは公共事業のあり方に大きな一石を投じ、国の政策も結局変えてしまいました。岩手の増田知事も地域の地理的条件を巧みに活用して、バイオマスなどの自然エネルギーの開発利用に大きなリーダーシップを発揮しています。

閉塞している日本といわれる中で、このように元気印として活動をしているのは「環境力」を備えている経営者や、自治体の政治家に多いのです。

小泉首相にしても、イラク戦争についてはアメリカに追随したと多くの人に批判されていますが、京都議定書に関してはアメリカに追随することなく、今も環境問題に一定の理解を示しているように思われます。

では、なぜ環境力を持つと全体に力が出てくるのでしょうか。それは一言で言えば、未来を味方にする力があるからだと思わざるをえません。そのことは次の4点に集約されると思います。

過去50年ほど私たちは目の色変えて経済的利益を追い求めてきました。その結果、物質面ではある程度の豊かさも身に着けましたが、環境は破壊され、子供たち、青少年、老人、そして気候さえも皆おかしくしています。もう一度経済にウエイトを置きすぎる考え方、制度を見直し、より長持ちする方向にスイッチを切り替えるぎりぎりの時期を迎えたと思います。そのスイッチの転換は容易なことではありませんが、日本の自治体や企業の中に、数は少なくても明瞭に動き出した一群の流れが出てきました。それは皆、環境力を身に付けていると私は思います。この道が拡がることによって、より安全で持続する社会を築けるのではなでしょうか。

私たちは今年もそのような世界を築くための経済的基礎である、グリーン経済を部会活動で追求します。そしてそのような社会を創るためのベースである環境教育のあり方も部会で追求し続けます。皆様の積極的なご参加とご支援を今年も期待しています。