2004年12月号会報 巻頭言「風」より

「環境力」再び

加藤 三郎


昨年の暮れにごま書房から、「日本再生の分かれ道 環境力」と題する本を出版しました。この本の出版の動機の一つは、「日本人の得意であるはずの環境にもっと力を注ぎ、環境に強くなれば、曲がり角に来ている日本の国も、経済も、個々の企業も、そして自治体も、さらに何よりも人々の生活が、力強く回復の道に向かって歩み始めることができるはずである」という強い思いからです。もう一つ。これは約40年に及ぶ私の公害・環境対策人生の中で、今日に至るまで、環境対策をやると国の経済も個々の企業の経営も悪くなる。つまり環境対策は貧乏神だという根強い、そして誤った考えとの戦いがあったからです。

私は、若いときから終始、環境対策は、組織の体質を向上させ、製品を良くし、その結果として、企業でいえば競争力も高まり、ブランドも上がり、自治体でいえば活力が出て住民が喜び、というような“福の神”になるのだと言い続けてきました。そんな思いを率直に書いた本であったわけです。

幸い、本書の出版以来、様々な反響が寄せられました。その中には、環境問題の本質がよくわかったという意見や、逆に環境力について、もっと詳しく聞きたいとか、環境優良企業は経営面でも元気の出る企業であるという私の主張に対し、そんなことはないのではないか、むしろ経営上で余裕があるから環境に力を入れているのであって、環境力があるから余裕が出たというのは逆ではないか、というような批判も寄せられました。

このほか、環境力が重要なのはよくわかったが、それを身につけるにはどうしたらいいのか、環境力の鍛え方を教えてほしいという問い合わせもありました。そこで、最初のうちは、前著「環境力」の改訂版を出そうかと考えましたが、問い合わせの質量を考えると、やはり新著として答えていった方がいいと思うようになり、いわば「環境力パートⅡ」として、今回もごま書房から、新著を出すこととしました。

この会報が皆さんのお手元に届くころには、この「環境力パートⅡ」は、その名もずばり『福を呼びこむ環境力』というタイトルで、主な書店に並んでいるはずです。その中で、なぜかくも環境力を問題にするのか、私の背景にあることを、概ね次のように説明しておきました。

その一つは、地球規模の環境破壊そのものが止められなくとも、被害や環境リスクを最小に抑えることが出来るという観点からの議論です。地球温暖化に代表されるような、地球規模の環境破壊は、もはや人間の力では止め難い状況になりつつあります。こと温暖化に至っては、科学者も、おそらく数世紀の間は温暖化が進むと言っています。それならば、我々に残されたものは絶望以外に何もないかというと、そんなことはない。ちょうど、人間の力では地震の発生を止めることはできなくとも、地震について深く知り、地震に耐える構造物や都市の形態をつくり、さらには、予知だけでなく、地震が起こった後の対応策などを検討しておけば、被害はある程度抑えられ、また、復興を早めることができます。そのように環境の害についてもいち早く理解し、対応戦略に組み込み、さらに社会的責任を全うしていくこと、つまり、環境力があれば、被害を最小に抑えることが出来ると思っているからです。

もう一つ。企業にせよ、自治体にせよ、今の世の中では、日々競争にさらされています。私の興味は、その時に企業や自治体の競争力を差別化するものは一体なんだろうかと。結論から言えば、それが環境力だと立証するための努力を、新著の中でしたつもりです。

端的な例を挙げれば、トヨタ、ホンダと三菱自動車の違いがどこから来ているのか、スーパーで言えば、イオンやイトーヨーカ堂とダイエーの差、さらには、一度は苦しい経営を強いられた松下電器や佐川急便の復活に、何があったのか。私は、これらに共通する原動力は環境力だと直感しています。それを間接的に証明するつもりで、前著においてトヨタ、セイコーエプソン、NECなどの首脳の発言を紹介しました。「環境力パートⅡ」においても、さらに、キヤノン、東陶、日本政策投資銀行の首脳陣の言葉と、私自身が訪問して調べた12企業の環境レポートを載せています。

環境力は企業にだけ適用されるものではありません。企業よりは複雑ですが、自治体もまた環境力があれば、衰退を免れたり、大都市においては、環境負荷の少ない町づくりを進めることも出来るわけです。その実例を取り上げました。

このようなレポートと私自身の経験から、環境力が、地球環境時代にあっては、企業や自治体の組織の盛衰を分かつ死活的に重要な力となることを、実証しようと努めたつもりです。

環境力を鍛えるにはどうすればいいかという質問に出会い、新著を書くにあたって、私自身も頭の中を整理することが出来ました。

私の答えは次の7か条になります。

それぞれの項目にどんなことを書いたかは、賢明な読者の皆さんは、おそらく推測できるはずです。折にふれて、私が会報で語ってきたことがバックにあるからです。しかし、そのそれぞれについて、かなり詳しく説明しましたので、ご関心のある方は、拙著をお読みいただきたいと思います。

この本作りをしていた最後の段階で、京都議定書が来年2月に発効することが決まりました。嬉しい限りです。本誌では、来年の1月号でその特集をいたしますが、京都議定書が動き出せば、いよいよ日本の企業も自治体も国も、あえて言えば、政党も政治家も、より大きな環境力が求められるはずです。環境力というと、狭い意味での環境対策力と思われがちですが、そうではなく、これこそが、日本の未来に灯をともす、いわば“福を呼びこむ力”だと私は信じています。

本年もご支援ありがとうございました。良いお年をお迎え下さい。