2014年3月号会報 巻頭言「風」より

気候変動対策を担うのは‥

藤村 コノヱ


安倍政権が発足して早1年3か月。特定秘密保護法成立や昨年末の靖国神社参拝に対する国内外からの強い批判にもかかわらず、経済、そして最近では当面大きな選挙がないためか、総理の最大の関心事である憲法改正の道を突き進んでいます。昨今の夏の猛暑だけでなく、2月に入ってからの大雪(今回大雪に見舞われた甲府、前橋、熊谷などは、夏の最高気温でも有名)は、まさに気候変動(※)に伴う異常気象が一年中顕在化したことの表れだと思うのですが、安倍総理は気候変動問題には殆ど関心がないようで、所信表明でも一言も語られませんでした。

一方、2月初めに行われた都知事選でも自民・公明両党が推す舛添氏が当選。投票率は46.14%と過去3番目の低さで、開票開始後わずか1分で当確が出るほどのあっけない選挙でした。この選挙では宇都宮・細川両氏が脱原発を掲げたことから、エネルギー・環境問題が争点になるのではと期待されましたが、それも期待はずれ。気候変動問題に至っては話題にも上がりませんでした。

先月号で加藤共同代表は、3.11以降エネルギー政策が急速に進展している反面、気候変動対策は一向に進んでいないと述べましたが、その傾向はますます強まっているようです。

その理由は何か?選挙や政治では気候変動問題は焦点になり得ないのだろうか?そんな疑問から、今月号ではそのことについての座談会を特集しました。詳細は本誌をご覧頂きたいのですが、その中で、気候変動という中長期的な課題は選挙にそぐわないのではないかという意見がありました。

確かに、原発に比べ気候変動は直接的な被害、特に健康被害は感じにくいものです。また今回の豪雪、夏の猛暑、台風・竜巻などの自然災害も当事者になれば大変ですが、そうでない限り、どこか他人事です。節電などエコな暮らしを実践してもそれが気候変動防止に役立っているという実感はわきづらく、結果的に市民の関心や危機感も高まりません。そうなると、信念や志より票数を重視する政治家も、視聴率やスポンサーを重視するメディアも取り上げなくなり、結果的に社会全体の関心と危機感は希薄になり、政策も停滞するという悪循環が生じてしまいます。

しかし、だからといって、これだけ現実に異常気象が多発し、科学的にも危機的データが示されている中で、気候変動対策をほおっておくことはできません。たとえ現在の日本の政治では影が薄くても(ロイター通信によると米中は2月15日に気候変動による影響を緩和することで協力するとの共同声明発表)、誰かが20年50年100年先のことを考えて、今のうちから対策を打たなければ、日本のみならず人類社会は大混乱に陥ってしまいます。

では、誰がその役割を担うのか?です。

己の損得と短期的視点しか持ちえない今の多くの政治家に期待するのは無理かもしれません。しかし、気候変動が世界的な政治課題であることを考えれば、政治家個人には無理でも、政治の世界でこの問題を継続的に議論していく仕組みは必要だと思います。『教科書・日本国憲法』には、「刹那的な国民の気持ちを衆議院に、継続的な国民の気持ちを参議院に代表させる。(中略)全国区を設け任期を6年としたのも、より幅広い国民全体の利益に立って、時の政治的判断にまどわされず、じっくり腰を据えた議論ができるよう配慮したため」と記されています。本来の役割からいえば、まさに参議院こそが気候変動などの中長期的課題に本気になって取り組むべきです。小泉さんや細川さんだけでなく、元議員だった人たちが現在の政治と日本の行く末を案じた発言を繰り返していますが、現役を退いた今こそ、時の政治状況に惑わされることなく、国民全体の利益に関わる気候変動(を含む環境問題)について、継続的に議論し政策をつくる仕組みを参議院に、と声を上げてほしいものです。

座談会では、市民社会、とりわけ環境NPOの役割が重要との意見が出ました。勿論環境文明21を含むいくつかの環境NPOは、その役割を果たそうと努力していますが、我々を取り巻く状況は依然として厳しいのも事実です。民主党時代と異なり、現政権では、政策形成過程への環境NPOの参加の道はますます細くなり、情報公開もままならないなど、市民社会やNPO活動といったことに関心を示さないばかりか排除の様相さえ見られます。一方、環境NPOの中にも組織運営に精一杯で社会変革を諦めたり、もともとそれを望まない組織も増えています。加えて、気候変動問題に関心はあっても、経済・景気や雇用、社会保障の方が切実という市民や変化を好まない市民も多く、NPOへの支持が広がらない状況も続いています。何とかこの状況を打破したいと、環境文明21では、現在いくつかの環境NPOにも声掛けして戦略を練っているところですが、残念ながらすぐに効果が出るものではありません。それでも、気候変動の危機を最小限に食い止め、環境を主軸に据えた政治のもとで、皆が安心・安全で幸せを感じられる持続可能な環境文明社会を実現するには、こうした活動も必要だと考えているからです。


3.11があっても大きく変わろうとはしなかった日本。気候変動の脅威が日常化しているにもかかわらず一向に動こうとしない政治。民主主義の危機と言われる今、確かにリーダーと言われる人たちの責任は大きいと思います。しかし、様々な不安を抱えていても選挙にも行かず、自らの考えより大勢の動く方向にいとも簡単に動き、大切なことを人任せにしてしまう、そんな私たち市民にもその原因があるように思えます。それでも現時点では民主主義以外の政治形態が浮かばない以上、日本の風土に合った、日本人にふさわしい民主主義を考え作り上げ、気候変動など中長期的な課題にも立ち向かっていくしかないのかもしれません。

そして健全な民主主義を成り立たせるためには、健全な市民社会を、市民自らが築いていかなければならないのだと思うのです。その先鋒を担うのはやはり私たちNPOです。そのためにも、いい加減な「民意」ではなく、しっかりした価値観を大切にする人たちを育て増やす力、その声をすくいあげ、その人たちの共感と支援と協力を得られる力、さらに志ある研究者や企業人、真の政治家や行政官とも結びつき、戦略性を持って提言し実現していく力を磨き上げることが必要なのだと改めて感じているところです。


※今月号より、「地球温暖化」を「気候変動」と表現するようにしました。現在世界各地で頻発する異常気象は「温暖化」などという生易しい状況ではないこと、そして「大雪が降っているのに温暖化なんて嘘だ」などという間違った世間の認識を打ち消すためです。