2014年9月号会報 巻頭言「風」より

次なるステップは…

藤村 コノヱ


今年も世界各地で異常気象による大きな被害が広がっている。国内ではごく最近にも、高知、四日市、福知山、丹波そして広島などが集中豪雨に見舞われ、死傷者、冠水、土石流や土砂崩れなどの被害が続出した。また海外でも、山火事、豪雨、熱波が続いている。まさに、異常気象が日常化し、IPCCが発し続けてきた警告が現実になっているが、そうした危機的状況の中にあっても、国内の気候変動対策は遅々として進んでいない。

気候変動に対応するための2020年以降の新たな枠組みづくりに向け、国連は2015年3月までに目標案の提出を各国に求めている。しかし、いまだ日本政府の方針は定まっていない。EUは2030年目標を2015年3月までに、アメリカでさえも2025年目標を同時期に提出する旨明示しており、こうしたことも含め、昨今の日本政府の後ろ向きな姿勢に国際的非難が強まっているのは当然である。

この姿勢は気候変動に限ったことではない。2010年、生物多様性の保全を目指して名古屋で採択された名古屋議定書についても、日本政府は批准することなく、そうこうしているうちに議定書自体は発効、日本はこの分野でもリーダーシップを失う結果になっている。

政府対応の停滞の原因として、3.11以降、環境省が原発事故も含めた災害処理に追われていることもある。しかし、根本的には、「経済」軸に過度に偏りすぎている現政権とそれを取り巻く経済界にあることは見当がつく。実際、この夏も安倍総理は経団連メンバーと共にエネルギー獲得に奔走し、アメリカが厳しいCO2排出基準を定め、世銀など世界的金融機関が融資基準を厳しくした石炭火力発電を成長戦略に組み込んだ。また電力会社の採算性の為に原発再稼働を急いでいることや、法人税率引き下げの財源確保の為に私たちNPOに対する寄付の優遇措置の見直しを検討していることからも、経済界重視の姿勢は明らかである。“総理の周りを経済界が取り巻き、環境の話などできない”“米国側から気候変動への取組要請があるが、外部にはそうした話は伝わってこない”という声も聞かれる。

勿論経済も重要である。しかし、経済は人間・社会を豊かにする一つの手段であっても全てではない。まして、経済界は社会を支える一つの集団であって全てではない。にもかかわらず、一国の政府が一つの手段、一部の声のみに偏るのは、あまりにリスクが大きすぎる。『「貪欲と高利と警戒心とを、まだしばらくの間われわれの神としなければならない」という忠告を与えたケインズですら、それと矛盾したかたちで、「経済問題を重大視するあまり、もっと大切なことがらを経済の必要の犠牲にしてはならない」と戒めている。』(シューマッハー著「スモール・イズ・ビューティフル」より)

加えて、グローバル化を標榜するにしては、あまりに世界の動きに鈍感すぎるのではないかと思う。先月、米国のNPOが世界のGDPの約8割を占める16か国・地域を対象に、建物・車・産業での省エネ政策や導入率を評価した調査結果が報じられた(8月8日付毎日)。日本は6位(2012年は4位)で57点、CO2最大排出国の中国を下回る結果であった。確かに石油ショック後の日本は省エネ大国であったが、今やそれは過去の栄光であり幻想であることを示す結果となっている。

また米国の投資家の間では気候変動に伴う運用リスクへの関心が高まっているという。ダイベスト(投資徴収)と呼ばれる市民運動ではCO2規制等の強化により業績悪化が予測される企業名をリストアップしたり、米欧を中心とした大手機関投資家70団体が、温暖化がもたらす投資リスクに歯止めをかける活動を開始した旨も報じられている。(8月3日付朝日)。

私たちから見れば、世界中の科学者の調査・研究・英知の積み重ねであるIPCCの報告、なかんずく気候変動をさらに強める地球規模の海流循環異変の要因とされる深海での温度上昇、そして国内はもとより世界中で頻発する異常気象による甚大な被害などに、これほど鈍感でいられること自体が、世界的視点のなさを物語っているように思われるが、こうした世界の動向そして異変を、政治家、政府そして経済界のリーダーはどのように受け止めているのだろうか。もし本気で、グローバル化する世界の中で、日本を、そして企業活動を持続させようとするのであれば、自分たちに不都合な真実にも真摯に向き合わなければ、厳しい地球環境時代を生き残ることなど、到底、不可能だと思うのだが…。

そんな政府や産業界に業を煮やして…というわけではないが、今、二つのプロジェクトの準備を進めている。

一つは、前号でも少し触れたが、経営者環境力大賞受賞者による「環境力クラブ(仮称)」の立ち上げである。経営者である以上、利益を上げなければ会社は存続しないのは当然だが、受賞した経営者の方々は、短期的な視点と中長期的な視点の双方を持ち、環境と経済のバランスを上手くとりながら健全で持続的な企業活動を展開しておられる。こうした経営者がつながり、環境経営の考え方を広め仲間を増やしていくことで、「環境」と「経済」の統合こそが、持続する真の経済活動であることを多くの経営者や市民にも知ってもらいたいと考えている。

もう一つは、私たち日本の環境NPOが、持続可能な社会を担う一員として、政府や社会に強力に働きかける力を持つために、「グリーン連合(仮称)」を立ち上げることである。9月26日の全国交流大会では設立を広く呼びかけたいと、その準備を進めているところである。

予想以上に急速に進んでいる気候変動とそれに伴う被害の大きさに、「もう間に合わないかもしれない‥」という思いも浮かぶ。しかし、会報第一号の加藤共同代表の言葉は、「座して待つか、働きかけるか」である。

少しでも次世代の犠牲を減らすために、組織や立場は異なるけれど、同じ志の仲間とつながることで、次のステップを踏み出したい。