2018年1月号会報 巻頭言「風」より

「持続性」と「人間性の豊かな発露」をめざして

藤村 コノヱ


新しい年をいかがお過ごしですか。

既にご承知の方も多いと思いますが、当会では、2030年頃を視野に、これから先の望ましい社会や暮らしの姿、その実現策について、『生き残りへの選択~環境文明社会の構築に向けて』(2013年)として取りまとめ、冊子にしました。当時そして現在も国として「持続可能な社会」を目指すことは表明していましたが、その具体的なイメージは示されていません。しかし、将来に向けた目標、夢や希望は人間が前に進む大きなモチベーションになります。そこで、国の方針を待つのではなく、私たちなりに目標とすべき望ましい将来像を描こうとしたわけです。

約3年にわたる議論の末、望ましい社会像を、「地球の有限性を皆で認識し、自然環境と社会・経済活動の調和を図ることで社会の持続性と安心・安全を確保したうえで、人間性の豊かな発露と公平・公正を志向する文明を体現した社会」としました(内容は冊子をご覧下さい)。作成から5年ほどたった今、目標達成はまだまだですが、それがどの程度進んでいるか、私たちが示した2つの方向に日本は向かっているのか、新年にあたり、確認してみようと思います。

一つの方向性である「社会の持続性」については、パリ協定が一昨年に発効し、世界が脱炭素化へと大きく舵を切りました。一方、世界には環境問題だけでなく、社会、経済の混乱と危機も進行していることから、国連では、「誰一人置き去りにしない社会」を築くために、SDGs(Sustainable Development Goals)として、環境のみならず、貧困、飢餓、健康・福祉など2030年までに達成すべき17分野の目標を掲げ総合的な変革へと取組を開始しました。現実の世界は悲惨な争いも続くなど持続性とは程遠い現状ですが、この二つの合意が、持続可能な社会づくりに向け世界が動くきっかけとなったことは事実です。そして、少なくとも脱炭素化に向けては、トランプ氏のパリ協定脱退表明後も、多くの国が産業界も含めて強い意志で取組を加速しています。

日本は、と言えば、SDGsは従来の取組の延長でもできることなので企業も環境省も熱心です。しかし、大転換が求められる脱炭素化への取組は世界に大きく後れを取っています。

年末のNHK番組で、COP23に自信満々で参加した日本の企業関係者が、NGOのみならず世界の投資家や専門家から「議論している暇はない」「行動あるのみ」「日本には変わる勇気がないのか」との言葉を浴びせられ、“このままでは世界からはじき出される”“2-3年後には投資も取引もできなくなる”という危機感を募らせた場面が放映されました。まさに、日本の遅れを如実に表した場面でした。世界の名立たる企業が脱炭素化をビジネスチャンスと捉え取組を加速しているのに、日本は経産省寄りの安倍政権の“危機感のなさ”から、古い体質の一部産業界の声ばかり重視し、石炭火力を増設・輸出し、再エネの拡大を阻害し、頑張る企業の足を引っ張る状況です。「炭素税」導入に意欲的なはずの環境省ですが、「炭素税の議論を市民参加でも進めよう」という私たちNPOの提案に対し「現在専門家で議論しているので…」という後ろ向きな回答。さらに、昨今の有名企業の不祥事の主な原因は、短期的経済性・効率性を最優先し人手を減らし続けたことにあるとすれば、「持続性」とは真逆の発想です。来年度予算も将来世代にツケを残すばかりの内容。日本全体、特に大きな力を持つ人たちの、危機感、変革への覚悟、そして先見性のなさが、日本の停滞、持続性の壁になっているように思えてなりません。

一方、「人間性の豊かな発露」については、スポーツや芸術などで若者が様々な才能を開花していますが、学問分野では「これから先ノーベル賞は取れなくなる」と言われ、常に上位にいた技能オリンピックで9位に陥落という状況です。またスマホに没頭する若者や会話のない親子連れ、恋人たちを見ていると、ITの深化と拡大が人間性の発露に役立つのか甚だ疑問ですし、本来若者の人間性開花を支援すべき「おとな」の多くが、「忙しさ」と、「今だけ」「お金だけ」「自分だけ」という状況の中で、どう豊かな人間性を培っていけるかとても心配です。軍事費を増やすより、経済成長より、もっと大切なことがあるのに…。

そんなことを考えている時、『僕たちはこの国をこんなふうに愛することに決めた』(高橋源一郎著)という本を読みました。宿題も何もない、唯一子どもたちに課せられているのは「何かを作ること」という学校で、「くに」づくりに挑戦した子どもたちと彼らを取り巻く「おとな」たちの不思議な物語。著者が子どもの言葉で、「くにとは?」「憲法とは?」という根源的な問題を考えていく内容ですが、こんな見方もあるのかと参考になるだけでなく、主人公ランちゃんを通して筆者の人間に対する温かく深い愛情と豊かな人間性が感じられる作品です。同時に、こんな学校や家庭で、こんな「おとな」にたち囲まれていれば、子どもたちの人間性は豊かに発露するだろうと思わせる作品です。

持続可能な社会への挑戦はまだまだ道半ばです。社会の持続性への道筋は少し見えてきたように思いますが、「豊かな人間性の発露」には、さらなる挑戦が必要なようです。

幸い、危機感、覚悟、そして先見性を持った「おとな」たちがいる地域では、国などあてにせず、既に動き出しているところもあります(例えば東近江や淡路など)。そこでこんな学校ができ、子どもたちと一緒に地域づくりが進められれば、「持続性」も「人間性」も、さらにその次の世代にも引き継がれていくように思います。そんなことも、当会の今年の目標にしていきたいと思っています。