2018年3月号会報 巻頭言「風」より

急がば回れ!?

藤村 コノヱ


乱高下はあるものの株高が続き、有効求人倍率も高めで、世の中は景気がいいそうです。また仮想通貨流出も世間を騒がしていますが、ともに全く関係ない生活を送っている私には実感がわきません。一方国会では、憲法、加計・森友問題、働き方などの議論もされていますが、異常気象による気象災害が頻発し、多くの人に被害が及んでいるにもかかわらず、そうした議論は少ないようです。

パリ協定が発効して既に1年以上たちますが、日本では気候変動適応法案が提出され今国会での審議が予定されているものの、国民的議論や報道も少なく、市民の関心もなかなか高まりません。そうした中、1月初旬に、久しぶりに中環審地球環境部会が開催されました。発言時間が短いことから、今回は端的に、鉄鋼や電力など一部産業界に配慮するあまり、日本の気候変動政策は世界から大きく遅れ、それが産業界全体に及び、国益を害し、将来世代にツケを回していることに対する政府の考えを問いました。また炭素税も議論ばかりで何時から始めるのか?と。私以外にも数名の委員と座長からも同様の厳しい発言がありましたが、環境省からは明快な回答は得られませんでした。

1月号で少し触れましたが、気候変動問題に対する日本の政策と企業の取組が世界から大きく後れを取っている現状は否めません。最近では、電力会社の「日本の送電線の空き容量がないので再生可能エネルギーを受け入れられない」というこれまでの説明は嘘で、実際の利用率は20%以下であることが明らかになりました。原発再稼働、石炭火力発電所新設、そしてこれらの海外への売り込みも然りですが、一企業と言えども公益を担うはずの電力会社が自らの短期的利益と保身のために、再生可能エネルギーの拡大を妨げ日本の持続性を害していることは許されることではありません。

今、昨年12月号の書評にあった『これがすべてを変える~資本主義vs気候変動』を読んでいます。書評にもあるように、「資本主義陣営に属する人達が、大金を使って専門家や政治家を取り込む」実例が、主に米国を中心に書かれています。最初は気候変動問題解決に役立つという名目(win-win)で、規制には反対しつつ、先端技術の開発を進めていた企業(実業家)が、途中で、それを儲けにつながる環境破壊技術に変えてしまった実例、また、最近話題の地球工学(CO2回収や太陽光遮断等を行い気候変動の改善・維持を目指す工学技術)の裏にも、実は、気候変動の危機に乗じて富を増やそうとする実業家(例えば、ビル・ゲイツは地球工学推進派のパトロンとのこと)の例がこれでもかという程紹介されています。その背後には、科学技術が最終的には気候変動の危機を救うという信仰と、被害を受けるのは貧しい人たちで豊かな自分たちは決して被害は受けないという傲慢さ?があるとの指摘は全く同感です。

日本はまだそこまで酷くはないと思いますが、様々な分野で規制緩和を進め、民間に、という流れが加速している背景には、財政難という理由だけでなく、短期的利益を上げるための産業界からの強い働きかけと、それに呼応し私財と権力の拡大を目論む政治家がいることは否定できません。(最近はそれに加担する官僚もいるような・・・)。読み進めるにつれ、全てとは言いませんが、日本企業の昨今の実態、実業家と政権との癒着などがオーバーラップして、世界中にいる、こうした「今だけ」「金だけ」「自分だけ」という行き過ぎた資本主義にどっぷり浸かった人達を、気候変動に真摯に向き合い、脱炭素社会へと行動する人に変えることは可能だろうか?という疑問が深まるばかりです。

また本には、そうした流れに押され、「魂を売った」米国のNGO(大規模環境保護団体)の例も出てきます。それらNGOは、資金、会員数、影響力において、日本のNPOとは比較できない程巨大で、それだけの組織を維持・運営するリーダーには、政治力や資金獲得力など、いわば実業家と同じ能力が求められるでしょうから、そうした事態も想像できます。そして、私たち日本のNPOも企業からの助成金を受けています。その額は米国のそれとはケタが違うので「魂を売る」ようなことはありませんが、委託事業などを請け負えば、自らの使命より利益を優先せざるを得ないという事例は既にあり、日本のNPOと言えども、資本主義の流れに翻弄されかねないという思いもします。

さらに、私を含めほぼすべての人が、程度の差こそあれ、現在の化石燃料に依存した経済システムから利便性や快適さなどの恩恵を受けている中で、これとは別の道を歩むことが可能か?という疑問も湧いてきます。

1月末開催の全国交流大会では、そうした状況下で、どう脱炭素社会を実現するかについて意見交換しました。メディアや市民の奮起、継続的取組の必要性、ラディカルの二つの意味(急進的・過激な/根本的・根源的)の実践、市民教育、企業にメリットを伝えること等多様な意見がでました。また本誌でもいくつかのヒントを紹介しています。

資本主義の限界は認識してもそれに代わる経済システムを誰も提案できていない中では、新たなシステムへの転換は簡単ではありません。まずは、市民一人一人に当事者意識をもってもらう、そのために個人の暮らしや地域、経済活動と気候変動とのつながりを明確に伝える。併せて、市民参加のもとに持続可能な地域づくりを進めている実例を伝え、その動きを盛り上げていく。そんな地道な活動の先に道が開けることを期待して、継続していくのが、「急がば回れ」なのかもしれません。