2021年12月号会報 巻頭言「風」より

なぜ、いま改めて環境倫理なのか?

藤村 コノヱ


今年も昨年に引き続きコロナに明け暮れた日本と世界。そうした中で10月末に行われた衆院選では、私たちNPOや若者の働きかけにもかかわらず気候危機や原発が大きな争点になることもなく、常連議員の落選以外は風が吹くことはありませんでした。受け皿になるべき野党が弱すぎる現状では政権交代は遠く、しばらくは自公の連立政権が続きそうですが、どの政権であれ、難題山積の中で、気候危機はじめ環境の悪化や財政などこれ以上子どもたちにツケを残すことのないよう、中長期的視点で、「人」に焦点を当てた健全で公正な政治に期待するしかなさそうです。そして私たち市民も、コロナ禍で学んだ「市民の危機感と政治のリーダーシップで社会は動く」ことを忘れずに、Never give up で行くしかなさそうです。

一方衆院選の直後から、英国グラスゴーではCOP26が開催されました。それを前に、「気候変動は100%人間活動によるもので、影響は予想以上のスピードで進んでいる」とのIPCC報告、「現在の各国の削減計画では危険な気候変動を回避するには不十分」という国連環境計画(UNEP)の警告、さらに「絶滅を選ぶな。言い訳するのをやめ、変わり始める時が来たのだ」との国連総会での恐竜の演説などもあり、世界中が注目する会議となりました。結果は、世界の平均気温の上昇を「1.5℃」に抑える努力を追求する決意を示したこと、この10年が決定的に重要としたこと、CO2の20倍以上もの温室効果があるメタンの排出削減に向け国際的枠組みが発足したこと、全会一致が難しい課題については意欲ある国や企業が先進的に対策を進める動きが出るなど一歩前進です。しかし石炭火力に関しては、英国政府の努力や私たちNPOの期待にもかかわらず残念な結果でした。ただ大切なのは今後の実行であることは言うまでもありません。


ところで、既に会報で報告したように、当会では今回の衆院選を前に、『気候危機の時代をリードする政治家としての倫理と政策』と題したアンケートを立候補予定者に行いました。その理由は、最近の政治家の倫理観の低下への憂慮に加えて、時空を超え甚大な影響を及ぼし始めている「気候危機」という人類にとっての重要課題に取り組むには、目先にとらわれない中長期な視点や科学的視点と併せて、言動の基礎となる人間としての倫理観や行動規範、さらに政治家としての覚悟が不可欠だと考えたからです。

一方こうした倫理観や覚悟は、政治家だけではなく、私たち市民にも求められています。もし以前のように、私たち人間の活動が地球環境の許容内に収まり、大雨や洪水被害、熱波などによる被害がなければ、覚悟なども必要なかったでしょう。しかし現実には、今年も日本各地を豪雨が襲い、ドイツや中国では大水害、アメリカやスペインでは山火事など国内外で甚大な被害が続出。海面上昇で移住を余儀なくされる国や、食料生産ができず貧困・飢餓に拍車がかかっている人々など、異常気象が世界中の人々の暮らしや社会・経済活動そのものを直撃しています。このまま手をこまねいていたら、私たちの生命・財産も社会も経済も吹っ飛んでしまうほどの危機が待ち受けているというのが「今」です。

だとすれば、いまさら倫理などを語るより、もっと具体的な行動を、という意見も多くあり、メディア等が注目するのもそちらの方です。今回のCOP26での首脳級会合でも「行動を」の発言が相次ぎ、会場の外で、若者たちが繰り広げるデモも口約束ばかりで行動しない大人・リーダーたちへの抗議でした。

勿論行動は必須であり、危機が迫った現在、政治家にも行政や企業、そして私たち市民にも、各々の立場での行動が求められており、当会でもデモや政策提言といった活動も継続しています。

しかし一方で、大変革を伴う気候危機に対しては、危機感や戦略性も必要であり、それを可能にするのは、科学的知見と人間としての倫理観・考え方、それらに裏付けられた先見性や覚悟ではないかと思うのです。それがなければ、溢れる情報の中でフェイクニュースに流され、大勢に迎合し間違った方向に進む可能性もありますし、何より、社会の大転換という長期戦に耐えられないと思うからです。しかし残念ながら、日本では哲学や宗教、倫理、政治や市民社会に関する教育が疎かにされ、社会に出ても本質的なことを深く考え議論する場が殆どありません。というより多くの日本人はその手の議論を好まない傾向もあるようです。昨今の国会も然りですし、毎年やってくるインターン生も、当会の部会やセミナーでの議論を体験して、「初めての体験」という学生が殆どです。


本誌10月号「グリーン化と脱成長」の中で、「人々の考え方が変わらない限りは行動も変わらず、原理や理想だけでは人々は動かない」と書いたことに対して、佐渡に住む会員さんから、「原理や理想を鍛えることなしには人々は動かないことも事実」と言い切った方がいいとのご指摘がありました。さらに追伸で、“核心となる思想や理念がなければ、少なくとも社会的な大きな波は起こらない。若者が動かないのは手法の問題ではなく、その根本は思想や理念の不在で、深い思索を怠った先行世代にも責任はある”旨のご意見も頂きました。その通りだと思います。

そして、様々なNPO/NGO活動がある中で、「環境問題は文明の問題」として立ち上げた当会の役割は、やはり「行動」を裏付ける倫理観・考え方、原理や理想を鍛え上げる場となり、それを広げることであり、成立以来、継続してきた倫理部会での議論を今後も続けようと改めて思った次第です。全国交流大会では、倫理部会の議論をベースに、脱炭素時代を生き抜く考え方と暮らし方をテーマに、普及の必要性や方法についても議論を深めることができました(詳細は1月で)。

それらも含め、今年も1年、温かいご支援をありがとうございました。