1995年3月号会報 巻頭言「風」より

ゴルバチョフ氏と環境問題

加藤 三郎


ゴルバチョフ氏といえば、85年3月から6年9ヵ月間、ソ連の最高指導者のポストにあって、ペレストロイカ(刷新)やグラスノスチ(情報公開)を強力に押し進め、東欧諸国の「解放」とソ連の崩壊をもたらした政治家としてあまりに有名だ。彼はまたアメリカのレーガン、ブッシュ両大統領との歴史的和解も達成し、今日の冷戦後の世界をつくり出した主役の一人だ。私にとってはテレビなどでしか知らないが、いかにも政治家らしいと思っていたお方である。そのゴルバチョフ氏に、2月某日、都内のホテルで親しくお目にかかる機会があった。

その場は、グリーンクロス・ジャパンの理事長である岩崎照皇氏が、グリーンクロス・インターナショナルの会長であるゴルバチョフ氏を歓迎するための内輪の夕食会の席で、そこには岩崎氏らの日本での活動に心を寄せ応援している石原慎太郎氏や作家のはかま満緒氏らとともに私も呼ばれていたのである。2時間足らずではあったが、ゴルバチョフという歴史的人物にお目にかかれ、意見を交換できたのは貴重な体験であった。

ところでグリーンクロス・インターナショナルといっても、おそらく会員の多くはご存じないと思うので、その設立の理念と原則を簡単に紹介することにより、最近のゴルバチョフ氏が環境問題についてどう関与しているかその一端を知る手掛かりにしたい。

この会は、ゴルバチョフ氏らの呼びかけにより93年4月京都で開催された会議によって正式に発足したばかりの国際環境NGOである。会を生み出した理念としては「生命は尊厳である。いかなる形の生命も本質的な価値をもち、相互依存的なコミュニティを形成している。全体が機能するためには、生命コミュニティのすべての部分が必須である。人類はこのコミュニティの外にも上にも存在するものではなく、その一部にすぎない。歴史上初めて人類は、意識するしないにかかわらず、すべての生命がよって立つところの生態的バランスを損なう力を持った。その危機は差し迫っている」に集約できよう。

また会の原則として持続性、価値観の転換、教育、環境保護と人間ニーズの両立、非政府組織、独立性、個人の資格、協力、オープンさ、市民に根ざすこと、多分野性、地域であり同時に地球規模、情報伝達および地球を尊敬する人々のコミュニティであることの14項目を掲げている。

一時代を画した政治家が、環境への危機にこのような形で深くコミットしているのは私にとっても興味深い。