1997年4月号会報 巻頭言「風」より

早春の小諸路

加藤 三郎


3月末に1泊2日で長野県の小諸へ行ってきた。目的は、二つの廃棄物処理施設を見ることである。実は私は住友生命総合研究所の客員研究員も勤めており、3、4名の若い研究員と一緒に日本の企業や消費者の環境意識と行動の調査・分析をしているが、そのかたわら時折エコツアーと称して、環境の現場を皆で訪れ、勉強を重ねている。昨年の暮れには、千葉県富津にある東京電力のエネルギーパークを環境文明研のスタッフも加わって見学している。今回のテーマは廃棄物処理というわけである。

この日の小諸は、空は青く晴れ上がり、近くに見える浅間山は麓まで雪で白く輝き、そのコントラストが見事であった上に、薄いピンクの桜の花も咲き出そうとしており、まことに贅沢な早春の景色である。藤村が『若菜集』で

浅みどりなる新草よ とほき野面を画けかし
さきては紅き春花よ 樹々の梢を染めよかし

と春を詠った風光もかくやと思うばかりである。そのなかをまずは小諸市などの可燃ごみを焼却している浅麓クリーンセンターを訪れた。

このセンターは私にとっては忘れられない“古戦場”でもある。ここでは、センターの建設を巡り、15年以上も大もめにもめていたところで、当時私は厚生省の廃棄物担当課長として山中にある建設予定地を訪ね、雨が降りしきるなか、傘をさして立ったまま反対住民やその支援グループの人々と2時間近くも話し合いをもったこともあるからである。その後若干の曲折を経てクリーンセンターの建設が合意されたが、今回訪れたクリーンセンターは昔にそんな騒ぎがあったとは思わせない優雅なたたずまいでしっかりと着実に仕事をしていた。

小諸で訪れたもう一つの現場は、本会の会員企業でもあり廃棄物処理業界でも注目すべき業績をあげている(株)藤総業である。まず、その最終処分場に案内された時は全員が感嘆するほどのもので、そのあと処理工程の各セクションを見せてもらった。見学のあと山口藤吉郎社長と2時間ほど廃棄物処理業を巡るきわめて率直な意見交換があり全員満足してこの最先端にあるごみ処理会社をあとにした。

この日の夜は市内の温泉宿である。予定ではゆっくり温泉を楽しんだのち夕食ということだったが到着時間が遅くなったので、宿に入るなり食事となった。一行のうち私だけはクリーンセンター建設時の“戦友”が待っているというので、夕食もそこそこに切り上げて当時の塩川忠巳小諸市長、担当の丸山氏、今も現役で頑張っている岡田氏、それに現助役などが待って下さる“同窓会”へと駆けつけた。思い出話や苦労話に花を咲かせたあと、当会会員でもある丸山、岡田、依田の三氏に宿にまで送ってもらったが、ここでも人気者の藤村コノヱさんも加わって、「考える会」のこと、支部活動のことなどの話に夜更けまで花が咲いた。

翌日は帰りがけに懐古園に立ち寄った。藤村記念館などを見たあと千曲川を展望できる場所に立ったがなんと目下の千曲川の河川敷では石やら盛土を削り取るブルドーザーやダンプが行き交い、ここでも自然を傷めている様子に、藤村の「遊子悲しむ」とはこのことかと思ったりした。

それにしても久しぶりに英気を養い、新しい年度に備える旅となった。97年度もどうぞよろしく。