1997年11月号会報 巻頭言「風」より

熱い長い戦い

加藤 三郎


会員の皆様もつとにお気づきのように、最近特に地球温暖化関係の記事やニュースが沢山出てきている。この会報がお手元に届く頃には、さらに大きなスペースを使って、各種の解説やキャンペーンのための記事や番組も登場していることだろう。本誌もその例にもれず本号から3ヶ月間、21世紀にかけて重大な問題に発展すると思われる地球温暖化に焦点をあてるつもりでいる。

マスコミの関心の高まりの背景は、この12月1日~10日に京都で、地球温暖化対策に関する条約の第3回目の締約国会議(COP3)が大々的に開催されることにある。京都会議に関連して、マスコミが地球温暖化問題、特に国内の諸勢力のこの問題に対する取組み姿勢の相違や先進国間の複雑な交渉ぶりに焦点を当てて盛んに報道していることもあって、直接、影響を受ける産業界だけでなく国民もそれなりに関心を高めてきているように思われる。

そもそもこの条約(正式には「国連気候変動枠組み条約」)は、5年前の「地球サミット」で署名に供すべく、やはり極めて難しい交渉の末にようやく締結されたものである。私個人は、当時、環境庁の担当者(地球環境部長)として、終始この条約を成立させるための交渉に臨み、様々な利害や立場が錯綜する中で痛切な体験をしているので、公務を離れた今も、この条約の実施の行方には重大な関心を寄せつづけている。

しかし、このような個人的な経験だけが私を突き動かしているわけでない。温暖化自体が持つ人類社会へ長期にわたって与えるインパクトの重大性と巨大性である。それこそが、私が役所を離れて、環境文明研究所とともに本会の設立を決意させた最も直接的な動機であり、地球温暖化のような、いわば、現代文明の病にどう対処すべきかをいろいろな方面から探る努力を会員はじめ多くの方々と一緒に続けるエネルギー源となっている。

本誌の本シリーズで、多くの識者や会員から、温暖化問題の深刻さや対応方策について様々な視点から議論がなされるであろう。ここで、私が特に強調しておきたいのは、人類がここ2世紀なかでも20世紀に入って使用を爆発的に増加してきた石炭、石油、天然ガス(化石燃料)などによってもたらされた地球の温暖化は、もはや止まらないものであり(そのスピードは人間の努力によって多少コントロールは出来るようだが)、温暖化との付き合いは少なくとも今後数世紀は続くことを覚悟せねばならないことである。それが人類社会にとってどんなことを意味するのかは、21世紀に入れば少しずつ(時には突然)思い知らされることになろう。実は、途上国など世界では、このことが強く感じられるような現象がすでに生起しているが、日本のような先進国では、今のところそのリアリティが少ないだけである。

それを思うと、温暖化をもたらした人間の行為とそれを支えてきたシステムを変換するための戦いは長くならざるを得ない。COP3は、そのスタート地点に近い一里塚だ。来年にはCOP4があり、再来年にはCOP5があり、といった具合で、COP10、COP20・・・と長い苦しい途を辿ってゆかねばならない。COP3の結果がどうであろうと遅かれ早かれ、CO2などの温室効果ガスの大幅な削減や大規模な植樹や太陽・風力などのクリーン・エネルギーの拡大使用は必至となる。そんなことを考えながら、COP3がグッド・スタートをきることを熱い思いで見つめている。