1998年10月号会報 巻頭言「風」より

今こそ政治の出番

加藤 三郎


「政治」は変わらないように思えても、この10年ほどを振り返ってよく見ると、やはり確実に、しかも大きく変わりつつある。80年代中端からの冷戦の終焉とソ連邦の崩壊以降、地すべり的な地殻構造の変化は、世界のいたるところで起きている。

日本も、今から考えればコップの中の嵐しはいやというほど見せられてきたが、政治らしい政治のなかった55年体制が吹きとんで、今は皆株屋になったみたいだ。「株価が何円になった」、「ドルが何円に上がった、下がった」と大騒ぎだ。その間にも、世界の人々は毎年8千万人前後増え、スラムは広がり、飢えや路上に病み、身体を売る子供は増加の一途をたどり、地球の温暖化、オゾン層の破壊、酸性雨などで地球の環境は蝕まれつづけている。

こう書いている間にも、ドイツに政権の交替があり、緑の党が政権に参加するというニュースが入ってきた。緑の党の政権参加にあたっては、原子力政策の見直し、環境税の導入などが大きな論点になるとニュースは伝えている。その同じ時に日本の政治では、相も変わらず公共事業の前倒しや財源に苦しむ地方公共団体を国が肩代わりしての景気の建て直し云々が「政治」の中心に居座っている。

アメリカの政治も、表面を見るとスキャンダルや反環境主義が強いように見えるが、アメリカを支える政治の地下水脈はしっかりしていることを感ずる。一例をあげれば、アメリカの知識層や豊かな人が比較的多く住むマサツセッツ州で、注目すべき州法(電力再構成法)が通過し、本年3月から施行された。

その州法は、一口に言えば、地球温暖化など環境問題に対応するため、再生可能エネルギーの利用を促進するものであるが、面白いアイデアがいくつも盛り込まれている。

その一つは、電力の使用者に、電力の価格データ、発電時に発生する環境負荷情報(燃料源やSOX 、NOX 、CO2 、重金属発生量など)をもれなく提供することによって、電力使用者が電力供給者を選ぶことを可能にすること(当地では、発電と配電は別)。

二つには、すべての電力使用者からkW時あたり、一定額を徴収し、再生エネルギー開発基金をつくること。これにより、今後5年間で1億5千万ドル(約200億円)の基金になるという。

三つ目は、電力の最終供給者に、5年後の2003年末までに、最低1%の電力は新規の再生可能エネルギー源からの供給を義務づける基準を定めたこと。

四つ目は、再生可能エネルギー源からの電力利用者やエネルギー効率向上機器の購入者に対する所得税上の優遇措置の検討を州の税当局に命じていることである。

アメリカの一州の施策にすぎないと言えばそれまでだが、それを紹介した主旨は、こんなことが「政治」というものではないか、何故、日本でこのようなことが出来ないのか、挑戦しないのかと問いたいからに他ならない。

いうまでもなく現下の日本は、経済「危機」だ。しかし政治家までがバタバタうろたえてもしょうがない。ピンチをチャンスに変えて、従来の発想にとらわれず、しかも21世紀に確実に活きてくる面白い政治が出来る筈だ。

日本の国民も政治家も、今こそ眞の「政治」の出番と認識すべきだ。そうしないと世界との差は拡がるばかりだと心配するのは私だけではなかろう。