2003年4月号会報 巻頭言「風」より

声を出そう

藤村 コノヱ


世界中の反戦デモや国連での議論も甲斐なく、ついにイラク戦争が始まってしまいました。連日報道される戦況に、人間の愚かさ、強者の驕りと弱者の悲しみを感じずにいられません。同時に、日本政府の姿勢に「民意」と「政治」の乖離を感じる場面も多々あります。そしてその度に、私たち市民の声をどう政治に反映させればいいのだろうと考えてしまいます。

このように、政治と私たちの願いとが合致しないことはしばしばです。しかし、時には市民の声が政治家に届くこともあります。私たちの提案がきっかけとなって今国会への提出が検討されている「持続可能な社会に向けた環境教育・環境学習推進法(仮称)」がそのひとつです。

1.市民発、議員立法までの経緯

2月19日民主党が「環境教育・環境学習振興法」を参議院に提出、これとは別に与党三党でも、同趣旨の法案を今国会へ提出しようと、現在法案作成作業が進められています。

こうした動きのベースに、当会環境教育部会が昨年5月に作成した骨子案、並びにその後の協議会の活動があることはいうまでもありません。以前も書きましたが、持続可能な社会の基盤になる環境教育・学習を根付かせるには推進の仕組が必要との思いから、一昨年末有志十数名で法律制定に向けた骨子案を作成・発表。同時に、法律をつくるには国民的運動にする必要があるとの思いから、他団体や個人にも呼びかけて推進協議会を設立し、会長には、当会会員でもある愛知和男元衆議院議員にお願いしました。こうして「市民発!議員立法」に向けた第一歩を踏み出したわけです。

その後、度々環境に熱心な議員を訪ね、私たちの思いを伝えてきました。それが功を奏してか、昨年11月には自民党鈴木恒夫議員を委員長に、与党三党の小委員会が発足し、週一回の頻度で勉強会が開催されるようになりました。そして、現在、国会並びに関係省庁間の調整作業、そして法制局での法案作成作業が進められている模様です。ただ、こうした段階で「おやっ」と思ったこともあります。それは、ヒアリング対象は関係省庁や学者が中心で、議論のきっかけを作った当会はもとより、他のNPO、現場の実践者からの意見はあまり重視されていないことです。つまり、国会という場に持ち込まれた段階から、私たち市民の思いを個々の議員に伝えること(ロビー活動)はできても、正式な場で伝える手段は限られているのが現実なのです。

2.私たちの思いをどう政策に反映させられるのか

ところで、この問題に限らず、一般に私たち市民の思いを政治に反映させる方法にはどんなものがあるでしょうか。

まず選挙がありますが、残念ながら、今の選挙は政策を競うほど質の高いものではありません。それに、環境教育が選挙の政策争点になるとは到底考えられません。

住民投票もあります。特に環境問題では、1996年新潟県巻町で原発建設の可否を問う住民投票が日本で初めて行われ(投票率はなんと88%)、その後も御嵩町の産廃処理施設建設問題で実施されました。結果は法的拘束力を持つものではありませんが、メディアが取り上げ、それが政治への圧力になり、結果として双方とも建設がストップしました。住民の思いが政策に反映されたわけです。しかし、この方法も地域レベルの問題には有効でも、今回のような全国レベルの問題にはそぐいません。

デモやパレードも有効な方法です。実際私たちも一昨年は京都議定書の早期批准を求めて数回デモをやりましたし、現在世界中で繰り広げられている反戦デモは、少なからず世界の政治家への圧力になっているに違いありません。しかし反戦運動と異なり、環境意識はあっても緊急の課題とは考えにくい環境教育の立法化に関しては、一部の関係者の関心は呼んでも、デモやパレードという形で政治家に圧力をかけるのは現実的には困難です。

こう考えてみると、私たち日本人は民意を政治に反映させる手段をあまり持っていない、というより、本当にこれまでは役所任せ、他人任せだったのだと、愕然としてしまいます。

ドイツ・スウェーデンでは環境関連の政策形成過程で、一定要件を満たすNGOの意見を必ず聞くことが法律で定められており、NGO活動にとって大きな意味を持っています。また、昨年ドイツ総選挙の時に偶然現地に居合わせたのですが、翌日訪問した専門学校(15歳位の学生)の掲示板には、地域の投票率、政党別の獲得数などが掲示されていましたし、授業でも、選挙権はなくても自分たちの意見をポスター等にして大人に訴える活動を日常的にやっているという話でした。政治は市民のものという意識を持ち、他人任せにせず、「声を出す」ことを日常的に子供のときからやっているのです。

3.できるところで、声を出そう

私たちの提案がきっかけとなって、国会の場で議論されるようになったことは本当にうれしいことですが、全て国会任せでは「市民発」の意味が薄れてしまいます。それに、環境教育は様々な省庁が関与する問題で、私たちの思いが省庁間の、あるいは政党間の思惑で違った方向に行く可能性もあります。現時点での与党案は、「環境保全活動の促進及びこのための環境教育の振興に関する法律(仮称)」というものですが、環境保全活動だけでなく、企業活動・経済のグリーン化、政治や行政(言い換えれば政策)のグリーン化などを促進する、より広範な環境教育が振興される仕組みができれば、と願ってやみません。

昨年9月南アフリカで開催されたサミットで、小泉首相は「持続可能な発展を手に入れるための最大のポイントは『人』である」とし、「持続可能な発展のための教育の十年」を国連が宣言するよう提案。昨年12月の国連採択を受けて、今後はこれを推進するための国内法整備が求められており、まさに今回の法律がそれにあたると考えられます。現在、今国会成立を願って、国会議員へのロビー活動、メールマガジン・HP・イベントなどを通じての広報活動、署名活動を展開しています。4月17日の東京を皮切りに、日光、大阪などで、シンポジウムも開催します。残念ながら、協議会も事務局も限られた人材で、とても国民的運動にはなり得ていませんし、私たちの活動に対する批判もあるようです。しかし、いずれにしても、声を出さない限り、何も変わらないと思うのです。

3月5日付毎日新聞で、戦争に近づく日本の現状を憂い、「一人ひとりが『賢い個』となれば政治を動かし戦争を回避できる」「どんな批判を浴びようと、自分の考えを表明し続ける勇気を持ちたい」と作家澤地久枝さんは語っています。

今回の私たちの活動は反戦運動に比べればとても地味な活動です。しかし、持続可能な社会を作るという視点では、最大の環境破壊である戦争を回避する(今となっては速く終結させる)ことも、持続可能な社会の基盤となる人づくりのしくみをつくることも、時間軸は違っても共に重要なことです。

そして、環境教育を根付かせることは、例え、現時点では少数派でも、将来世代のためにやらなければならない私たちの使命だと考えています。是非、皆様にもできるところで、声を上げ、よりよい法律ができるよう、ご支援ご協力をお願いしたいと思います。