2008年5月号会報 巻頭言「風」より

企業に吹き始めた風

藤村 コノヱ


4月の東京は本当によく雨が降りました。菜種梅雨とは言いますが、雨の降り方が尋常ではなく、まさに異常気象が日常化してきたような感じです。

一方、洞爺湖サミットを控え、テレビ・新聞などでも盛んに地球温暖化が取り上げられ、企業CMも「環境」や「温暖化」の言葉が目白押しです。そのこと自体はいいことですが、国としての本格的な取組が一向に進んでいないためか、上滑りな感じがしてなりません。EUでは、例えばイギリスが2050年までに60%削減を目標として掲げる法案を準備し、また環境税や排出権取引などは、数年前から盛んに進めていますが、日本は相変わらず「一人1日一㌔削減」のかけ声や「積み上げ方式」といった世界の流れからは明らかに遅れた対応で、このままでは私たち国民のみならず、企業にとっても大きな損失になることは、この会報で加籐共同代表が度々書いていることからも明らかです。市民・NPOも企業も待ってばかりいられません。

そこで、今回は、2007年10月号で速報として伝えた「成長神話脱却への挑戦を促す方策についてのアンケート調査」の続報を、市民・NPOそして企業の新しい動きも加えてお伝えします。

アンケートで分かったことの一つが、環境に熱心に取り組んできた企業人は、環境税や排出権取引など制度の創設に熱心だということです。具体的には、環境と経済の関係についての質問では、アンケート回答者の約70%が「環境対策と経済成長が両立するような制度や仕組みをつくるべき」という意見で、特に、中小企業でその傾向が強く見られました。当会の企業会員には、大企業のみならず、環境に熱心に取り組む中小企業も沢山あります。そうした企業は、環境ビジネスに対する国の支援策が後退する中にあっても、なんとか環境を「業」として継続させようと努力してきた企業です。しかし、さすがに一企業の努力だけでは限界ということで、「がんばる企業が報われる仕組み」を作って欲しいと考えているようです。自由回答にも、「率先して環境対策に取り組む企業に負担が大きいのは不合理であり、市場原理だけに任せていては環境対策の推進は難しい」「マナーを守らない企業があることから、制度による公平性の確保が必要」などの意見がありましたが、こうした企業が社会的にも経済的にも持続する制度や支援策を導入しなければ、日本の企業社会は世界に後れを取るばかりです。

そうした観点からみると、現在政府が行なっているような、国民の税金で海外から排出権を買ってくる方法ではなく、国内でお金が回り、それで国内の環境技術が進むような仕組みを早く作る必要があると思います。短期的な経済性からすると海外取引の方が得かもしれませんが、税金の有効活用、そして日本社会の活性化と持続性から見れば、まず足元の国内の環境産業を元気にする方策が優先されるべきだと思うのです。

先日あるシンポジウムで、当会報にもご執筆頂いた末吉竹二郎氏が、アメリカのある銀行ではCO2は負債であり大量に排出する企業には融資しないことを決めるなど、世界の金融界は「環境」に舵を取っているという話をしていました。そして、自分のお金が何に使われているか、日本の市民はもっと厳しい目で金融をチェックすべきという話も伺いました。確かに税金にしろ、預金・投資にしろ、自分の手元を離れたお金の使われ方に日本人は無頓着すぎます。折角のお金がまずは、国内の環境対策や環境産業の活性化などにつながるよう、物申す「国民」や「お客様」になることも、温暖化対策や「環境と経済の統合」に向けて有効な方法の一つだと改めて気付きました。

アンケートで分かったことの二つ目は、企業の成長についての考え方が量的成長派と質的成長派に二分されたことです。すなわち、企業にとっての成長とは、「売上げ、収益、株価などの経済的価値の増加」とする回答が約34%、一方「社会的信頼の拡大」との回答が約36%で、従来の量的規模の拡大だけでない、成長の考え方が出てきていることは興味深い回答でした。

先日、向山塗料という甲府にある塗料会社を訪問しました。昭和23年創業の従業員数17名の小さな会社ですが、基本理念として、「私たちの仕事は地球を美しくすること」を掲げ、山梨県内で最初に取得したISO14001を活かした「環境経営」を徹底しています。無理して売上げを上げるのではなく、ISOの取組を活かして無駄を省くことで利益を上げる経営に徹し、売上の点だけではマイナス成長でも長持ちする企業経営を実践している会社です。詳細は、追って、相談役の向山邦史氏に書いて頂く予定ですが、向山塗料では「成長」の考え方を、従来の「売上」ではなく、「持続性」に変え、それに従った経営計画をつくり実践しているそうです。すなわち、量的成長ではなく質的成長に方向転換したわけです。それでも意に反して(?)、業績は伸び、従業員の給与も同業他社に比べて高く、マイナス成長にはなっていないとのこと。こうした取組が評価されて「日本環境経営大賞」環境経営部門で優秀賞を受賞したり、多数のマスコミで取り上げられるなどの宣伝効果もあったそうですが、何より経営者の先見の明と早期の決断、そして「足るを知る経済」の実践が功を奏しているのだと思います。(ご本人は売上を伸ばす経営に行き詰った末に、この方向が見えてきたとおっしゃっていました。)

勿論、現実には、多くの中小企業は大手資本に飲み込まれ、地方は衰退の一途という流れが続いて、売上より持続性へと簡単には変えられないことも事実です。それでも、まずは、経営者自身がこれまでの拡大成長路線では決して持続的ではないことを認め、違う経営方法を考え工夫していかなければ先はないのだと思います。またそうした経営が可能になる仕組みを私たちNPOとともに提言し、政治に働きかけていくことも大切ではないでしょうか。

長年業界のレベルアップに苦労され、「環境土木」を旗印に業界内にNPOを立ち上げ会長として活動してこられた会員さんから、『NPOの理事会で、「公共事業も減り他社がどんどん倒産していく中で、環境を勉強し少しずつ実践してきたことで生き残れた」という意見が出た。これまでのやり方ではだめだということに仲間が気付いてくれた』という話を先日伺いました。そして、これからは若い経営者を育てながら、新しい時代に適した持続的な建設業のあり方を考えていくそうです。

こうした企業の動きを受けて、NPOでも、気候ネットワークを中心に、「気候保護法(仮称)」を議員立法で作ろうという動きが出ています。勿論環境文明21も協働して活動していく予定ですが、上記のような環境でがんばる企業が持続できるしくみもその中に組み込んでいきたいと考えています。

政治家や官僚に頼めば解決してくれる時代は終ったことを自覚し始めた企業や、量的成長ではなく質的成長を求めようとする企業、そんな企業を応援し共に活動する市民・NPOでありたいと思っています。