2008年10月号会報 巻頭言「風」より

当会の存在意義を改めて問う
ー全国交流大会に向けてー

加藤 三郎


今から15年前、当会の前身である「21世紀の環境と文明を考える会」を立ち上げた。とは言っても一人で出来るわけもなく、数人の仲間、すなわち、既に環境教育コンサルタント会社を経営しており、今は共同代表の藤村コノヱさん、薬学の専門家でWHO、JICAの専門家を歴任していた鈴木猛さん、(財)日本環境衛生センターを退職したばかりの古谷野加代さん、環境コンサルを経て大学院を修了し、フリーター然としていた荒田鉄二さんなどと一緒に立ち上げたのである。

当時の心境を本誌の創刊3号(93年12月号)において、「なすべきことは、今日の世界状況をもたらしたもの、なかんずく大量生産、大量消費の経済社会システムや価値観に依存する20世紀文明を見直し、持続可能な文明につくりかえることだ。そのためには、例えば経済、利便、快適、スピードといった20世紀を特徴づけるキーワードの中身を一つひとつ点検し、21世紀にも耐える新しい内容に変える地道な努力、いわば21世紀への道普請をするしかない」と私は語っている。

その後当会は、地球環境ののっぴきならぬ悪化を前にして、持続可能な社会を作るにはどうしたらいいかを会員の参加と支持のもと一貫して追求してきたと思う。テーマも15年の間に「環境倫理の探求」「街角にあふれる飲料自販機の適正な設置と管理」「クルマ社会への提言」「大量生産・大量消費に代わるグリーン経済の探求」「日本国憲法に環境原則を導入する提言」「環境教育推進法の議員立法への働きかけ」、「企業の環境経営のお手伝い」、「日本の伝統的知恵の活用」、会員、企業人、日米市民など多くの方々との交流活動、そして、「温暖化問題への提言活動」などに及んでいる。

しかし数年前から、もうひとつのテーマが加わった。それは、NPOが日本の社会で果たしうる重要な役割を強く意識するようになったことによる。官僚時代の最後の3年間、温暖化条約交渉を担当していた時に、グリンピース、WWFといった国際的なNGOの力量、役割、意義に私は瞠目した。それ以前の私は、NGOはポジティブな働きをすると言うよりは、ネガティブなチェック機能の存在という程度の認識しかなかった。しかし、その私が「地球サミット」に向けての準備過程で、国際社会ではNGOが極めて前向きで大きな役割を果たしているのを目の当たりにし、彼等の力量に感じ入った。

当時もそして多分今もそうだと思うが、エネルギーの大部分を省庁間の内部抗争に消費している政府代表団よりも、国境を越えた人脈、情報源を持ち、また分析・発信能力を持つ国際的なNGOの方が温暖化対策を前進させるという点ではよほど大きな役割を果たしていることを実感し、自分もNGOを立ち上げたいと思うに至った。ただ、この段階では、制約の多い役人生活と違って、自由に考え、自由に発言できるありがたさに魅せられただけだったが、NGO活動を続けている間に日本のNGOを取巻く社会環境が急速に変化していった。企業、役所、学界、メディアといった様々なセクターがあるなかで、長期的な視点で社会が直面している重要問題に、果敢に取り組み得る組織は、NGOが最も良い立場にあるのではないかと思うようになってきた。

実際、官僚機構は制度疲労というか、個々の官僚は多少は優秀ではあっても、同じポストに1、2年しかいないで成果も出さずに「出世」していく組織というのは、結果的に極めて無責任となる。一方、民間企業にはパワーはあるが、90年以降グローバルな弱肉強食の厳しい競争が進み、それに加えて、会社は株主のためにあり経営者は四半期ごとに利益を出せといった圧力が強まっていく中で、かつて民間企業が持っていた長期的な視点や高い志が足元から蝕まれている。学者世界ですら、「成果」を常に求められ、追われている。メディアは、広告収入にますます依存している。

このような中にあって、資金力、人材、経験などの面で今はまだ力不足だが、NPOは大きな役割を果たし日本再生の希望となるポテンシャルがあるのではないかと思うようになった。この認識は、当会がその方向に向かって存在意義を十分に発揮しているか否かという問いに繋がる。

「1、2年で潰れるかと思ったら、15年も続いてよく頑張っている」、また「根源的な問題に挑戦し続ける姿勢はいい」といった温かい評価もあるが、「何を目的にしているのか、単にオタクの集まりではないのか」「この組織が15年間したことは、日本の社会を1mmたりとも変えていない。いわば、あってもなくても構わない存在」といった酷評も耳にしないではない。そこで、私は、会員の皆様に改めて当会の存在意義を問いたい。

11月15日の当会の全国交流大会のテーマは、当会の「過去と未来~これまでを振り返り、新たな戦略を考える~」である。会員の皆様はもとより、この会報の読者は、いろいろな思いで当会を見つめている方々に違いない。特に会員の皆様は会費や寄付など、資金面でも会を支えて下さっている。その方々も様々な思いで、当会の活動ぶり、その存在意義、将来における可能性についてお考えになっているに違いない。どうぞ、そのご意見を当日率直にお聞かせいただきたい。

皆様のご意見が、15年を越えて、なお頑張ってやろうということであれば、藤村コノヱさんはじめスタッフともども力の及ぶ限り当会の使命を達成するよう頑張っていきたい。出来るだけ多くの方と当日お目に掛かり、率直で建設的な意見の交換ができるのを楽しみにしている。