2009年3月号会報 巻頭言「風」より

環境力と持続性の知恵を生かした経営を

藤村 コノヱ


環境文明21グリーン経済部会が、昨年より準備していた『第1回経営者「環境力」大賞』の授賞式・発表会が、京都議定書が発効した2月16日に東京で開催されました。当日は小春日和の穏やかな日で、第1回目にふさわしい魅力的な経営者と予想以上の参加者のおかげで、意義深く素晴らしい会になりました。 

当日は受賞者の皆さんから、ご自身の環境力はどこにあると考えているかについてお話頂いたのですが(詳細は本誌10頁~)、そこにはいくつかの共通点があるように感じました。

第1に、得意分野を持って、そこを足場に様々な事業を展開している点です。受賞された7名のうち5名の方がいわゆる2代目・3代目で、家業を継ぎご自身の代で環境ビジネスへと発展させています。例えば、麻生さんは先代から電気工事業を引き継ぎ、今は自然エネルギーの活用に特化した事業を展開していますし、田中さんは、先代が網元で海の汚れを何とかしたいという思いから、液体の産業廃棄物処理に特化した事業をはじめ、今では処理だけでなく廃棄物を代替エネルギーに替え販売する事業も行っています。あれもこれもと手を広げて結局は自社の得意分野が何だったのか、わからなくなっている企業も多い中で、代々続いてきた家業を足場に、積み重ねてきた経験を環境問題とうまく結び付けている点は、自社の企業価値をしっかり自覚しているからこそできることです。

第2に、先見性と広い視野から、環境ビジネスを通じて社会をよりよい方向に変えていこうという強い信念を持っている点です。藤田さんは、食の安全性などまだ話題にもなっていなかった頃から、「青空市場」を皮切りに、生産者と消費者とを直接結ぶ宅配事業をいち早くはじめ、農業という命に最も近いものを通じて社会を変革していこうと会社とNPOの両輪で事業を展開しています。また高橋さんは、土木業界が現在のような厳しい状況になることを予測し、余力のあるうちに業界全体に「環境力」をつけておこうと、法面緑化業界内にNPOを立ち上げ、グリーンな公共事業での業界発展と社会貢献を目指しています。すべての経済活動の基盤が「環境」にあることを常に意識し、自社のみならず周囲に居る仲間や社会をよりよくすることと事業の発展をつなげている点は環境力そのものです。

それから第3には、従業員や地域とのつながりをとても大切にしている点です。昨今の不況下で大企業ではリストラが盛んに行われています。ある大企業の方から「厳しくなる前に解雇に踏み切ったことを誇らしげに語っている人たちもいる」という話を聞いたことがありますが、今回の受賞者の皆さんはすべて、従業員こそ「宝」であると語っていました。苦しい時は新規の採用を抑えて、みんなで我慢して乗り越えたという話もありました。

そして何より、会社の規模拡大ではなく、持続させることを第一に考えている点です。私たちが提案した「21世紀をリードする経営者の資格」の12項目の中で、地域のシンポジウムでもグリーン経済部会でも、議論が集中したのが「事業を大きくしすぎない勇気」で、「経営者は会社を大きくすることが使命であり、大きくしすぎないなどとんでもない!」という激しい反論や、逆に「二代目で常に行け行けドンドンの初代と比較され、会社を大きくすることばかりが求められてきたので、この項目でほっとした」という率直な経営者の意見もありました。実際、この項目に関しては受賞者の自己評価もまちまちでしたが、規模の拡大は会社経営のある段階での手段であり、経営者として最も大切なことは「会社を長持ちさせること」という点では一致していたように思います。特に向山さんは地球が有限である以上、すべての企業が拡大成長することは不可能であるとして、売り上げの「マイナス成長」を会社の目標に据えているくらい徹底しています。それでも利益は上がっていて、それが悩みという贅沢な話もありましたが、その裏には、長年の経験から「三方好し」「ほどほどに」という「商人の知恵」をしっかり持っているようにお見受けしました。

そして、向山さんのみならず、受賞された7名の方は、「足るを知る」「調和」「集団の存続の重視」「自然との共生」「先人を大切にする」「教育の価値」など私たちが提案している「日本の持続性の知恵」をしっかり身につけていて、まさに経営者の環境力=持続性の知恵だと改めて認識することもできました。

懇親会の場では大企業の方から、「うらやましい。ただ中小企業だからできることで大企業ではなかなか難しい」という話や、若者からは、「素晴らしい経営者ばかりで、私も就職したくなりました。大企業だけがいいわけじゃないですね。来年は学生をたくさん呼びましょう」というコメントもありました。確かに大企業では経営者の意思を全従業員に浸透させることは難しく、数年で変わるトップでは会社の持続性より短期的な利益を重視せざるを得ないのかもしれません。それに大企業ほど転換にも時間がかかるのでしょう。しかしその間にも、知恵と志ある中小企業の経営者は荒波に立ち向かい環境と経済の統合に活路を見出しているわけで、若者がそうした経営者に惹かれるのはうれしいことです。

時を同じくして、アメリカではオバマ政権がグリーン・ニューディールを掲げ、2月24日の議会演説では、米経済を回復させる唯一の道は、新たな雇用、新産業、他国との競争力を生む長期的投資であり、その分野は「再生可能エネルギー」「医療保健」「教育」の3分野であること、そして「真に経済を変革し、地球を守るには究極的にはクリーンな再生可能エネルギーを利益を生むエネルギーとしていかなければならない」として、風力、太陽光、バイオ燃料などの開発に年間150億ドル(約1兆4500億円)を投じると明言しました。さらに予算教書には2012年までに排出量取引を導入する方針も盛り込まれています。

政治も政策もなかなか動かない日本国内にあって、これまで苦戦を強いられてきた環境力ある経営者にとっては、世界のリーダーのこの力強い言葉は大きな励みであり、いよいよ出番という感じで、この7名の方の環境力も今後ますます磨きがかかることと思います。

なお、この環境力大賞は今後も継続的に行う予定です。6月頃から応募を開始する予定ですので、多くの経営者の応募を心からお待ちしています。