2009年5月号会報 巻頭言「風」より

政策提言型のNPOはいらないのだろうか?

藤村 コノヱ


最近テレビ・新聞などでも盛んに報道されるようになりましたが、現在政府では、温室効果ガスの排出を「2050年世界で半減」するための中期目標設定の検討が進められています。2050年までに半減といっても「車は急に止まらない!」のと同様に、その間のどの時点でどこまで削減するかを計画的に進めていくことが大切ですが、日本ではこの中期目標が未だ決まっていないため、これを決めようというものです。検討会議では国立環境研究所、日本エネルギー経済研究所など研究機関が算出したデータに基づき検討が進められ、現時点では6つの選択肢が提示されていますが、私たちNPOも議論が変な方向に行かないようにと常に傍聴しています。

複雑なデータの積み上げでその詳細を理解するのは大変ですが、温暖化を止めることより目先の景気や経済を重視し、温暖化対策のコストばかり強調して何もやらない方向に誘導しようとする産業界サイドと、温暖化対策は投資であり将来を見通して温暖化を食い止めようとする環境派とは、そもそも立脚点も目指すところも異なっていて、「コストがかかるからできない」ことを主張する産業界サイドの意見を聞いていると、ここは本気で温暖化を止めようとする会議なのだろうかと思わず疑ってしまう場面も多々あります。

本来なら、こうした議論にも専門性を持つNPOも参加し、政治家が日本の将来を見据えた的確な判断ができるよう多様な選択肢(といっても温暖化を止めることを本気で考えた提案)について議論する必要があると思うのですが、NPOにはそうした機会は与えられていません。そのため意見書を出したり共同記者会見を開いたりしていますが、そんなことはほとんど無視されている状況です。先日、環境大臣、経産副大臣が参加しての意見交換会が開催され、そこではNPOの意見発表の場が一応与えられましたし、パブリックコメントも行われますが(この会報が届く頃には終了)、こうした場での市民の意見は、応答義務がないため、それが政策に反映される可能性は極めて低いのが実態です。

温暖化という将来世代にも関わる最重要問題に対して、国民の声がなかなか届かないこうした政策決定プロセスには疑問を禁じ得ません。最近も、高速道路料金の休日値下げなど温暖化防止とは逆行する政策がスタートしましたが、全くちぐはぐな政府の温暖化政策をみていると、この国の将来を政治家や官僚だけに任せておいていいのだろうかという不安と苛立ちは募るばかりです。

一方環境教育推進法の改正も現在進んでいます。この法律は5年前に環境文明21が率先して議員に働きかけ成立にこぎつけたものですが、今回の改正に関して、当会としては要望書を提出したり議員グループの会合でプレゼンをしたりしたものの、改正議論への実質的な参加は認められていません。こうした政策形成への参加こそ市民の政治意識を高め、NPOの能力向上にも役立ち市民社会の構築につながると以前にも書きましたが、温暖化ほどの対立構造がない環境教育・環境保全活動のような政策さえも、当事者である国民・NPOの参加は殆どなく、政治家と官僚の間で作られているのが実態です。(ただ、自民党小委員会委員長が5年前に我々と活動を共にした愛知和男議員であり、環境省の担当者の意識が高いこともあって、改正案に私たちの提案が盛り込まれる可能性も幾分あり、6月の成立にむけ働きかけを行っています。)

しかしNPOの政策提言活動はまだまだ一般的には知られていないようです。3月に開催された日本NPO学会で、この環境教育推進法の成立の際の政策提言活動の経験をもとに、「立法過程でのNPOの参加の現状と課題」というテーマで発表したのですが、意外だったのは、「知らないことが多く勉強になった」というコメントが多かったことです。NPOには、①身近な環境を保全したり啓発事業を行うなど公共サービスの担い手としての役割と、②環境文明21のように新たな社会の創造に向けて政策提言する機能の両面があるわけですが、学会でも議論の多くがサービス機能に注目したものでした。日本では、圧倒的にサービス提供型が多く、当会のような政策提言型NPOは少ないのも一因でしょうが、政治の世界だけでなく、アカデミックの世界ですらNPOのサービス面だけが重視され、社会創造・変革機能にはあまり関心が寄せられていないことは残念でなりませんでした。

ここ数カ月、政策提言型NPOの方に会う機会が多いのですが、そこで必ず話題になるのが、なぜ日本ではNPOが活性化しないのだろう?日本の社会で政策提言型のNPOは不要なのだろうか?ということです。勿論当人たちは、政治家が政争に明け暮れ本来の役割を果たしていない現状、業界団体の利害や省益に奔走し本来の責務を怠りがちの官僚の現状を憂い、持続可能な社会にするために市民の力でいい環境政策を生み出したいという強い思いをもち、特定の利害にとらわれず地球益・将来益で動くNPOは絶対に必要だと信じているからこそ、活動を継続しているわけです。

しかし政治の世界はもとより、明治以来自分たちが築き上げてきた官僚機構の政策検討プロセスの中にNPOが本気で入ってくることなど認めるはずはないでしょう。では政治家や行政に失望している市民はと言えば、失望はしていても、NPOを応援して何とかしようという方向にはなかなかいかないのが現状です。

しかし、それで本当に日本の国はよくなるのでしょうか。勿論NPOにもさまざまな問題があります。しかし市民の意見を政治に届け政治を動かす手段として、もっとNPOを信じて応援したり、活躍できるしくみをつくることも、日本を真に民主的で開かれた市民国家にするには大切なことではないでしょうか。大きな大きな壁ですが、新しい環境文明社会を築いていくには避けて通れない挑戦です。