2010年10月号会報 巻頭言「風」より

NPOも政策形成の場へ

藤村 コノヱ


2週間にも及ぶ党首選を経て誕生した菅内閣も、中国問題などで迷走が続きます。1年前に鳩山前首相が、国連総会で「25%削減」を表明したことも、「新しい公共Jを掲げたことも、すっかり忘れられているようで、政権交代時の「温暖化対策が進むかもしれない!」「NPOの活動の場が広がるかもしれない!」というかすかな期待も薄れ、この先日本はどうなるのだろうという不安ばかりが募る昨今です。

しかしこの夏の世界的な異常気象が示すように、人間界のことなどお構いなしに、地球の異変は続いています。そして、私たちも立ち止まっている時間はないと議論を重ね、提言活動を続けているところです。

その一つが、環境文明社会プロジェクトです。2030年環境文明社会の骨格・概要については、会報6月号と8月号でお伝えしましたが、そうした社会で私たちはどんな暮らしをしているのか、それを実現するにはどんな施策が必要かについても、東京近辺の会員さんや関西グループのご協力も頂き、食、住、移動、働きかたなどの項目ごとにまとめているところです。今後はさらに多くの方の意見を聞きながら、2 0 3 0 年の日本の社会像の一つとして提案したいと考えています。本来なら政治家が語るべきことでしょうが、今のような政治状況ではとても期待できそうにない、そうであるなら、公共を担う一員として、私たちN P O からも声をあげようという思いからです。

また、昨年8月の政権交代に伴い、「新政権に求める環境政策」として、①憲法への『環境原則』の導入、②政策形成・決定プロセス等へのNPOの参加保障等、③NPOの活動基盤強化と雇用拡大への支援、④環境教育・研修の強化、を柱に提言をまとめ、政党や政治家に働きかけてきました。 しかし、上記のように環境文明社会の検討が進んできたことから、その検討結果も加味し、立法化部会を中心に再度この提案を見直し、そして、新たに「政党に求める環境政策」として、1.憲法への『環境原則』の導入、2.「持続可能な市民社会の創造、の二本の柱に整理しました。そのうち憲法の方は議員への働きかけを開始するところです。

残る「持続可能な市民社会の創造」には、前回提案の、政策形成過程へのNPOの参加保障やNPOの基盤強化なども含まれますが、特に、政策形成過程へのNPOの参加保障は、私自身の学位論文のテーマであり、また環境文明社会の「公共」を誰が担うのかにも通じるものです。このことについての部会での議論はこれからですが、私自身は、全ての人の暮らしに関わる「環境政策」にこそ、多くの市民の声が反映される仕組み、特にその分野での経験や知見を持つ環境NPOの参加の仕組みが不可欠だと考えています。

図は、国の環境政策が設定される段階から、立案、決定段階までのこれまでの参加の仕組みとこれからの提案(私案)ですが、この中でも特に、政策課題が設定される段階と立案の早い段階での環境NPOの参加が有効ではないかと考えています。

環境NPOは長年の経験から、何が問題なのか、解決のために何が最も重要なのかを把握し、関連する知識や情報の蓄積もあります。その上に、様々な会員がいることで(個人とは異なる)組織的な専門性を活かすことができ、特定利害にとらわれない自由な発想ができる立場にあります。そこで、政党は、環境NPO等から政策課題や具体的政策案を募集するとともに、議員と環境NPO、政策担当者が自由に言寸議できる「環境NPOと政党の政策協議会」のようなものを設置したらどうでしょうか。勿論これまでも、例えば省庁内で勉強会を立ち上げ政策に結びつけたり、議員が勉強会を開いて政策に結び付けることはありました。しかし、そうした場をもつとオープンにし、定期的に開催することで、多様な意見や提案が日常的に集まり、政策の多様性が生まれます。さらに、「机上の空論」ではない現場からの声が反映されることで、実施段階での実効性が上がることも期待できます。またこうした場が確保されることで、NPOの政策提言力や専門性も高まり、市民社会の発展にもつながるはずです。

また政策を立案する段階での参加も重要です。これまでも審議会、パブリックコメント、ヒアリングや公聴会など、NPOが参加できる機会はいくつかありましたが、もっと実質的で効果的な参加として、例えば、ステークホルダー・ミーティングのような試みも必要だと思います。東京都の環境確保条例の改正にあたって、この手法が効果的であったことは、会報6月号で紹介しましたが、これによって、多くの関係者の意兄交換の場が確保されます。そして環境NPOからは、政策立案に必要な的確で専門的な情報と知兄を市民目線から提供でき、国際的な情報も交えて政策の選択肢を広げることができます。また議論の透明性(「見える化」)が確保されます。 さらに、NPOが参加することで議論の活性化が促進され、従来の官僚による利害調整とは異なる民主的な合意形成の場にもなりえます。

現状では、こうした政策形成へのNPOの参加に対して、NPOの意見が本当に正しいのか、NPOは誰を代表しているのか、どのようなNPOを参加させるのかなど、様々な異論・反論意見があります。また、それだけの力を備えたNPOが日本には少ないのも事実です。 しかし、複層的で根源的な現在の環境問題を解決するには、そして政治家や官僚任せだったここ数年の環境政策の実効性が上がっていない現状を打開し、環境文明社会を築いていくには、今までとは異なる手法、NPOという新しい力を投入してみることも必要だと思うのです。そんな提案をしたいと考えていますが、皆様はどうお考えでしょうか。ご意見をお聞かせください。