2011年7月号会報 巻頭言「風」より

環境教育推進法が大幅に改正されました!!

藤村 コノヱ


環境文明21が議員立法での成立を働きかけ、その後の改正に当たっても積極的に提案やロビー活動を展開してきた、環境教育推進法(通称)の改正案が本国会で成立しました。震災や原発問題、そんな中でも政争に明け暮れる国会の様子を見て、本国会での成立は到底無理だと思っていただけに、うれしいことです。

振り返って、当初の法律(平成15年)は、私たちの働きかけで議員立法として成立はしたものの、私たちの思いとはかなりかけ離れた内容でした。そのため、改正に当たっては、①環境教育を持続可能な社会に向けた教育と幅広い観点で定義すること、②環境保全活動を促進し活動の持続性を担保する仕組みとして、政策形成・実施過程への市民・NPOの参加を保障する制度の創設、環境保全活動に対する助成金の拡大、経済的基盤強化のための税の優遇措置の拡大、さらに、③小・中・高校での「環境科」の導入、④法律の名称変更 などを提案してきました。

今回改正された法律では、環境教育については、『持続可能な社会の構築を目指して、家庭、学校、職場、地域その他のあらゆる場において、環境と社会、経済及び文化とのつながりその他の環境の保全についての理解を深めるために行われる環境の保全に関する教育及び学習』(第2条3)と再定義されました。これで、環境教育の最終目的は持続可能な社会を築くことであり、学校のみならず全ての場で、単に環境問題の知識を得るだけでなく、社会や経済活動、地域の文化等とも関連付けて横断的に行う必要があることが明確になったわけです。

また名称は、『環境の保全のための意欲の増進及び環境教育の推進に関する法律』から、『環境教育等による環境保全の取組の促進に関する法律』に変更されました。「環境科」の導入については、今回も文科省側からの反発で見送られましたが、幼児期からの環境教育の必要性が明確になった点(第9条)や、教職員の資質向上の為に研修などを充実することが国の責務として明記された点(同条2)(改正前は努力目標)は、評価できる点です。

一方、今回の改正では、環境教育や環境保全活動を効果的に進めるには、国民、民間団体等、国、地方公共団体がそれぞれ適切に役割を分担しつつ対等な立場において相互に協力して取り組む協働取組の重要性(第1条、第3条)が示されています。

そのひとつが、政策形成への民意の反映等(第21条の2)です。環境文明21としては、環境政策の形成過程へのNPOの参加を保障する制度を要望しましたが、法律では『国及び地方公共団体は、環境保全活動、環境の保全の意欲の増進及び環境教育並びに協働取組に関する政策形成に民意を反映させるため、政策形成に関する情報を積極的に公表するとともに、国民、民間団体等その他多様な主体の意見を求め、これを十分考慮した上で政策形成を行う仕組みの整備及び活用を図るように努めるものとする』『国民、民間団体等は、前項に規定する政策形成に資するよう,国又は地方公共団体に対して、政策に関する提案をすることができる』となりました。要求に比べて物足りないと言えばそうですが、それでも、これまで政官主導で閉鎖的だった政策作りに関して、情報公開を積極的に進めることや、市民・NPOの意見を「聞き置く」だけでなく、「反映させる」仕組みを作り活用するよう求めている点は評価できます。そして、これからの環境政策は、市民・NPOの参加なしでは実現しないことを明確に示したものだと思います。

今後、これをどう使うかが試されるところですが、例えば、現在、世間では脱原発の動きが加速されているにもかかわらず、政府のエネルギー・環境政策はあい変わらず密室の中で、経済産業省主導で行われていることに対しても、使えるのではないかと思います。「エネルギー政策は経産省管轄であり他の口出しは一切まかりならぬ」と言うのがこれまでの経産省の言い分で、NPOどころか環境省はじめ他省庁の口出しさえ許されないという、閉鎖的な方法でエネルギー政策の多くがつくられてきました。しかし、本法では、経済産業大臣も主務大臣であり、『この法律の規定の的確かつ円滑な実施を図るため、相互に緊密に連携し、及び協力するよう努める』(第25条2)とされており、現行の密室でのやり方に変更を求めることができるのではないかと思います。「この法律は環境教育、環境保全活動にかかることでエネルギー政策は別」と言われるかもしれませんが、温暖化政策、原発の環境影響を考えれば、環境政策とエネルギー政策は切っても切れない関係にあることは周知の事実です。

もう一つは、民間団体の公共サービスへの参入の機会の増大等(第21条の3)として、『(前略)民間団体がその専門的知見又は地域の特性を活かすことができる分野において、当該民間団体の参入の機会の増大を図るよう努めるもの』とし、『(前略)経済性に留意しつつ価格以外の多様な要素をも考慮して、協働取組による当該公共サービスの効果が十分に発揮される契約の推進に努める』ことが明記された点です。これは、NPO等が「公共」の担い手として認められたのみならず、NPOの特性を持続可能な社会づくりに活かす道を拓いたとも言えると思います。

これまで、NPOは「ボランティア」「安いコンサルタント」と思われがちでした。特に地方では、NPOなら安く仕事をしてくれる、という意識が行政側に強く、NPO側も資金不足から行政の下請け的な仕事もしかたない、という意識がありました。また国の委託契約に関しても、内容より価格が重視され、結果として質の低いものになっているという指摘もよく聞かれます。しかし、今回の改正で、NPOの特性も評価した、価格以外の要素も考慮した契約に努めることとされています。これを機に、NPOがボランティアでも安価なコンサルでもないことを認識してほしいと思います。

一方NPOの方も、専門的知見を高め、プロとしてしっかりした仕事ができるよう努力していかなければならないことは言うまでもありません。法律で「努める」という表記は「何もしないことに等しい」とよく言われますが、NP0が実績を重ねることで、NPOの経済的基盤の改善につながるのではないかと思うのです。

本国会では、環境教育推進法の改正だけでなく、NPO法並びに関連税制の改正も進み、NPOへの寄付が集まりやすい制度ができました。例えば、3000円以上寄付してくれる人が100名以上いれば、その団体は認定NPOとして認められ、その団体に寄付した人は税金が減額されるという仕組みです。(詳細は同封の資料をご覧ください。)

政争ばかり目立つ今国会でしたが、環境教育推進法の改正、そしてNPO法と関連税制の改正は、政治家や政党、そして役人任せだった、「お任せ民主主義」から、やる気と実力のある市民・NPOの力を活かす「新しい市民社会」への道をそれなりに切り拓いたといえます。3.11以降の日本の危機的状況はいまだに改善されておらず、どこから手をつけていいのか、混沌とした状況が続いています。しかし、環境文明社会と言う将来像に向け、これらの法律をうまく活用していくことが、NPOならではの再建への第一歩だと思うのです。