2012年1月号会報 巻頭言「風」より

初心に立ち戻って

藤村 コノヱ


いくつもの大きな困難に見舞われた昨年。復興もまだまだこれから、原発についてはいまだ安全性も確保されない状況が続く中で、皆様、どのような新年をお迎えでしょうか。

私自身、昨年の様々な出来事以来、どう生きるべきかという個人的な思いと、環境文明21は何をなすべきかを、ずっと考える毎日でした。

新年にあたり、「迷った時は原点に戻る」といういつもの原則を思い出し、また環境文明21が1993年9月の設立から今年の9月で20年目を迎える節目でもあることから、これまでを振り返り、これからの環境文明21の進むべき道を再考したいと思います。

これまでにやってきたこと

振り返ってこれまで約19年間、「環境の問題は文明の問題である」という基本認識のもと、価値観の転換、制度の変更、技術の革新の三つを柱に、調査研究に基づく政策提言活動を展開してきました(3頁参照)。例えば、「価値観の転換」として、環境倫理を出発点に、日本の持続性の知恵を探し出し、それらを2030年の目指すべき環境文明社会の価値の基盤として位置づけました。また「制度の変更」については、制度部会やグリーン経済部会等の活動を通じて、飲料自販機適正設置のモデル条例、環境教育推進法、憲法への環境条項の導入、さらには温暖化対策やバイオマスエネルギーに関する政策提言などをつくり政治家に働きかけてきました。このうち、環境教育推進法は今回の改正も含め、私たちの活動が実り、また自販機モデル条例も今になって脚光を浴びるようになっています。また、当初から日本の社会を持続的にするには企業の役割は大きいとの認識から、規律なき市場経済に変わるグリーン経済のあり方を提言し、経営者の環境力大賞事業や企業研修なども行ってきました。勿論この間、政治家への働きかけだけでなく、会報やブックレットの発行、シンポジウム・セミナーの開催などを通じて、広く社会にも働き掛けてきたつもりです。

そして、昨年の大災害と原発事故で、多くの市民が「このままではいけない」と感じ、変革の機運も高まる中、環境文明21がこれまで訴え続けてきたことは間違いではなかった、それが必要とされる時が来た、と確信し、再生に向けた提言やエネルギー政策に関する提言も行ってきました。

しかし、あの悲劇からわずか1年足らずにもかかわらず、変革の機運は薄れつつあり、再び混沌の時代に向かいつつあるようにも思えます。そして、私たちの影響力も、残念ながら、いまだ大きな力になりえていないことを実感します。

その原因はどこにあるのか・・・

NPOの活性化のための主な要件として、①充分な内部資源(資金・人材など)があること、②政治的機会(意見表明や政策形成への参加の場など)が確保されていること、そして③不特定多数の市民の支援があることが重要だと言われます。このうち、勿論内部資源も参加の機会も充分とは言えませんが、それでも最大の課題は、不特定多数の市民の支援が得にくいという点ではないかと思っています。以前より、「いいことはしているが、知ってもらう努力が足りない」と理事会や外部評価の方にも指摘され、その都度、会報に加え、HP・ブログの充実、FAX等での広報活動にも力を入れてきました。しかし、取り上げる内容が本質的で複層的である上に、今すぐ役立つ類のものではないこともあり、”忙しい””深く考えない”人たちに、立ち止まって一緒に考えてもらうことは至難の業です。また、調査研究や政策提言などの活動自体が地味で見えにくいこともあるでしょう。加えて、多くの人の関心が、そこまで高まっていないこともあげられます。人々が社会変革に動く大きな要因は危機感です。実際は、地球温暖化による異常気象は激化し気象災害も増えています。また、例え福島から離れていても、すぐそこに同じ危険性・リスクが存在することは容易に想像できるはずです。しかし、気象災害も原発事故も、多くの人にとって”自分に降りかかる直接的な危機”とは考えにくく、また漠然たる危機感は持っていても何をすればいいのか分からない、と言うこともあるようです。

こうした状況の中で、環境文明21がやるべきことは何か

「環境の問題は文明の問題」として根源的な事を探求し続けることは、この会の「真髄」ですから、これを変えることはありません。そして、「有限な地球環境の中で、私たちはどのような価値観を持ち、どのような経済社会を築いていけばいいのか、その羅針盤となり、一歩ずつでも社会を変える」という設立の目標に向け、これまでの活動の一つの集大成として昨年末に公表した『2030年環境文明社会』を、より深めていくこと、それを会員の皆様にもご協力頂き、各地域で広め実現していくことが「やるべきこと」の大きな柱です。

ただ、伝える手段や対象を変えることは必要かもしれません。例えば、対象については、「5%の熱心な人と、それを支持する20%がいれば、社会は変わる」という原則に基づき、意識のある人や変える力のある人(例えば、地方議員や企業市民)にウエイトを置き働きかけることも効果的かもしれません。そのために、現在の会報とは別のバージョンを作ったり、グリーンなビジネスや技術、雇用・働き方などと絡めた企業との勉強会や研修など連携を充実させることも考えられます。また、ITは情報を瞬時に広めることには役立ちますが、粘り強く創り上げるには不向きな点も多いことから、その使い分けも必要かもしれません。幸い、関西グループでは、この方向で動き出そうとしています。

現時点ではまだまだアイデア不足ですが、実は12月はじめに2週間ほど入院していた加藤三郎共同代表も、ベッドの中で同じことを考えていたそうです。そして、この1年をかけて、19年前の創設時の精神に立ち戻り、環境文明21の今後の10年を考えていこうと話し合ったところです。

「雨ニモマケズ 風ニモマケズ ・・・ ミンナニデクノボートヨバレ ホメラレモセズ・・・」でも、スティーブ・ジョブズ氏の "Stay hungry, Stay foolish" の精神で、今年も、環境文明21の特性と蓄積を活かし、誰もやらない、持続可能な社会づくりのための基本的事項の探求を続けたいと思います。

引き続き、ご支援ご協力をよろしくお願い致します。