2016年5月号会報 巻頭言「風」より

市民版環境白書「グリーン・ウォッチ」を編集して

藤村 コノヱ


昨年6月5日の環境の日に設立されたグリーン連合が1周年を迎える。東京、京都での設立集会をはじめ、国会議員との意見交換会や主に環境省との意見交換会、シンポジウムなど、予算も少ない中、幹事を中心に精力的に活動してきた。2016年4月末現在会員団体数は76団体である。

そのグリーン連合が1周年を記念して市民版環境白書「グリーン・ウォッチ」発行する。これは設立当初から決めていたことで、その目的は二つある。

一つは、政府とは異なる視点から日本の環境問題の現状や対策の問題点を分析し、多くの人に知ってもらうこと。

ご存知の方も多いと思うが、政府発行の環境白書は、分野ごとに環境の状況や政府が講じた施策、今後講じようとする施策などが記述されている。取りまとめは環境省が行うが、記述内容は閣議決定を経て国会に報告されるため、環境保全に関係する全省庁が編集・執筆に関わっている。そのため、政府の立場からの環境の評価であり、施策の妥当性や正当性を説明するものとなっている。しかしこの内容が、私たちNPOの認識や評価とは一致しないものもある。それが本質的に重要でない場合は両者の見解や立場の相違とすればいい。

しかし、政権寄りの環境政策が目立つ昨今の状況では、政府の環境白書が、国民の認識や評価を間違った方向に誘導する可能性もあったり、中長期的観点から国益に繋がらないと思える重要事項もある。私たちとしては、これを見過ごすことはできず、日本の健全な環境政策を推進するには、政府とは異なる視点からの認識や評価を、多くの方に知ってもらう必要があると考えたわけである。

第二に、政府とは異なる視点からの情報を提供し、NPOの考え方や活動を伝えることで、環境問題への関心を高め解決に向けた市民の参加や行動を促したいという思いである。

環境問題は私たち一人一人に関わる問題だが、解決に向け行動する人はあまり増えていない。景気、貧困や格差などほかに社会的課題が多すぎて、ということかもしれない。しかし、「環境」は、全ての生命と暮らし、社会・経済活動の基盤である。それが危機的状況にある今、その解決を政治家や官僚、一部専門家だけに委ねるのではなく、みんなが環境の現状を的確に把握し、各々に相応しい貢献をしてほしい。グリーン・ウォッチがその行動のきっかけとなれば、と考えたのである。

初めてのもので、政府の白書のように全てを網羅することはできないため、今回は特に、気候変動やエネルギー問題、福島の現状など政府の見解や評価と著しく異なる問題と、環境政策全般に関わる根本的な課題を中心に取り上げた。

次頁の目次をご覧頂ければある程度、内容は推測できると思うが、例えば、第1章では、世界に大きく後れを取る日本の気候変動・エネルギー政策の課題、特に世界の潮流に逆行する日本の石炭火力発電計画の問題点や世界に追い越された日本の省エネ政策などに触れている。また、日本には再生可能エネルギー導入の可能性が充分あるにもかかわらず、政策の遅れ、特に本格的な電力システム改革が進まないことが大きな課題と指摘している。原発問題では、発電効率が良くないにもかかわらず原発が推進されてきた理由や無責任体質の実態、原子力規制委員会の功罪や再稼働の動き、さらに脱原発の必要性を多面的に述べている。また、化学物質政策も諸外国に後れを取っている現実や環境ホルモンやネオニコチノイド系農薬の怖さを指摘している。

第2章では、いまだに続く福島の被害状況と、政府の対応がいかに住民置き去りであるか、深刻な健康被害の実態など、政府の白書や新聞記事では知ることのできない事実を、現場からの報告として記載した。

第3章は、こうした日本の環境政策の遅れの本質的要因と解決の方向性について、私も含めグリーン連合の共同代表三名と加藤顧問、大久保規子大阪大学教授が多面的に指摘している。

いずれもかなり厳しく指摘しているが、私たちは、これを批判ではなく、なかなか進まない環境行政へのエールだと考えている。

編集に当たっては、グリーン連合幹事の中から、数名の編集委員(各テーマの執筆責任者も兼ねる)を決め、内容の検討や基本的事項は決めていった。そして、グリーン連合設立同様、白書作成も環境文明21が「やろう」と声掛けしていたことから、編集責任者として取り纏めは私がやることになった。もともと編集は好きな仕事で、時間的にも少しゆとりがあったことから、「政府の環境白書より早く出す」ことを目標に作業に取り掛かった。これまでの経験から、早め早めに進めない限り、期日目標は達成できないことは承知していたので、「5月5日こどもの日発行」を目標にスタートさせた。

1月下旬に初稿が出てきた。最初にページ数は割り当てていたが、自分たちの活動について詳しく書きたいのは当然で、字数は予定をかなりオーバー。また日頃専門的に活動しているだけに、言葉遣いも専門的で、例えば、エネルギー関係は数字が多く、化学物質はカタカナの物質名が並ぶ、といった具合である。当初は編集委員の間でも理解に苦しむ内容もあったが、「ページ数を増やさない」「普通の人が理解できるように」と、調整を進めていった。また、そうした編集作業同様、大変だったのは原稿の催促だ。それぞれ日々の活動に忙しいことはわかっていても、それを聞いていたのでは、期日に間に合わない。そこで、催促の一斉メールと併せて、個別にお願いメールを流すことを心掛けた。それぞれ専門性を持ち、いい意味でのプライドも持って活動している人ばかり。編集責任者とはいえ、上下関係はなく、催促するメールも一人一人の顔を思い浮かべながら、丁寧なメールを心がけた。

また当初は継続的に出版してくれる出版社を、ということで大手出版社にお声掛けしたが、かかる金額の桁が違うことにびっくり。田園調布に住む元総理に寄付のお願いの手紙を出したりもしたが、なしのつぶて。

今回は自費出版しかないか…、と思っていたが、幸い地球環境金の助成金で賄えることに。また表紙は、高月紘(ハイ・ムーン)先生が快く引き受けて下さり、当会の会員さんもこのために寄付をよせて下さった。

そんなこんなで、ここ数か月、かなりの時間を割き、さすがに少し疲れたが、それでも、頼もしき仲間たちのお蔭で、かなり力作の市民版環境白書第一号は完成間近となった。

目次は次の通りである。是非手に取って頂きたいと願っている。

市民環境白書目次