2017年7月号会報 巻頭言「風」より

「理念」や「思い」に具体性を加味して

藤村 コノヱ


トランプ米国大統領がパリ協定からの離脱を表明した。就任以来、懸念されていたことなので、「やはり」という思いと「とんでもない」という怒り、そして気候変動に伴う被害は米国でも頻発していることを考えれば「愚か」としか言いようがない。

離脱により、特に途上国への支援が遅れること、そして京都議定書当時のように、これに便乗する日本の経済界の動きも出てきそうだが、そうした企業は、人類社会の存亡に無関心、あるいはパリ協定の意義を理解していない企業として、世間や世界からの批判は免れないだろう。

ところで、市民版環境白書2017「グリーン・ウォッチ」をこの5月に発行したが、今年は総論として「なぜ、地球環境を優先的に保全しなければならないか」という章を設けた。当会の会員の皆さんなら、そんなことは当たり前という方が殆どだろうが、残念ながら、社会全般を見渡せば、決してそうではない。景気の低迷、貧困や格差、雇用問題、子どもの教育など社会的課題が山積する中で、多くの人が現在の暮らしや将来への不安を抱えつつ目先のことで精いっぱいという状況も多々見られる。そうした中で、環境問題への関心は低下し、正確な情報も伝わっていないのが現状である。

そこで、具体的データも使い、地球環境を優先的に保全しなければならない理由を次の5つにまとめた。(以下に概要を記しますが、詳細は「グリーン・ウォッチ」をご覧下さい)

(1)私たちの生命、暮らし、社会経済の基盤である環境がいよいよ危ない

世界的な人口増加と人々の豊かさへの欲望は既に地球が耐えられる環境容量を超え、その結果、気象災害が頻発し、熱中症が増加するなど、私たちの生命や財産が奪われるといった様々な影響が現実になっている。しかし残念ながら、私たちの多くが、自らが被害者にならないと、そのことに気づかない。身近な災害などと絡めて、危機的状況にあることを伝えていく必要がある。

(2)時間的な余裕がなくなった

気候変動の危機から逃れ、人類社会をなんとか安定させるために私たち人類に残された時間は、あとせいぜい30年ほどしかないことを科学は示している。しかし1990年から25年以上経過し、その間「頑張った」つもりでも温室効果ガスは増え続けていることや、今後30年の間に、CO2を出さない暮らしや企業活動を定着させ、それを促進する制度を作れるか?を考えると、30年などあっという間に過ぎてしまう。

(3)「自然(環境)」は未来からの預かりもの

海底や地中深くの資源採掘など、私たちは既にその預かりものに手を付けている。そのうえ、日本では一人当たり1000万円の借金、過度の利便性や快適性と引き換えにCO2、化学物質、放射性廃棄物などのツケを将来世代に回そうとしている。「預かりもの」を守り「ツケを残さない」こと、豊富な資源と健全な環境こそが将来世代への無二の贈り物である。

(4)途上国に対する先進国としての責任

これまで資源の少ない日本は、海外の安価な資源や労働力により発展してきた。いわば途上国には多くの借りもある。一方、日本人一人当たりのCO2排出量はアフリカの人々の9.5倍で平等の原則からは程遠い。こうしたことを考えれば、途上国に対する支援は当然の責務であり、同じ人間としても当然の思いやりであり、人権を守る上での基本的ルールである。

(5)日本の取り組みの遅れが著しい

かつて日本は環境先進国として、世界から尊敬もされ期待もされていた。しかし、昨今の日本は環境後進国になりつつあり、国際社会からの評価も低い。このまま短期的経済性を優先するような政策が続けば、日本のポテンシャルが生かされず、世界に大きく遅れることになりかねない。

実は、数年前(2013年)に当会が行ったアンケートでは、環境問題が時空を超えて深刻な影響を及ぼすといった認識や、改善のために何かしなければという責任感、特に将来世代に良い環境を残す責任は8割の日本人が共有しているという結果だった。しかし当時も、認識はあっても関心を持つ人は7割、知識を持つ人は4割、行動している人は3割という結果だった。あれから4年が経過した今、世界の不安定さはますます増し、環境問題への関心は少なくとも日本では低下傾向にある。6月15日に公表されたユニセフ報告書では、環境問題に関する日本の高校1年生の知識は37か国中36位。以前に比べ教科書での環境問題の記載数は格段に増えたはずなのに、気候変動など現実的な課題への関心が世界的にも低いというショックな結果であった。

こうした状況の中、CO2を大幅に削減しつつ、安心・安全な持続可能な社会を作るのは並大抵なことではないと改めて感じるが、当面は次の2つに集中したい。

一つは、正確な情報・知識を、暮らしや仕事とのつながりや、わかりやすいデータなどを示しつつ、再度多くの人に伝えていくこと。

もう一つは、“このままでは間に合わない”という科学から警告、認識や知識が必ずしも行動につながらないという現実を踏まえ、倫理観や責任感に訴えるだけでなく、例えば、効果の「見える化」や、税なども含め「頑張った人が報われる仕組み」を提案したり、環境配慮的でない行動には罰則やコストをかけることも必要で、そのための提言活動を他のNPOとも連携して働きかけること。

パリ協定を契機に世界の気候変動対策が次のステップに移行したように、環境文明21も「理念」や「思い」を語るにとどまらず、より具体性を加味して提案していきたいと考えている。