2022年3月号会報 巻頭言「風」より

若者を育て、NPOを味方にして効果ある環境政策を!

藤村 コノヱ


東日本大震災と東京電力福島事故から11年が経過します。当時多くの日本人があの悲惨な出来事から様々なことを学び、これまでの生き方や社会の有り様を反省し、省エネや脱原発、そして何より真の幸せや豊かさについて考え、「変わろう!」と思い努力していたように思います。しかし、時間の経過とともに国民の間ではそうした思いも努力も低下し、政治家や官僚は短期的経済性を優先する政策を続けています。気候危機に加えコロナという人命にかかわるリスクの中にあっても、その傾向は変わりそうにありません。

環境政策に限っても、2050年脱炭素社会という将来像が掲げられたものの、打ち出される政策には「成長戦略としての…」「成長に資する…」といった類の文言付きで、経済成長への固執は変わらず、予算の多くが技術関連のものです。それらも影響してか、気候変動に対する危機感はなかなか高まらず、脱炭素の必要性に対する理解も一部業界では盛り上がっているものの全体的にまだまだです。

そうした中、1月26日に開催された中央環境審議会地球環境部会では、岸田総理の有識者懇談会での発言も影響してか、市民一人ひとりの理解促進や暮らしの変革の必要性に対して多くの委員から意見があり、以前からそうした発言を繰り返してきた私としては、「やっと」という思いでした。しかし、人が動く要因は、経済、法律・ルール、道徳・倫理観、科学やデータ、それに皆がやっているから、面白そうだから、など多様です。そのため、これまで殆ど議論されなかった教育や倫理も含む多岐にわたる本質的議論と戦略が不可欠です。

しかし令和4年度の環境省の脱炭素予算では、教育や倫理につながるライフスタイルや人材育成に係るものはわずかで、例えば、市民の環境配慮行動に対して企業や自治体等が発行するポイント推進事業や、ナッジ(よい選択ができるようそっと後押しする)という行動科学とAI/IoT等先端技術の組み合わせで、一人ひとりに合った快適なエコライフスタイルを提案するといった事業などです。期待もしますが、継続的な効果には疑問が残りますし、そもそも「与えられた、上からの啓発」の限界は、過去30年間ほとんどCO2削減効果がなかったことからも明らかです。

社会の大転換が求められる脱炭素との戦いは急を要する一方で長期戦です。そうした中で、理解を促進し暮らしの転換を定着させるには、炭素税など効果の出やすい制度と合わせて、中長期を見据えた政策が不可欠です。そして政治・制度、経済、技術を掌り社会や暮らしを成すのは人間であることを踏まえれば、その変化を促す基本は、やはり自らが学び・考え・議論し・行動につながる教育・学習だと思うのです。

具体的には、これまでも提案した気候市民会議をNPOとも連携して各地で開催し「脱炭素」を国民的議論にしていくのも一つです。手間がかかり合意形成も難しいでしょうが、理解は促進され多様な政策アイデアは出てきます。また大学生のNPOでのインターン制度の充実も有効だと思います。1月号「風」で環境教育やNPOに関する大学生の意見を紹介しましたが、次世代を担う若者の現場体験は意義深く、自然体験や企業体験だけでなくNPOでの体験も必ずいい経験になるはずです。今年度の当会のインターン生は、「以前はビジネス誌に見られる脱炭素の解決策=最先端技術の活用を盲信していたが、活動を通じて物事を多角的に考える力やフェイクニュース・誤った考えや政策を批判的に捉える能力が向上した」と振り返っています。ちなみに、この制度はSOMPO環境財団が2000年度から実施、学生の活動時間は約150-200時間。当会も過去に20名を超える学生を受け入れ、卒業後は企業や官庁で当時の学びを土台に活躍しています。そんな若者を増やすためにも、NPOへのインターン制度をカリキュラムに導入するなど、文科省とも連携し充実してほしいと思います。

もう一つは、やはり「学んだことを活かす場」として、EUのように経済団体、労働団体同様に、環境団体を環境利益の代表として位置づけ、地域での実戦部隊としてだけでなく政策協議のパートナーとし、支援も活用もしてほしいということです。 毎年恒例の「環境省とグリーン連合との意見交換会」でも毎回この提案をしていますが、いまだ環境省からはかばかしい回答はありません。環境先進の町として有名な北海道下川町では政策作りの段階から住民と行政が連携するなど、地方では少しずつそうした事例も出ています。また欧米、特にEUでは行政、企業、NGOの間の人の行き来が活発で職業の壁がなく、若者の就職先の一つとしてNGOがあります。政府・自治体のNGO支援策も充実し政策協議も当たり前のように行われ、市民も複数のNGOの会員になり、力強い市民社会を作り上げ、世界の環境政策をけん引しています。

脱炭素への挑戦は、人類の生存にとって根源的な課題であり、「産官学」による従来型のやり方では効果ある政策は打ち出せないことに日本の官僚も気づいているはずなのに、なぜNPOを認め支援し活用しようとしないのか?なぜ変わろうとしないのでしょうか?


最近、世界経済フォーラムが2022年度の世界が直面するリスクのトップに「気候変動対策の失敗」を挙げていましたが、日本は座礁財産になると警告される石炭火力の継続をはじめ、本誌2月号で掲載した「不都合な環境・エネルギー政策」を続けています。

一方、1992年の地球サミット以降、日本のNPOも力をつけ、批判ばかりでなく的確な政策を提案し続けています。政府はこれ以上、効果の薄い政策を重ねないためにも、将来世代にツケを残さないためにも、環境利益の代表として活動するNPO等市民団体の存在意義と実績を認め、その立場と意見をもっと尊重すべきではないでしょうか。