2022年5月号会報 巻頭言「風」より

今こそ、“食とエネルギーの自給に向けて”覚悟と行動

藤村 コノヱ


3月中旬、憲法に環境条項を導入することについてのお考えを聞こうと、ある会員さんの仲介で石破茂議員と面談する機会を得た。議員のお仲間2名(元衆議院議員と元外務省高官)も同席し熱心に私たちの提案を聞いてくれたが、結論から言うと、“とても重要で正論だが、今の日本の政治システムではなかなか難しい”というものだった。そして、“議員は特に地元の市民の声によって動く。だから提案を政治の土俵に上げるには、まず市民の盛り上がりが重要”とのこと。もっともなご意見で、30年近く当会の活動を続ける中で、常に考えてきた「どうしたら、より多くの市民の関心と声と行動を高められるか?」という難問を、改めて突き付けられた思いだった。

一方IPCC第6次報告もこの4月の第3作業部会(WG3)報告でほぼ出揃ったが、いずれの報告でも、“現在の取組では不十分”“喫緊の対応が重要でこの10年が勝負”と警告している。

しかし、コロナの収束は見られず、それに関連した経済・社会問題も顕在化している。加えて、ロシアによるウクライナ侵攻は、現地の環境や人々の暮らし・いのちを破壊するだけでなく、日本に住む私たちのエネルギーや食の安全も脅かすものになりつつある。そして、最近の各種報道も、コロナやIPCC報告よりも、ウクライナ問題が最優先されており、こうした状況が長引けば、私たちの提案の環境条項導入どころか、気候変動はじめ環境問題への市民の関心も声も行動も低下、あるいは間違った方向に誘導されるのではないか、脱炭素への取組も停滞してしまうのではないかと懸念される。

最近の日本人の環境意識について、内閣府の世論調査(2021年3月実施)では、地球環境問題に対して、「関心がある(45.6%)」「ある程度関心がある(42.8%)」で、ほぼ9割の人が「関心がある」と回答している。また脱炭素社会実現に向けて「積極的/ある程度取り組みたい」との回答は9割以上だ。一方、残り1割の取り組みたくない人の理由として、「効果が不明」「どう取り組めばいいのか情報不足」などが挙げられた。NHK放送文化研究所が加盟する国際比較調査グループISSPOが2020年に行った「脱炭素時代の環境意識」でも、日本人の多くが日常生活で環境に配慮しているものの、個人負担が大きい取組には消極的なことやカーボンプライシング導入など日本の社会としての取組が進んでいないとの回答が多かったそうだ。

 

こうした調査からわかるように、日本人の環境意識はかなり高く、その意識は個人の日常生活での省エネ行動などにつながっており、今後そうした人をさらに増やすことはとても重要だ。しかし、個人の行動には限界があることも事実で、かなりの省エネ生活を送る私でさえも、これ以上何ができるだろうと思うことも度々ある。やはり、個人の行動を後押しする政策を含めた社会の仕組みが変わらない限り、大きな変革にはつながらないと思うのだが、社会の仕組みを変えるための行動、例えば投票、抗議、声を挙げるなどの行動が少ないのも日本の特徴だ。

これを変えるには、常々言っているように教育の仕組みや内容の変更が必須だが、それを目指しつつ、当面は、気候変動への関心低下や、間違った方向への誘導、さらに脱炭素への取組の停滞を防ぐ方策も必要で、そのために、自分事として考えられる情報や機会の提供も、当会としてできることの一つだと思う。

例えば、今回のウクライナやコロナの経験から、日々の暮らしに欠かせない食やエネルギーの自給の重要性を学んだのだから、それらをテーマに、個人の行動と社会への行動の変容を働きかけることはできないだろうか。

最近のデータでは、日本は輸入水産物の約7.1%をロシアから輸入(カニ、サケ・マス、エビなど)。小麦に関しては9割をアメリカ、カナダ、オーストラリアなどから輸入し、直接ロシア・ウクライナから輸入していないが、国際価格が高騰すれば、当然、日本国内の小麦の値上げにつながる。そして今回に限らず、食料自給率の低い(37%)日本は、海外で何か起きるたびに同じような経験を繰り返すことになる。

一方エネルギーに関しては、輸入原油の多くは中東産でロシア産原油は全体の3.6%程度、LNGは輸入全体の8.8%をロシアから輸入している(最多は豪州から全体の35.8%)。ロシアからの輸入が止まっても当面はEUほどの影響はなさそうだが、長引けば当然日本でも電力やガスの供給に支障が出ることが予想される。実際これを理由に、原発再稼働や石炭継続を、という間違った方向への誘導議論も出ているが、ここは脱炭素に向けたチャンスと捉えるべきだと思う。

このように、食とエネルギーという私たちが生きていく上で不可欠なものが、決して安定的に供給されるものではないことを、今私たちは再認識している。そしてこれからは、これら資源の争奪戦が戦争にもつながることも想定し、後ろ向きで悲観的な議論ではなく、【食とエネルギーの自給を目指して】私たち市民に何ができるか、政策として何が必要かを、皆が真剣に考え、声を上げ、行動する時代である。4月から始めた、環境と食の部会もそうした思いからだ。

幸いWG3報告は政策決定者向けで、より積極的な政策の早期実施の重要性が随所で述べられており、これら提案を市民の立場からサポートするのも一案だ。また、新しい学習指導要領では、高校生が自ら課題を見つけ、調べ、考え、結果をまとめる経験を通して、思考力・判断力・表現力の向上を目指す「探求学習」の推進がうたわれている。今更、という気もするが、こうした学習機会を(支援することで)活用するのも個人と社会に向けた行動の変容に役立つだろう。一人ひとりが“できることは何でもする”そんな覚悟と行動がなければ、平和も安定も得られない時代なのだと思う。