2022年10月号会報 巻頭言「風」より

世界の環境NPOを内側からみる

田崎 智宏


職場の1年間の長期派遣研修で、7月末から米国ワシントンDCにある国際環境NPOである世界資源研究所(以下、WRIという。)に来ている。まだ2か月弱しか経過していない状況で語るには早々であるが、新鮮な目だからこそ気づくこともある。当会の活動の刺激になればと願い、ここまでに見えてきたことをお伝えしようと思う。

WRIは、1700名を超えるスタッフを抱え、世界各地に8つの地域オフィスを有する一大環境NPOである。ちょうど設立から40周年を迎える。当会と全く異なる規模の組織といえるが、一方で共通点も多いことを感じている。主な共通点は三つ。第一に、自前の予算による独立系の組織であること。第二に、自然保護や特定の環境問題、例えば、気候変動や化学物質問題に特化した組織ではなく、広範囲な環境問題を対象にしていること。第三に、アクションよりも調査や政策提言に力を入れていること。当会の以前の名称は「21世紀の環境と文明を考える会」であったように、アクションより考えることに重きがある。言い換えれば、シンクタンクかドゥタンク(行動型)かということになるが、WRIはシンクタンクをベースにしている。WRIは設立当時、設立者のGus Speth氏がWRIが世の中に継続的な影響力を持ち続けるための4つの条件を打ち出しており、その1つが信頼性であった。信頼ある調査分析だからこそ、政策提言に意味をもたせることができるという考えである。発表する内容については、しっかりと内部での査読が行われる仕組みができていた。

関連してWRIに来て驚いたことの一つは、電子図書館の充実度である。私の所属する国立環境研究所並みに科学専門誌にアクセスができる。むしろ国環研ではアクセスできない専門誌にもアクセスできるくらいである。学術誌の購読は高価であるが、それを実現できていることに素直に驚いた。また、シンクタンク系のNPOのなかには、幅広い依頼に対応するために政策的なスタンスを表明しないところもあるが、WRIはむしろ政策的なスタンスを打ち出すことを重視している。さらに、調査研究の組織では、大学や研究所のように成果の発信数を組織の評価基準にするところが多いが、WRIは世の中に変化を与えた程度で評価しようとするスタンスをとっている。また年を経るにつれて、ドゥタンクの要素をより取り入れ、世界各地の環境問題の現場からのフィードバックを得て、シンクタンク活動に活かそうとしてきた。これは2017年の資料からも読み取れる。 現在の財源は各国の政府や国際機関などから半分以上を得ているが、その背景には世界各地での地域オフィスの設立によって、各国政府が把握できない内容の情報にアクセスできるようになった調査力の強化がうまくいったことによると思われる。 NPOの特徴を明確にコミュニケーションして、外部に働きかけているのも米国の環境NPOの特徴といえるだろう。環境文明21のブックレット6でも調査がされているが、米国では政府に納税するよりもNPOなどへ寄付する方が納税者にとって利する状況がある。そのため、90年代後半の当時ですらGDPの2.5%が寄付に向けられている。WRIの2021年の寄付者のリストをみると、1000ドル(約13万円以上)以上の寄付を行っている個人の数は400名(個人名のみを計上)を超えていた。このような方々からの寄付をお願いするには、明確な組織のミッションを提示する必要があるはずで、コミュニケーションを通じてさらに社会ニーズの吸い上げと組織としてやるべきことが洗練されていくのだろう。そういえば、最初の新人研修では、WRIの環境NPOの中のポジションが説明された。環境と開発という2つの軸でのポジションでいうと、WRIはその両方を扱い、また、アクションと調査研究についても、その両方を行うというポジションである。明解な説明と差別化だけでなく、それをきちんと組織メンバーに共有させていることも大切だと思う。新人研修で主な事務手続きの説明ばかりをしている日本の組織も少なくないだろう。組織の「パーパス(目的)」(近年「パーパスモデル」という表現でビジネスモデルにおける目的を重視する動向がある。)を明確に語ることに十分な時間をかけている点が興味深い。

税制優遇があるとはいえ、どこに寄付したらよいかの情報がないとなかなか寄付額は増えないだろう。調べてみるとGuidestar, Charity Navigator, Charity Watch, and Better Business Bureau’s Wise Giving Allianceといった寄付用の検索サイトがあることがわかった。WRIは高評価されており、Charity Navigatorでは全ての部門(環境NPOだけでない)の中で第9位にランキングされていた。支出の9割がプログラムに割り当てられており、間接経費によって寄付金が目減りすることがないことが明確に掲載されていることも高評価の一因だろう。こういった検索サイトで、活動内容や財政状況が比較されることで、さらにアピールすべきことも洗練されるし、よりアウトプット重視の組織運営にもなるだろうと思われた。

誰に働きかけるべきかもWRIでは非常に重視している。詳しいことはまだ理解できていないが、きちんとコミュニケーション戦略をたてて、活動しているとのことである。なかでも、働きかける先のリストを具体的名称できちんと作っていることが印象的であった。ある地域コンサルタントの方との話を思い出した。固有名詞で仕事をするのが現場のコンサルの本領だという。

あまりにも違いすぎるところは工夫して取り入れる必要があるが、違う組織に身を置くことで新たに見えてくることが多いことを痛感している。