2022年12月号会報 巻頭言「風」より

気候変動はどれだけ関心の高い問題か?

増井 利彦


はじめに、藤村代表、加藤顧問はじめ環境文明21会員の10名の皆様が、2022年11月25日に私が勤務する国立環境研究所にお越しいただき、所内を見学していただきました。新型コロナウイルス感染症が問題となった2020年以降、夏の大公開や公開シンポジウムなど多くの方々と対面で接する機会が奪われ、開催されてもオンラインという状態が続いていました。オンラインでの実施は、遠隔地の方でも参加できるという長所はありますが、今回、10名の方にお越しいただいて、改めて対面で行うことの重要性を認識しました。今回お越しいただいた皆様にお礼を申し上げるとともに、残念ながら今回参加できなかった皆様も次の機会や公開時には是非お越しいただき、関心のある課題について、所内の様々な研究者と直接議論していただきたいと思います。

ちぐはぐな気候変動対策

さて、気候変動枠組条約の第27回締約国会議(COP27)が閉幕し、2022年も終わろうとしている。1年前には、2022年にロシアによるウクライナへの侵攻があり、様々な財の国際価格が上昇し、円安が進んでエネルギーをはじめ国内の物価が高騰するとは、多くの人が想像できなかったと思う。国内では、昨年に閣議決定された「2050年までに脱炭素社会を実現する」という長期戦略にあわせて、GX(グリーントランスフォーメーション)実行会議など脱炭素社会の実現に向けた議論が行われているが、一方で、エネルギー価格の上昇に対して、ガソリンや電力などへの補助金が湯水のごとく使われている。こうした状況では、脱炭素社会の実現という目標がきちんと一般国民に伝わっていないのではと危惧するのは私だけではないだろう。

関心層と無関心層の乖離が大きくなる

環境文明21の皆様が来所された数日前に、高校時代の部活の友人が大阪から東京に来るということで、関東在住の当時の仲間が集まり、忘年会を行うことになった。高校卒業以来久しく会わなかった友人もいて、楽しいひとときを過ごすことができた。今何をしているのかという話の中で、私が環境問題、特に気候変動問題について研究をしていると話をした時に、これまでとは違う反応があった。これまでは、気候変動といっても「ふーん」で終わっていたのが、今回は「自動車を買ったけど、もうすぐ東京では電気自動車でないと使えなくなるの?」「テスラを購入した」「子どもが学校で温暖化問題をテーマに調べ物をする授業があり、小学生でもわかるような授業をしてもらえない?」など、以前と比較して明らかに気候変動について関心が高い印象を受けた。また、偶然にも同じ日に、スタートアップ企業を支援するコンサルに転職した従兄弟からメールがあった。「最近、国(特に経産省)や自治体、大企業がスタートアップ支援事業にカーボンニュートラルや気候変動対策を絡めたいという話が増えたが、スタートアップだけに期待しようとしている空気も感じている」ということで、そういえば気候変動対策を研究している親戚がいたことを思い出し、一度相談にのってほしいという内容だった。このように気候変動問題についての関心が、これまでとは違ってかなり大きいと感じた。

一方で、まだまだ関心は低いという経験もその数日後にあった。「くらしとエネルギーについての意向調査」という弊所での研究で、一般の方々に気候変動とエネルギーについて話を聞いたり、説明をする機会があった。そこでは、気候変動問題についてはあまり関心がないという方が多く、数日前の体験との違いに驚かされた。どちらも気候変動問題に対する生の声であり、事実である。このように関心をもって取り組もうとする層と、無関心層が存在し、その乖離が大きくなっていることを改めて実感した。

脱炭素社会の実現には、こうした無関心層をいかに減らすかということが重要になることは言うまでもない。先ほどの意向調査で、関心のない層に対して気候変動の状況を説明したところ、何人かの方は関心が高まり行動しようと思ったと答えてくれたが、中には問題はわかるがやはり実感がないので何をしていいかわからないという方もいた。行動しようと思ったという方も実際に行動に結びつくかは不安なところがある。無関心層も関心を持って取り組んでくれるようになることを信じて、関心層に変わってもらえるように情報発信をすることと、無関心層は一定程度存在すると考えて、無関心でも気候変動対策につながるような制度設計を行うことと、おそらく両方に取り組む必要がある。

情報をどのように伝えるか?

私の所属する国立環境研究所の社会システム領域では、マスメディアが環境問題をどのように取り上げてきたかという調査が継続して行われている。COPやIPCCの報告書が出ると、報道の数は多くなり、取り上げられる回数も近年は増加傾向にある。しかしながら、無関心層の存在は、そうした情報が国民全体に伝わっていないことの表れではないかと思う。さらに、脱炭素社会において革新的な技術の重要性や役割は認識してはいるが、GXで取り上げられるような取組は普段の生活とは関わりが薄いために、情報に接しても人ごとになってしまうのであろう。自分ごととして考えて行動するために、どのようなことをすればよいのだろうか?我々は、2050年までに脱炭素社会を実現できるかどうかの岐路に立っている。サッカーのW杯やオリンピックでは普段関心のない人も熱狂するのに、COPやIPCC報告書が出ても気候変動対策でそうしたことが起こらないのはなぜか?どのようにすれば、気候変動問題にもより多くの方が関心をもって実践してくれるようになるのか、会員の皆さんと一緒に考えて行動していきたい。