2023年3月号会報 巻頭言「風」より

どうした?!環境省

藤村 コノヱ


1月に「グリーン連合と環境省との意見交換会」と「中央環境審議会地球環境部会」に出席しました。前者はグリーン連合成立以降毎年1回程、後者は総会と合わせて年3回程の開催で、直接環境省の幹部や担当者に環境政策についての意見を伝えられるいい機会ですが、残念ながら、双方ともに限られた時間内で十分な議論ができないままに終わるのが現状です。意見交換会は当初は政策形成に大きな力を持つ幹部との議論が目的でしたが、最近は環境省からの政策説明とグリーン連合からの政策提言を行い、後半は若手職員と意見交換という流れで、本質的な議論の場にはなっていません。一方中環審ではその時々の課題について各委員が発言。私も今回はGX(グリーントランスフォーメーション)について、原発回帰や石炭火力温存の動きなど全てが経済寄りの政策であることへの懸念に加え、①炭素賦課金が2028年からでは時期的に遅く、それまでの期間も従来型産業への支援が多く単に既得権益の温存に終わるのではと危惧していること、②国民運動で何をするか不明なこと、③DX、GXともに企業中心の政策で、国民の脱炭素への理解が進み行動が変わるか疑問に感じることなどを述べました。

こうした時々の課題への意見に加えて、私が常に言い続けていることがあります。

一つは、環境省は市民参加や市民社会の重要性に対する認識が浅く、蔑ろにしているのではないかという点です。リオ宣言第10原則には、「環境問題は、それぞれのレベルで関心のある全ての市民が参加することによって最も適切に扱われる。」とあります。さらに、市民は公的機関が保有する環境情報を適切に入手し意思決定過程に参加する機会を持たなければならないことや、国は市民の認識と参加を促進し奨励しなければならないこと等も明記されています。しかし、環境省の政策の中に、市民の中でも特に知見や経験もある環境団体への言及は殆どなく、様々な検討会でも環境団体の委員は少数です。民主主義の国では、政府、企業、市民社会のトライアングルがうまく機能して、初めて持続可能で健全な社会が構築されるというのが世界の潮流で、EUでは環境団体は政策形成のパートナーと位置づけています。しかし、日本は相変わらず「産官学」での議論が中心です。今後脱炭素に係る様々な政策が実施段階に入りますが、政府・自治体・企業・学識者だけで成し得ることではなく、環境団体などの協力が不可欠です。しかし、その位置づけも支援策もそれに関する議論さえもなく、世界から大きく遅れているのが日本です。

二点目は、脱炭素を含めた持続可能な社会づくりの基盤は人材育成であり、環境省はその視点からの「環境教育」にもっと取り組むべきという点です。以前より環境省内での環境教育の位置づけが低く、政策もあまり進んでいないことが気がかりでした。今回のGX戦略でも、中小企業や市民の脱炭素への理解が不十分にもかかわらず、即戦力となる人材の育成が中心で、中長期的な人材育成とは言えない内容です。石油・石炭などの化石燃料を使わない「脱炭素」の暮らしや社会や産業への転換という「文明の転換」が求められる中、それを理解し実践するには、中長期的視点からの、個人の暮らしだけでなく社会・経済の変革にもつながる環境教育が必須です。そのためには、これまでの環境教育に不足していた内容、例えば、基礎段階から歴史的事柄や科学的事象も含めて気候変動など環境問題全般について包括的に学ぶ、政治や環境倫理も学び市民活動の体験などを通じて市民としての役割を学ぶ、また溢れる情報の中から正しい情報を読み解くメディア・リテラシー教育で批判的思考力を高めることなども必要でしょう。その意味では、「気候市民会議」も一つの有効な学びと参加の場であり、行動のきっかけにもなりますが、再三の提案にも環境省は消極的です。

三点目は、「全ての生命と社会・経済活動の基盤である環境を将来世代にわたって守る」という環境省本来の使命をもっと政策に生かしてほしいという点です。特に最近の環境政策は産業界と経産省寄りの政策が多く、審議会でも「経済成長」という言葉がよく使われています。しかし環境省の本来の使命から言えば、「成長」ではなく「持続性」のための戦略こそが重要であり、そこにこそ短期的経済性ばかり追い求める経産省とは異なる使命があるはずです。先日もエコアクションに熱心な中小企業の方から「環境省は中小を軽視している。補助金も大企業ばかりだ」と電話がありました。政権の意向に従わざるを得ず目先の対応に追われがちになるのでしょうが、それでも、「目先の経済」になびくのではなく、せめて間違った方向に抗い、正すくらいの姿勢と誇りをもってほしいのです。

また年齢で今回が最後の参加となる審議会についても、「現在の審議会は審議する場ではなく、3分程の各委員の意見表明の場になっている。国の重要政策を審議する場であるならば、もっと時間を確保し、人数も絞って、審議会という名にふさわしい喧々諤々の議論の場にしてほしい」と提案しました。


ウクライナ戦争による爆薬や燃料使用、建物や森林の火災などで約1億t分のCO2が排出されているという情報にもかかわらず、ロシア産天然ガス輸出の停止によるエネルギー危機への対応として世界でも石炭や原発の利用が増え、気候変動対策の後退が懸念されています。そうした中でも、せめて、環境省には、目先の対応だけでなく、中長期的視点からの政策や基盤となる環境教育も充実させ、声を上げ共に環境政策を練り上げ実践する仲間を増やし、それらを力に「安心・安全で皆が心豊かに暮らせる持続可能な社会」を実現し次世代に引き継ぐことに、全力投球してほしいと強く期待します。