2023年7月号会報 巻頭言「風」より

脱炭素政策の正常化と市民組織の基盤強化が必要
             ~グリーン連合の8年の活動から~

藤村 コノヱ


この6月の総会でグリーン連合の共同代表を交代しました。2015年の設立以来8年間務めましたが、そろそろ次世代にバトンタッチする時期が来たという思いからです。

思い起こせば8年前の環境の日(6月5日)、議員会館で開催された設立総会には、会場に入りきらないほどの参加者で、グリーン連合への期待の大きさを実感したことが思い出されます。当時の設立趣意書には、“目先の経済重視の政策が優先され続けている状況を憂い、様々な環境問題を克服し、全ての生命と人間活動の基盤である「環境」を基軸とした民主的で公正な持続可能な社会を構築するために、これまでの経験と英知を結集し、持続可能で豊かな社会構築に向けた大きなうねりを日本社会に巻き起こすことを目的として設立する”旨を書きましたが、その思いは今でも変わってはいません。

しかし、この8年間でどれほどのことが実現できたかと言えば、残念ながら、実現できなかったことの方が多いように感じています。目先の経済優先の政策は、以前よりさらに経済寄りになり、環境省は経産省に追従するのみ。その結果、G7でも環境・エネルギー政策では諸外国の足を引っ張る始末で、環境の悪化も止まりません。一方、民主的で公平な社会への移行は?と言えば、NPOなど市民組織の存在は一般的に知られてきましたが、その多くが相変わらず基盤はぜい弱で、自らの活動に精一杯で、社会に大きなうねりを巻き起こすには至っていません。 その要因はいろいろあると思いますが、大きな要因の一つとして、日本全体、特に政治家や官僚の環境問題への危機感がまだ希薄で、大きな変革を恐れ、従来型の経済成長優先の政策が続いている点です。

1992年の地球サミット以降、世界的にも環境問題の深刻さと解決に向けた取組の重要性が認識されるようになり、パリ協定や毎年開催されるCOPでも、常に危機感が伝えられ更なる取組の加速が求められてきました。しかしその間も、日本では、目先の経済が優先され本質的な気候変動対策が取られることはなく、結果として現在のような環境も経済も世界に後れを取る有様です。しかも先般政府が公表した脱炭素戦略としてのGXも、原発回帰、アンモニア混焼など海外から批判される政策が多く(詳細は本誌参照)、諸外国では有効性が示されているカーボンプライシングも、日本では企業の自主参加型としたことで実効性が疑われるなど、排出削減より経済成長が重視されています。脱炭素という名を借りた経産省の従来型の間違った経済成長政策の延長であり、環境省もそれへの追随を強いられてか、脱炭素への正しい道とは到底思えない内容です。

二つ目の要因として、政治家や官僚そして市民の間でも、市民組織に対する認識不足が依然としてあり、それ故に支援策も全く進んでいないことです。

地球サミット以降、危機的状況にある気候問題の解決には全てのセクターの参加が重要で、特に市民組織の有効性が認識され、政策形成過程での市民組織の参加の重要性も強調されてきました。環境先進地域と言われるEUでは、元々「環境団体は環境利益の代表であり、行政では把握しきれない情報の収集、早期の課題発見、アドボカシー活動など公益の担い手としての役割を有する」という考え方があり、欧州評議会は「環境と参加」決議9項(1986)を行い、①啓発手段として環境団体設立を促進、②環境政策決定への環境団体の参加の強化、③環境団体代表との協議、などを定めています。また地球サミットでのリオ宣言を実行に移したオーフス条約(1998)では、①環境団体を適切に承認し支援する、②環境団体訴訟を認める、③条約事務局会議の段階から環境団体のオブザーバー参加を認める、など環境NGOに特別の地位を与え、制度面だけではなく資金面でも支援する体制を整えています。

一方、日本では、環境基本法(1993)で、「民間団体等の自発的な活動を促進するための措置」が明記され、第5次環境基本計画(2018)でも国民の自主的積極的な環境保全行動と政策形成過程での積極的な参加を期待する旨が書かれています。しかし実際には、環境団体の参加や支援の仕組みは全く整っておらず、オーフス条約もいまだに批准していません。

そのため、より良い環境・エネルギー政策の選択肢として研究者とも連携してNPOが政策提言をしても見向きもされず、政策の多くが旧態依然とした産官学、というより一部経済界の意向を汲んだ経産省主導で作られるのが現状です。その上、国会での議論も深まらず、経済界寄りの政策が数の力で採択されてしまいます。また、参加に関しても私が参加した中央環境審議会でも、議論はほとんどなく、人選も役所の偏った人選のために少数意見は聞き置かれるだけです。さらに、政策提言活動に要する交通費・旅費や人件費など一般管理的な費用はどこからも出ず、全てが手弁当での活動で、これでは継続的な活動は困難です。

勿論、私たちNPOの力不足も思うような成果につながらなかった要因の一つと反省もしていますが、それでもこの8年間、さらに言えば、当会が設立して30年経っても、NPOを取り巻く環境はほとんど変わっていないこと自体が、日本の環境政策と日本社会の低迷にも関係しているように思えてなりません。


今年度の総会でグリーン連合の共同代表も交代し(私も幹事として)、次のステップへ進みます。また「カーボンニュートラルを実現する会」という超党派の会も設立され、当会ともご縁のある小渕優子衆議院議員、福山哲郎参議院議員が共同代表です。脱炭素政策策定の正常化・加速化と併せて、そのためにはNPOなど市民組織の基盤強化と参加も必須であることも、訴えていきたいと考えています。