2023年9月号会報 巻頭言「風」より

根本的な取組しか通用しない「地球沸騰化」時代に突入!

藤村 コノヱ


7月初めからの猛暑・酷暑。途切れることのない35度越えの毎日に、「ついにティッピングポイント(取返しのつかなくなる転換点)を超えたか?!」「もう手遅れかなぁ…」という思いが正直湧いてきます。日本だけではなく、友人の住むカナダやハワイなど世界各国からも乾燥による山火事被害が連日報告される中で、ついにグテーレス国連事務総長も、「地球温暖化ではなく、地球沸騰化(global boiling)時代になった」と、深刻な警告を発しました。(当会も緊急声明発表)

こうした状況にもかかわらず、日本の政治家や政府からは危機感は全く伝わらず、メディアも、ある局では気候変動について積極的に伝えるようになりましたが、多くの局は台風情報や被害状況にとどまり、その根本にある気候変動についてはあまり伝えられず、こうしたメディアの責任も大きいと思います。

ところで、「もう手遅れか!?」と書きましたが、決して諦めたわけではありません。しかし、専門家の間でも内心そう感じている人は多いのではないかと思うのです。なぜなら、今すぐにエネルギーや資源の消費・使用量を減らし、省エネに努め、再エネを増やすなど最大限の努力をしても、過去に排出されたCO2は大気中にたまっていて、ある程度の期間はその影響による気候変動は避けられません。それに地球沸騰化を抑えるほどの効果が出るまでには数十年の時間を要するからです。目先のことしか考えていない多くの政治家が危機感を持ってこの問題に対応しないのも、そのためかもしれません。それに再エネは土地への負荷や資材資源の採掘など生態系への影響を考えるとむやみには増やせません。

やはり、本気でこの危機を脱しようとするならば、上記のような最大限の努力と併せて、途上国や将来世代の資源を搾取してまでの経済成長を求める現在の経済や政治の在り方を根本的に変え、私たち市民も“もっともっと”の過度な悪しき欲望を捨て、適度な良き欲望に基づく本当の豊かさを感じられる暮らしや社会に変えていく必要があります。2015年に国連開発計画(UNDP)は「人間の福利の進歩は、経済成長とは異なる」と結論付け、OECDはじめ世界でも「Beyond GDP」の動きが見られ、それ関連の研究も進み書籍も以前に比べてよく売れているようです。しかし、現実には、日本の政治家、官僚、企業リーダー、そして私たち市民の多くも、厳しい現状や将来不安は感じていても、いまだに「無限の成長」という悪しき欲望の追求に躍起で、私たちの主張など聞く耳を持っていません。

ただ、だからといって何もしなければ、子や孫の時代はより一層ひどい時代になることは科学的にも示されています。だからせめて、彼らにこれ以上のツケを残さないよう、彼らが健全な環境の中で持続的に暮らせるよう、今のうちから、既に満ち足りた私たちこそが、消費を減らし、省エネをし、化石燃料から再エネに切り替えよう、と必死に呼びかけているわけです。それに、そうすることで、少なくとも、これから数十年は続くだろう沸騰化時代やそれに伴う食料不足、エネルギー不足といった事態に耐える術(適応策)を事前に学ぶことにもなると思うからです。

気候危機の話をすると、「では、何をすればいいの?」とよく聞かれます。その時の返答に、これまでは上記のようなことを話していましたが、これからは、それに加えて、「目前の危機から私たち自身が逃れるために何をすればいいか」といった適応策についても積極的に伝えていく必要があります。国や自治体でも様々な適応策を出しています、例えば、私の住む川崎市では、街路樹や壁面緑化、道路改善で地表面の高温化防止、ミストなどによる空気の冷却など、街づくりによる適応策が考えられており、個人向には熱中症対策や防災対策などを呼びかけています。勿論これらは不可欠ですが、沸騰化時代の対応としては不十分で、やはり前述したような、もっと根本的なことの転換と、それにつながる適応策を講じなければ、到底沸騰化は止められそうにありません。

7月号で内藤正明氏は「救命ボート」の提案をしていましたが、東近江や淡路島の人たちは、それに基づき持続可能な地域づくりを始めています。また先日インターン生のOB会を開催したのですが、そのうちの一人は、横浜から福岡県の自然豊かな地方都市に移住。テレワークで再エネ関係のコンサルをしながら、畑を耕し、釣りをし、家族との時間も大切にしているそうで、既に「救命ボート」を個人で仕立てているようでした。

残念ながら、「経済成長」の呪縛から逃れ、これまでの考え方や暮らし方を大胆に変えられる人はまだ少数ですし、「救命ボート」さえ作れない人もいますが、こうした人が増えることも一つの希望です。


最近加藤顧問は「多くの犠牲者が出て初めて、人が気づき、政治も変わる。これからはグリーン経済ではなく小欲知足の経済が重要」とよく言います。実際殆ど報じられませんが、CO2排出量の少ないアフリカなど途上国では、既に気候変動による干ばつや高温が原因となった飢えや伝染病で30万人以上が亡くなっているそうです。

当会では「未来世代の権利」プロジェクトを始めていますが、様々な混乱の後にくる世界に住む人たちが、より良き人生を送り、社会の持続性を保てるようにするには、早急に、国や企業は、資源・エネルギーの消費量を大幅に削減し、GDPという量的成長に捕らわれない経済に転換すること。私たち市民も、悪しき欲望と無駄な消費を抑え、本当の豊かさを得るのに必要な知恵を、未来世代に繋ぐことでしか「未来世代の権利」は守れないと思うのです。そして当会は、持続性の知恵や環境倫理、生き残り戦略などこれまでの蓄積も生かし、未来世代のために、探求と提案を続けることが仕事だと改めて思っています。