2024年3月号会報 巻頭言「風」より

日本政府の現在の気候政策では、気候危機は止められない

藤村 コノヱ


新年の能登半島地震では、多くの方が被災され、今なお困難な状況が続き、復興の道筋もなかなか見えてきません。阪神・淡路、東日本など日本各地で地震災害が繰り返され、気候変動に伴う豪雨などの気象災害も加わり、まさに災害大国日本に暮らす私たち。にもかかわらず、なぜこうした大災害に対する国の備えが不十分なままなのか?なぜ、想定外の大災害を予測しての政策と支援体制が作れないのか?作らないのか?と言った疑問がわいてきます。

これは、気候危機に関しても同様です。IPCCはじめ世界中の科学者が長年の調査・研究の蓄積から、深刻化する気象災害や生態系への影響などについて度々警告を発し、私たちNPOもそれらを踏まえた啓発活動や政策提言を続けています。しかし、現在も日本政府の対応は、気候危機を止めるには不十分なままで、短期的にも中長期的にも、科学と倫理に基づくまっとうで有効な気候政策がないに等しい状況です。

実は、会報でもおなじみの西岡秀三氏から、”日本にも良識ある正統派はいる。現在の日本の気候政策には大きな間違いがあることを言っておかなければ、将来に禍根を残すことになる。研究者やNPOも含め大同団結して何かできないか”との提案があり、私も加藤顧問も同じようなことを考えていたことから、新年早々、周辺の研究者やNPO仲間に呼びかけて小グループで議論を開始しました。そして、中長期を見据えた政策と短期的な政策の双方が必要だが、当面は、2030年2035年に向け、現在の日本の気候政策の問題点を正し、修正するための活動を行うこととして、3頁(※)に示すような内容を政治家も含めて各界各層に働きかけるとともに、6月4日にシンポジウムを開催し、他団体との連携のきっかけにしたいと考えています。


3頁(※)の内容(案)については、いくつかの団体も同様の意見書を出していますが、当グループとしては、中長期の気候政策も見据えた議論と活動も必要だと考えています。それは、気候危機を止めるには、現状のような不十分な政策が、政府内でまかり通る原因を改善しなれば、気候危機は益々深刻化し、将来世代に大きな禍根を残すことになるからです。

考えられる原因は色々ですが、現時点では特に、短期的経済を優先する政府や特定の業界にとって「不都合な真実」は国民には知らせない、と言う情報操作が行われている点です。また、国民生活に密接な環境・エネルギー政策が、一部の政治家や官僚や学者により作られていることも原因の一つです。

上記も含め多くのことを改善し、科学と倫理に基づくまっとうな政策にしていくには、近い将来、志を同じくする多くの仲間と連携し、気候危機を包括的に捉えた「気候危機脱却法(仮称)」のような法律の制定が必要だと考えていますが、その第一歩は、不都合な真実も含め国民が気候危機の現状を「正しく知る」ことができる仕組みと、環境・エネルギー政策形成過程でのNPO・市民などの実質的な参加の仕組みが必要だと思います。

これらについてはこれからの議論ですが、例えば、「気候危機に関する最新の科学と知見・倫理に基づく情報を伝える仕組み」として、①関心を有する多くの人が正しく理解できるような情報提供の手法の開発や、②「気候危機管理官(仮称)」を複数名配置して関係省庁の気候関連政策の実施状況を定期的に点検し・国会に報告する仕組み、③その情報を市民サイドからも監視・チェックする法に基づく仕組みのようなものが必要ではないかと考えています。

また、現在の日本の気候政策の多くは、経済界をバックに抱える経産省が「経済利益」を主張し政策を主導しています。環境政策が進む欧州では、「経済利益」を代表する経済界とのバランスをとるには「環境利益」の代表が必要として、環境NGOをその代表と位置づけ、経済界や労働団体と同等の大きな発言力を持っています。しかし、日本では環境省が自らの使命を忘れてしまったかのような状況で、政府内でも「環境利益」を十分に主張できていないだけでなく、環境NPOの役割や活動に対する理解が不足しているため、国会などの場で「環境利益」を代表する組織や人がいないというのが日本の現状です。

そこで、例えば、①脱炭素の目標達成に向け、科学・経済・社会・国際的見地から、独立した専門的アドバイスやガイダンスを行うために国会が指名する「気候変動委員会」を設置したり、②衆参両院に「気候危機特別委員会」を設置し、環境問題に熟知した議員を増やしていくこともまっとうな政策作りには重要です。併せて、③専門家や議員の考えに対して意見具申ができる権限を持つ、独立した「気候危機市民委員会(仮称)」を設置するなどして、気候やエネルギーに関する政策立案のプロセスに、市民、NPOも含めて多様な主体が参加できる仕組みが必要です。さらに将来的にそうした人材を増やしていくために、時限的に学校に「気候科」を設置し、高等教育では気候危機時代を生き抜くための特別プログラムの実施なども考えられます。

関東大震災の復興がいち早くなされたのは、後藤新平市長が大震災前に欧米の都市計画を学び、東京改造の構想を事前に持っていたことによると言われますが、気候やエネルギー問題についても中長期を見据えた政策を準備しておくことは、食の問題なども含め日本の安全保障の観点からも大切なことです。

前に述べたとおり、本格的議論はこれからですが、多くの人々と連携しつつ議論の輪を広げていきたいと思います。そして、できれば当会が提案している『憲法に環境・持続性原則を』『環境プラス立国』『未来世代の権利』や『脱炭素時代を生きる覚悟と責任』なども、これらと結びつけて進めていければと考えているところです。


(※)3PについてはPDFにて掲載

今こそ、まっとうな日本の気候政策を創ろう(PDF)