1999年8月号会報 巻頭言「風」より

NPO法人「環境文明21」へ

加藤 三郎


今から6年前、本会は有志による任意団体、環境NGOとして発足した。27年余の公務員生活を退いて直ぐに本会を主宰した私はもとより、設立当時からこの会の運営に加わったほとんどの人が、NGO経営の経験を持っていなかった。いわば素人の集団であり、何をするにも手探りで、今思えば怖いもの知らず。プールでしか泳いだ経験のない者が、いきなり大海へ泳ぎ出したようなものであった。

実は、そのような状態は、6年たって多少の経験を積んだ今でも基本的には変わらない。趣味の会や同窓会などならいざ知らず、いやしくも日本社会の持続性を確保するために、価値観や制度面での転換を促すことにお役に立ちたいと考えたり、そのプロセスに参加しながら情報を提供したり、得たりしたいとしている数百人の集団ではあるが、日本の社会に真に貢献しうるためには、本会はNGOとしての力量をもっともっと高めなければならない。私はそのことを、よく認識しているつもりである。

と同時に、問題は単に私たち自身のNGOとしての力不足だけにあるのではないとも考えている。それは、長いこと日本社会は、政治、官界そして企業という政・官・産の三極を中心に回わってきたので、多くの人にとってNGOという名の新規の団体を社会のなかにどのように受け入れ、位置づけたらよいのか、個人にとっても、どう関わったらよいのか計りかねている事情があるのではないか、ということである。つまり、NGOに関する社会の常識は未だ形成されておらず、評価も定まっていないということであろう。

私たちの会の会員数が700人・団体前後と、ここ数年頭打ち状況にある理由を、私がさる所である主婦に「個人会員の年会費が9,600円と高いからなのでしょうか」と問うたのに対し、彼女は、「お金のことよりも、環境団体の会員になるということが面倒で、心の負担になるのでは。環境の保護は役所にまかせておけばよいと思っている人が多いのではないでしょうか」と答えている。

政治も行政も企業も環境問題にそれなりに真剣に取組んでいる現在の日本で、今のところ経験も資金も十分でない環境NGOがなぜ必要かと問われれば、①これら既存の主体では、組織に内在する様々な制約や限界のために、情報、考え方、能力等において不足する、ないしは欠けるところがあるが、NGOはその点を補完しうる、②縦割り、専門分野別では得られない横断的な見方や世論の形成を行うことが出来、時には関係者間の意見や利害の調整をNGOは促進しうる機能がある、と私は答えたい。そんな大層なことが君らに出来るのかと重ねて問われれば、次のように答えたい。戦後50年の間に物質的な豊かさとひきかえに陥ってしまった一種の呪縛からどうして脱け出ることが出来るのか、幕末の日本で、欧米の圧倒的な軍事力や科学技術力を基とする経済力を前にして、鎖国政策という自縛から抜け出せないでいた危機を救った知恵は、草奔とか志士といわれた“脱藩NGO”から出たのではなかったか、と。

さて、私たちが、こんな思いで苦闘していた間に、市民団体有志や国会の関係者が中心になって非営利の市民団体(NPOという。実質的には上記のNGOと同じ)を支援する法律、「特定非営利活動促進法(通称NPO法)」が98年3月に成立し、同年12月から施行された。

この流れのなかで、私たち本会スタッフは「考える会」を、NPO法に基づく法人とすることを検討しはじめた。市民団体により開催されたNPO法についての勉強会に参加したり、神奈川県庁県民部に問い合わせなどして勉強した。その結果、NPO法人になることの資金的メリットは当面はないが、任意団体よりは社会的認知度が高まることが期待されること、また団体の法的位置づけも明確になることなので、去る6月22日に開催された理事会に本会のNPO法人化を諮った。

理事全員から、その了承が得られたので、理事会をNPO法人設立発起人会に切り替えて、改めて定款案など法人化に必要な事項について審議していただいた。ここで特に検討したことの一つは、会の運営にいかに透明性を確保し,また会員の間にいかに公平性を保証するか、もう一つは、会の名称問題であった。

結論を述べれば、まず前者については、会員を社員、正会員、賛助会員の三種に区分し、会の最高決定機関を社員による「総会」とすること。また、会員の意見は随時、会報、ワークショップ等に反映するとともに、年1回開催する「全国交流大会」を定款にも明確に位置づけ、ここで出てきた意見を理事会を通して、会の運営に反映させることとした。

会の名称については、事前に「環境文明を創る会」、「環境と文明を考える会」など、また会員からも意見を寄せられていたが、結局、「考える」とか「創る」などの動詞をはずし、簡明な「環境文明21」とすることで全理事の了承が得られた。

この理事会での審議に基づき、申請書類を整え、7月16日に神奈川県庁の担当部に提出し、同日正式に受理された。現在NPO法に従った縦覧等の手続中である。秋のうちには認証され、NPO法人として正式に発足するものと期待している。私としては、これを契機に、会の活動内容を一層充実させ、私たち自身が設定した役割りを十分に担いたいと願っている。また、そのためには、会員の皆様のさらなるご参加、ご協力、そしてご支援をお願いする。