よくある疑問に対する論説 詳細説明

 
Q11: 最近の大雨や大雪、夏の猛暑や気温の急激な変化などは温暖化と関係があると言われますが、それはいつまで続きますか。
   
説明: 「最近の大雨や大雪、夏の猛暑や気温の急激な変化などは温暖化と関係があるか」については、前世紀後半から始められた世界学術界挙げての温暖化研究の結果、2023年のIPCC報告 (1988年から始まった世界の研究者数百人による研究成果現状報告)では、「人間活動が主に温室効果ガスの排出を通して地球温暖化を引き起こしてきたことには疑う余地がなく、大気、海洋、雪氷圏、及び生物圏に広範かつ急速な変化が起こっている。」と結論づけました。米国のトランプ大統領は、温暖化は史上最大の詐欺だと言いましたが、この科学的事実を覆すことはできません。
そしていま、ここ3年続きの暑い夏が示したように、研究者が予測してきたことが実際にわれわれの毎日に起こっています。最近になって熱中症患者増や洪水・土砂被害増、長引く山火事、アーバンベア出現、養殖カキ不漁などようやく様々な気象の変化や被害が地球温暖化のせいで、、、と報道されるようになりましたが、一つ一つの変化現象が温暖化によるものであるか、自然の現象なのかの判定はなかなか困難です。むしろ高温化すれば起こると予想されていた事象が一斉にあちこちで実際に表れ始めたということです。
しかし、いろんな場所での一時的なトピックスとして報道されてきている個別事象の“もぐらたたき”では温暖化は止められません。温暖化を止めるには、温暖化という事象が持つ以下に示すやや厄介な本質を理解し、それをふまえた長期の戦略が必要です。

温暖化の厄介な性質とそれへの対処 
 第一は、温室効果ガスを少しでも排出しているかぎり温度は上がり続けることです。ですから温度上昇を止めるには、いつかはゼロ排出にしなければなりません。世界のだれかが少しでも出しているとその分また温度は上がるからです。そして排出を減らし始めたとしても排出はしているわけですから、2050-2070年にゼロ排出を達成するまで、まだまだ温度は上がり続け、被害も毎年大きくなっていきます。CO2排出ゼロ(ゼロエミ)の世界になるまでは、変わり続ける気候に毎年違った形で適応していかねばならなりません。
第二は、もとにもどせないこと、不可逆性です。いったん上がった温度を下げるための確実な手立てはまだ見つかっていません。温度を下げるには、排出時あるいは排出で拡散してしまった大気中からCO2を回収して地中にうめこむ(CCS:CO2回収・貯留)などの未来型技術や、世界中の森林に時間をかけて吸収させるなどの対策も考えられてはいます。しかしまだ実際に動き始めていないため、いったん気温が上がってしまうと下げられず、その温度以上での生活が数世紀続きます。ゼロエミが達成されて気候が安定化しても、それまで上がった温度で「沸騰世界」に移っています。そうならないために、慎重な予防原則(早めに手を打つ)に基づく長期政策が必要になります。 第三は、気候変化が自然や生態系の変化を通じてあらゆる人間社会基盤に一斉に変化をもたらすことです。今現在は1.5℃世界の片鱗があちこちにいろんな形で現れ、それぞれの担当分野での対処に大わらわですが、自然生態系も人間の社会経済も、ゼロエミに到達し気候が安定化するまで、混乱の時代が続きます。
今後さらに温度が上がるにつれて、これまでの様々な常識が当てはまらなくなり、例えば、気温上昇影響を考えての疾病対処基準変更や技術基準(エアコンやリチウム電池の試験基準は43℃外気温度で間に合うか?)や農作物の適地基準を見直す必要が出てきますし、パリ市のように「50℃のパリ」を想定して将来の都市計画を作るなど、温度変化に適応する新たな対応の必要性が一斉に高まってきます。さらには、世界各国の気候変動の影響が資源自給率の低い日本に及ぼす安全保障上の影響にも対応する必要があります。そうなると、一連の気候関連の事象を統合的に俯瞰し対応する政策・体制が必要になります。
「いつまで続きますか」という問いは、この変化が一過性のもので「数年我慢していれば誰かが何とかしてくれる」という期待含みのようですが、残念ながら気候安定化の仕事はこうした厄介な性質を持った手ごわい挑戦です。どうしてもやらなければならない転換ですし、道筋も示され手立ても十分にあるのですから、大急ぎでゼロエミ社会に変えることで苦難の時期を乗り越えましょう。

コラム:アーバンベアも困っている
 地球温度が上がってくると、世界の気候帯も動植物も極方向へ、あるいは高地方向へ移動します。気候変動による気候帯の移動速度は年1500-5500mほどですが、樹木の移動速度は遅く、ハンノキで500-2000m、クリ・ブナは200-300m、コナラは75-500mしか動けず、変化について行けなくなって徐々に枯れていきます。クマは、移動は容易ですが、気候の二季化で冬眠時期が分からなくなった上に、ドングリやブナの実の豊作・不作サイクルが変わり食糧が不足してきたために、さしあたり柿やリンゴで冬の準備をするために人里におりてきて、そのうち味を占めて街中を闊歩し始め、人家などにも侵入します。人間社会もクマ対策が遅れてしまい、怖くて外出も農作業も郵便配達もできなくなってしまい、自衛隊や警察が出動して急ごしらえの体制づくりが始まりました。クマは移動できるため、何年かしたらえさを求めて北の方へ移動するかもしれませんが、移動先でもブナが枯れてしまえば餓死するか人里に降りてくるでしょう。そうなればクマ対人間の大戦争になりかねません。既に一発触発のクマ有事地域存立危機事態に入ってます。これからはこうした食い違いが生態系と人間社会との間で起こりながら温暖化が進んでいきます。

コラム:なぜいったん上がった温度は下げられないのか
 それは温暖化のメカニズムにあります。人間が排出するCO2の半分は海や森林土壌に吸収されますが、半分は大気に残ります。そのCO2は分解されないまま毎年どんどん大気に溜まり続け濃度が上がって温度も濃度に比例して上がります。いったん上がった温度を下げるには、大気中のCO2濃度を下げればいいのですが、自然に吸収してもらいたくとも、山火事などで森林は排出源になってしまい、すぐには力になりません。また大気からCO2だけを吸い込んで地中に埋める技術もまだ確立していませんし、どれだけ吸収できるかのポテンシャルも不明な状況なので、吸収は当面はあてにできません。そのため、排出している限り温度は上がり、毎年毎年暑くなる一方になるのです。

 上記のメカニズムをまとめると下図のようになります。一言でいうと、温度はそれまで出してきたCO2総量に比例して上がっていくため、これからもCO2を排出している限り温度は上がり続け、いったん上がった温度は下げられないのです。
(西岡秀三)

 
Q10: 政府は経済政策には熱心ですが、環境政策にはあまり力を入れないのはなぜですか。
   
説明: 今や、環境問題が国を超えて地球規模になり、その影響は国の経済だけでなく安全保障にも及ぶようになってきました。気候変動は、その典型です。気候変動の問題は、猛暑や豪雨にどう対応するかということだけではありません。その解決には、化石燃料に依存するエネルギーシステムを再エネに転換する抜本的な改革が不可欠です、その転換は、経済にも安全保障にも、極めて大きな意味を持ちます。日本ではそのことが、まだ十分に理解されていないのではないかと思います。
化石燃料の生産は、世界の特定の国に集中しています。生産国は、石油や天然ガスを輸出し、毎年膨大な利益を得ています。日本は、その輸入に約年間30兆円も使っており、長く日本の国際収支に大きな影響を及ぼしてきました。中東などから長距離を輸送してくるため、安全保障上の問題もあります。少し昔の話になりますが、半世紀ほど前の二度にわたる石油ショックでそのことは明白になりました。これと同様な問題が、ウクライナ戦争でも起こりました。ドイツはじめヨーロッパ諸国は、ロシアからの天然ガスの供給が受けられなくなり、深刻な影響があったことは記憶に新しいところです。
気候変動に対処するため、エネルギーシステムを再エネに転換すれば、そのような問題は全くなくなります。貿易収支は大幅に改善し、その資金を国内に投資できます。再エネは、都会よりも地方に多く存在しますから、その国内投資は地方再生にも大いに貢献することになります。また、再エネは国産ですから、安全保障上のリスクはゼロになります。太陽光や風力の確保で、国際紛争を起こそうとする国はないからです。さらに、日本のように地震や台風などの災害の多い国では、再エネの普及は、災害対応を抜本的に改善します。被災地でも全面的な停電はなくなり、携帯の使用や水の供給は基本的に継続させることができるからです。
このように理解すれば、経済や安全保障と同じように、気候変動などの環境問題にも真剣に取り組む必要があることが理解されると思います。
(事務局、一方井誠治)

 
Q9: 日本の政策は「遅れている」と言われますが、具体的に何が遅れているのですか。
   
説明: 先進国は2050年ネットゼロに向けて5年ごとに削減の中間目標を設定しますが、日本の中間目標は石炭火力の全廃の時期を示さないなど意欲的なものでなく、2050年のネットゼロの達成が危ぶまれています。
政策手段として、日本は、2012年には、再エネ固定価格買取制度(FIT)および温暖化対策税を導入しました。また、2024年の「GX推進戦略」に基づき、「排出量取引制度」や「化石燃料賦課金」などを導入することとしています。問題はそれそれの政策が、削減目標と直接リンクしておらず、目標を達成するための手段としては、きわめて不十分な建付けとなっていることです。たとえば、2038年から導入予定の化石燃料賦課金はカーボンプライシングとしての排出抑制の手段ではなく、GX国債の償還のため財源調達ための手段として設計されており、極めて低く設定されることとなっています。
政策上のもう一つの大きな問題は、再エネの発電量の変動に対応するという理由で電力の容量市場を作り、実質上、既存の火力発電施設の延命化を図っていることです。 このように全体として矛盾する政策を併存させ、火力発電を延命化させ、再エネの導入を意図的に遅らせることにより、結果として、削減目標の達成を不確実にしてしまっているところに問題があるのです。
(事務局、一方井誠治)

 
Q8: 日本がやっても、米国、中国、インドなどCO2排出量の多い国がやらなければ、あまり効果がないのではないですか。
   
説明: 日本の排出量は、中国や米国に比べて少ないのは確かです。それでもまだ全排出量の3%以上を占め、世界で第5位の排出量です。過去の排出も考えるとその割合はもっと高いものになります。その日本が、中国や米国の排出努力が少ないからと言って、相応の努力を怠ってしまったらどうなるでしょうか?まず、日本より排出量の少ない大多数の国に対し、努力をしても無駄だというメッセージを送ってしまいます。また、日本よりも多くの排出している国に対する、国際的圧力を減じてしまうことになります。
ちなみに、イギリスの排出量は世界全体の0.8%、世界では22番目の排出国ですが、2024年には、1990年の排出量の半分に削減しました。昨年、石炭火力も全廃しました。2050年のネットゼロを目指して、世界に模範を示していこうとしています。
また、EUは「グリーン・ディール」という多面的な枠組みのもとで、野心的な温室効果ガスの削減目標を掲げ、対策を進めていますが、これは決して一方的に経済を犠牲にして環境を守ろうとするものではありません。EUを離脱したイギリスを含め、これらの政策の背景には、再生可能エネルギーを軸としたいち早いエネルギー改革等は、気候変動への対処はもとより、より競争力のある経済をつくることになるという考えがあるのです。
日本もイギリスやEUと一緒に、ネットゼロに向けてリーダーシップをとっていくべきではないでしょうか。 (一方井誠治/事務局)

 
Q5: 政府も企業もSDGsには熱心ですが、気候危機やエネルギー問題も含めた持続可能な国家 計画のようなものはきちんと作成されているのでしょうか。
   
説明: 1992年にブラジルのリオデジャネイロで開催された環境と開発に関する国連会議(地球サミット)において、「持続可能な開発(発展)」という概念が世界に定着し、それを具体化するための「アジェンダ21」「リオ宣言」という形での合意文書も作成されました。これ以降、各国はそれぞれの国ごとの実情に応じた「国の持続可能な発展計画」が作成されること、その計画に責任を持つ国家レベルの政策調整組織の設立が期待されました。
日本では、地球サミットの直後から、当時の環境庁を中心に、「持続可能な発展に係る日本版アジェンダ21」の作成にとりかかり、当時の外務省、通産省等の関係各省庁の協力を得て、1993年にそれをとりまとめ、閣議決定を経て国連に提出しました。これは当時、もっとも早い国連に対する国家計画の提出でした。しかしながら、その内容は「アジェンダ21」の構成をそのままに日本にあてはめ、機械的にその当時の政府等の状況を記述したきわめて平板なもので、気候変動・エネルギー政策をはじめとする日本における持続可能性の発展の重要性や政策の優先度を深く分析したものではなく、国内においてもほとんど話題にもなりませんでした。
当時、政府では環境庁を中心に初めての環境基本計画の作成も進んでおり、それが1994年に策定され、これ以降は、これを「日本版アジェンダ21(持続可能な発展に係る日本の国家計画)」として国連持続可能な発展委員会に登録されることになりました。ただし、問題は、これは閣議決定文書ではあるものの、あくまで環境庁(省)が発議し、中央環境審議会で審議される環境分野の基本計画であることです。すなわち、国連が期待した国レベルの政策調整組織での策定ではなかったこともあり、例えば本来政府全体で共有すべき持続可能性の定義や政策間の基本的な議論・調整は行われておらず、個別の政策についても気候変動政策の根幹であるエネルギー政策などには十分に踏み込むことができませんでした。そのため、「持続可能な発展」という視点からは、国連が期待した、日本におけるすべての政策の上位計画であるという明確な位置づけもなされていないことが大きな問題です。

一方で、英国は1999年、欧州連合は2001年、ドイツは2002年、フランスは2003年と、それぞれ時間をかけて、それぞれの持続可能な国家の発展戦略を作成しています。その内容を見るといずれも各国の実情を反映したメリハリの利いた構成になっており、かつ、政府全体の上位計画としての位置づけとなっています。例えばドイツは、首相の諮問機関としての「持続可能な発展のための協議会」のもとで2002年に「ドイツの展望ー私たちの持続可能な発展に関する計画」を策定したのですが、内容的には、「持続可能な発展の定義と戦略の中での位置づけ」、「持続可能な発展のモデル」、「持続可能性を確保するためのルール」など、持続可能性を深く認識しそれを政策に反映させようという意気込みが感じられます。特に、「持続可能性を確保するためのルール」の中に、ハーマン・デイリーの持続可能な発展の3原則が入っているなど、国としての大きな発展の方向がきちんと示されていることが注目されます。 (一方井誠治)

 
Q4: 一人ひとりの個人が省エネや再エネで頑張っても大きな効果はないのではないですか。
   
説明: 〇みんなで削減すれば大きな力になる
 例えば、料理をしているあなたが1分でもガスをつけっぱなしにしていると、そこから出るCO2が確実に地球の温度をあげることが科学的にわかっています。一人ひとりが排出するCO2はわずかですが、世界の約80億人の排出量を合わせると、地球の温度を上げてしまう程の大きな力となって、現に温暖化をすすめています。逆にいえば、今一人ひとりがわずかでも排出を減らせば、それもまた大きな力となって温度上昇を止めることができるわけです。一旦上がった温度を下げることはほぼできませんから、このまま何もしなければ、毎年毎年暑くなる一方の世界になってしまいます。そんなことにならないためには、世界の全ての人が排出を減らし、最後にはカーボンニュートラル(排出量と吸収量を均衡させ全体の排出量はゼロ)の脱炭素世界にするしかないのです。

〇一人当たりの排出量が多い人から減らすべき?
 省エネを頑張っている人からみれば、大量のエネルギーを使い大量のCO2を出している人から減らすべきだという意見もあり、公平性の観点からは当然の意見です。とはいえ、1人当たりのCO2排出量を世界の主要国と比べると、最も多いのはアメリカで一人当たり13.8トン、次いでロシア11.3トン、中国7.5トン、そして日本は7.8トンです(JCCCA/EDMCエネルギー・経済統計要覧2025版より)。アメリカ人などに比べれば日本人は少量ですが、アフリカ諸国では一人当たり0.9トンで、日本人はその約8倍のCO2を排出していることになり、これは一人の人間としては公平とは言えません。
 国際的には、1992年の国連環境・開発会議(地球サミット)において採択されたリオ宣言第7原則では、「共通だが差異ある責任」として、“地球温暖化問題の解決は人類共通の責任だが、産業革命以降大量の化石燃料を使用し大量のCO2を排出してきた先進国と、発展途上にある後進国との責任の重さには差異がある”という考え方が定着しています。日本はCO2の累積排出量が世界の第6位という高排出国であり、先進国としてその点からも排出削減の責任は大きいと言えます。さらに最近では「気候正義」という考え方も広がり、特に途上国や貧困層など脆弱な人たちに対して公平な対応が求められるようになっています。先進国に住む私たちも途上国に住む人たちも同じ人間であり、子どもたちにより良い地球を残したいという思いは同じですが、過去から現在までのCO2排出量も気候危機による影響も格段の差があります。エネルギーを大量に使い利便性や物質的な豊かさを既に享受してきた私たち日本人は、その事実を踏まえ、取るべき責任には違いがあることを理解し率先して行動することが求められています。勿論日本国内でも同様のことは言えるでしょう。

〇私たちの消費行動で企業活動を変えることもできる
 日本全体のCO2排出量を見た場合、2023年度の部門別排出量で最も多いのは産業部門34.3%、次いで運輸部門19.2%、業務その他部門16.7%、家庭部門14.9%、エネルギー転換部門8.1%となり、家庭からの排出量は全体から見ればさほど多くはありません。しかし、産業部門や運輸部門、業務その他部門で使用される電気や熱などは、私たちが使用する製品やサービスを生み出し、それを運搬し、提供するために使用されるものがほとんどです。そのため、私たちの消費行動次第で変えることも可能です。
例えば、家電製品や車の新規購入や買い替えを控えれば、生産量は減り生産工程でのエネルギー消費は抑えられます。またインターネットでの買い物を控え徒歩や自転車や公共交通機関などを利用して買い物に行けば、商品の運搬量は減り運搬によるエネルギー消費も減ることが期待できます。さらにスマホの利用時間を減らせば、データセンターでの電力消費量は減らすことができます。
 このように産業部門や運輸部門の排出量が私たちの暮らしとつながっていることにも想像力を働かせ、私たち一人ひとりが製品やサービスの消費そのものを抑えることで、エネルギー消費の削減につながります。(藤村コノヱ)

 
Q3: 地球温暖化に伴い、近年既に記録的な猛暑や気候災害が多発し、健康被害を始め気候変動による様々な影響が、世界中で深刻になってきていますが、冷房システムの導入や農作物の品種改良などの適応策を徹底すれば、私たち人間の生活は可能になるので、過度に心配する必要はないのではないですか。
   
説明: 2023/24年は、世界の平均気温は観測史上最高となり、産業革命以前より1.5度以上上昇しました。本年も既に欧州、北米、そして日本で記録的な猛暑が観察されています。気象庁は、本年6月の日本の月平均気温が、1898年の統計開始以来、最も高かったと発表しました。温暖化の進行に伴い、近年は、熱波による健康影響や豪雨による災害、旱魃、大規模な森林火災など、深刻な影響が世界中に広がっています。
特に、2003年の欧州の熱波では、40度を超える猛暑が多くの地域で観測され、7万人もの人が亡くなったとの推定もなされました。また、2022年には、パキスタンで大規模な洪水が生じ、国土の1/3が被害を受け、その損失は300億ドルにものぼりました。さらに、オーストラリアでは、2019/20年に大規模森林火災が発生し、膨大なCO2の発生、コアラなど野生生物の焼死、そして数十億ドルに上る経済被害が発生しました。米国のロサンゼルスでも、本年1月、大規模な森林火災が発生し人的被害も出たことは記憶に新しいところです。
日本でもすでに、豪雨などによる災害や森林火災、農業被害など深刻な影響が報告されています。健康被害も、都市部を中心に熱中症の被害が広がってきています。熱中症による死亡数は、1980年代は二桁であったものが、2024年には2000人以上となりました。関連死も含めるとその7倍の数に上るとの論文もあります。また、温暖化の原因である化石燃料の燃焼に伴う大気汚染により、世界で毎年500万人以上もの人が死亡しているとの報告があります。これらの健康被害は、特に低所得の高齢者に現れていることに注目する必要があります。加えて、デング熱などの熱帯症のリスクが高まり、食中毒や水の感染症の広がりが観測されています。さらには精神疾患の増加などにつながるとの報告もあります。
このように気候変動による影響は、日本で、そして世界で色々な形で広がってきています。今後、温暖化の進行により、事態はさらに深刻になると予想されます。適応策は気候変動の悪影響に対処するための対症療法です。適応策には、例えば冷房システムの増強が温暖化をさらに促進させる場合がある一方、緑化の推進のように緩和にも貢献する対策もあります。このような複雑な関係に留意しながら、温暖化の根本的治療である緩和策を着実に進めていく必要があります。
日本でも2018年に導入された気候変動適応法により対策が推進されてきていますが、今後さらに本格的な取組が必要となるのは明らかです。欧州諸国は、パリ協定の目標を達成するために積極的な緩和策を推進してきましたが、近年は、適応策にも本格的に取り組み始めています。
その一例として、最近パリ市や東京都が導入した先進的な適応策を紹介します。

それは「50度のパリ」と名付けられた適応戦略です。都市の構造や市民の生活様式を根本から見直すことによって、パリですでに現実化しつつある熱波に備える包括的なものです。2023年にパリ市議会が設置した評価ミッションによって提案され、2024年にはパリの都市計画やレジリアンス戦略に反映されました。舗装撤去や緑地の拡充整備、水遊びなどもできる親水空間や涼のオアシスの設置、風の道の確保などを、学校や街路、河川、博物館、建物の屋上などで展開することとしています。そのようなハード面での整備に加え、猛暑下での労働を制限したり、低所得者層のために避難所を確保するなど、ソフト面での対策も含め、全体として85におよぶ具体的な提言をしています。
2025年度、エアコンなどの利用を控えることなく熱中症対策を徹底するために東京都が導入した夏季の水道の基本料金の無料化や労働安全衛生規則の改正による熱中症対策の屋外作業への適用などと共通する都市部での適応対策です。このような対策の有効性についてしっかりと評価していく必要がありますが、今後日本の都市にも大いに参考になる取組です。 (一方井誠治、森秀行)

 
Q2: 気候変動問題の解決は大事かもしれませんが、大多数の国民は物価高や老後、若者も将来の暮らしなどに不安を感じており、そちらの方が差し迫った問題ではないのですか。
   
説明: (回答の背景と根拠)
①政府に対する要望に関する調査データでは、 内閣府の「国民生活に関する世論調査(2023年度)」(ⅰ)によると、今後政府はどのようなことに力を入れるべきだと思うかという問いに対する回答(複数回答)は以下の通りです。
・物価対策(66.1%)
・医療・年金等の社会保障の整備(64.6%)
・景気対策(58.7%)
・高齢社会対策(52.2%)
・自然環境の保護・地球環境保全・公害対策(27.2%)
これらを見ると、確かに地球環境問題よりも生活に直結する課題が上位に挙げられています。

②しかし、気候変動は「生活不安」に直結する構造的要因であることに留意する必要があります。例えば、
1)物価高との関係・・・気候変動による異常気象(干ばつ・洪水・熱波)が農業生産に打撃を与え、食料価格が上昇します。FAO(国連食糧農業機関)によれば、気候変動は食料価格を長期的に不安定にする最大要因とされています。日本でも、2023年の台風と猛暑による野菜価格の高騰が家計を直撃し、2024年の猛暑によりコメの品質が劣化し、それが米価高騰と米不足につながりました。
2)老後の暮らしとの関係・・・高齢者は熱中症リスクが高く、夏の猛暑に適応できずに健康被害が拡大しています。そのため、医療費・介護費の社会的負担が増加します。また、気候変動に起因する自然災害による経済的損失が拡大して、年金や貯蓄がインフレで目減りするリスクも生じます。
3)若者の将来への影響・・・気候災害の影響を最も長期的に受けるのが現在の若者世代とこれから生まれてくる世代です。世界経済フォーラムの「グローバルリスク報告書2025年版」(ⅱ)では、10年先を見据えると環境リスクが最も大きな懸念材料であり、「異常気象」、「生物多様性の喪失と生態系の崩壊」が上位を占めています。

③それでは総合的にはどうすべきか。
たしかに、短期的には物価・老後・雇用など「今困っていること」への対処が急務です。しかしそれだけに注力し、たとえば、炭素税や再エネ導入の加速化、排出規制などの気候変動対策を後回しにすると、これらの問題は中長期でさらに悪化してしまいます。したがって、「気候変動対策は後回しにしてもよい」という考えではなく、低所得者などに対する「現在の緊急の生活支援」と「持続可能な未来への基盤強化(気候変動対策)」の双方に資する政策と戦略が必要となります。ちなみに、EU諸国では、炭素税による収入を社会保障の財源にするなど、気候政策と生活保障をセットで進める政策設計が進んでいます。

こうしたことから、現状の不安としては、気候問題より物価・老後・将来不安が上位を占めていますが、気候変動の影響は、物価や健康、雇用などの生活不安の”土台と構造”に直結していることから、物価高・老後不安・将来の暮らしに対する短期的支援と併せて、これらの構造的要因である気候政策も合わせた統合的なアプローチが必要です。(松下和夫)

 (ⅰ)国民生活に関する世論調査(令和6年8月)
   https://survey.gov-online.go.jp/living/202412/r06/r06-life/
 (ⅱ)https://jp.weforum.org/publications/global-risks-report-2025/

 
Q1: 環境の専門家たちは、「気候変動は重大な危機」と叫んでいますが、本当に「重大な危機」なのですか。本当に重大と言われる根拠を教えてください。
   
説明: 「気候変動が重大な危機である」という根拠は以下の点にあります。
①排出している限り温暖化は進む:今のまま何もしないでいると、その間にも地球温度は上がりますし、気候災害はどんどん増えます。なぜかというと人間が排出する二酸化炭素の約半分は海や陸地に吸収されますが、残り半分は吸収されずに大気中に放出されそのまま消えることなくどんどん蓄積して、大気中の濃度を上げていき、それに比例して地球大気温が上がるからです。座して暑い世界の到来を待つわけにはゆきません。
②脱炭素社会に変えるしかない:少量でも出している限り温度が上がるのですから、温度上昇を止めるには二酸化炭素などの温室効果ガスを一切排出しないということ以外、手はありません。世界が二酸化炭素を一切出さない「脱炭素(ゼロエミッション、炭素中立などほぼ同義)社会」に変わろうしているのは、そういう理由からです。
③急速に進みつつある温度上昇:地球気温は予想以上に急速に上がっています。2021年グラスゴー会議で参加国は1900年頃からの温度上昇を1.5℃以下にとどめようと約束したのですが、昨2024年にはすでに地球温度の1.6℃上昇がEU コペルニクス気候変動サービスによって観測されています。(なお、パリ協定で決めた2℃とか1.5℃という数字は、この1年の観測値だけで決まるものでなく、さらに何年かの観測の平均値が出ないとそこに到達したかどうかは決められません。)
④足元に迫ってきた気候変動被害:近年、温暖化研究者が予測していたとおりの気候システム変化とそれによる気候災害が頻繁に観察されるようになってきました。大気、降水、水文、生態系、土壌、海洋、氷床等の気候要因が、より高温の方向にずれ始め、それに伴い、いままであまりみられなかった事象が、各地で一斉に増え始めたのです。巨大化台風の迷走、気象災害と酷暑の毎夏、山火事の多発、白濁米増加と越冬が可能になったイネカメムシの被害、ふるさと納税の目玉サクランボの不作、冬眠時期を間違えた徘徊クマ、北の港でぶりの豊漁、四季が二季になりアパレル業界の当惑、など温暖化の影響はもうわれわれの生活の足下にまで迫ってきています。2年前のメディアではこれらは地域の面白ネタとしてバラバラに紹介されていましたが、これらのすべてが温暖化研究で予想されていた気候システム変化に伴う一貫した事象です。世界中で起こっている気候災害のどれが自然起源でどれが温暖化の影響なのかの判定研究も進み、それらの多くは温暖化がなければ起こり得ないものであることが検証されています。
⑤温暖化の不可逆性と切迫度: 一旦上がった地球気温はあとで下げられるかというと、まだそのための技術的メドはついていません。これからの世代はどんどん熱くなっていく一方の気候のもとでそれに適応しつつ過ごす生活が待ってます。あと戻りできない事象には予防原則の観点から、可能な限り早く温度上昇を止めなければなりません。
⑥誰も温暖化の被害から逃げられない:世界中の人々はそれぞれの場所で、わずかな自然の変動はあるもののほぼ安定した気候の下で生活を営んできました。地球気候の急激な変化は、災害の増加や食料不作、健康被害などを通じて、そうしたすべての人の安寧な生活を大きく損なっています。またグローバル化された世界では、こうした気候変動被害から生じる諸国の政治不安、安全保障、経済格差拡大、気候難民の発生が、戦争などの国際紛争を加速させ、気候政策を隅に追いやってしまうといった悪循環も懸念されます。
⑦温暖化は人類の持続可能性の問題:今のままの排出を続けていると、温度上昇を人間では止められなくなるまでに気候システムが大変化する可能性も真剣に検討されています。そうなると「人類」生存の持続性が危うくなってきます。世界中の人々の安寧な日常への脅威であることも含め、温暖化はまさに人類の「持続可能性」が試される脅威なのです。
⑧適応策だけでは逃げ切れない:この数世紀の温度変動幅は概ね1℃以内にとどまっていました。人間・生態系・社会システムはもともと気候がもつ自然変動の幅程度にはうまく適応する力を備えているのですが、現在の温度変化は既にこれまでの自然変動幅を超えています。その影響は顕在化しており、さらに今後ゼロ排出になるまでの間温度は上がり続けますから、これに対応するための適応策の強化は喫緊の仕事です。すでに世界では、猛暑や豪雨、森林火災などにより、温暖化による被害と損失がますます顕在化してきています。これを放置することはできません。適応策を抜本的に強化するとともに、これ以上の深刻化を防ぐため緩和対策の早急な強化が不可欠です。
⑨ゼロエミへの道筋と技術的可能性は明示されている:幸いにしてこの30年の研究から温度上昇を止めるにはゼロ排出しかないことが明確になり、それに向けて世界がどのように排出を減らして行くかの道筋も示されています。残念ながらこれまで排出が増え続けたため、これからは相当急速に減らして行かねばならない厳しい道筋しか残っていません。しかし、そのための省エネ・再エネなどの技術的ポテンシャルは十分にあり、既存技術とその改善があれば後は実行するのみという状況にまでなっています。
⑩責任の押し付け合いで削減ができない:2021年グラスゴー会議ですべての参加国が1.5℃上昇以下に止めようと削減に向け約束したにもかかわらず、パリ協定から10年たった今も排出は削減に向かっていませんし、世界各国の削減計画をいくら積み上げても削減量が足りず、とても1.5℃への道筋に乗らない状況です。世界の国が自分だけは楽をしようと責任を押し付け合っている間にも温暖化は進んでいるのです。
⑪気候の危機の真因:もっと早くから減少に向かっていれば、半世紀かけてじっくりと脱炭素転換ができたはずです。それなのに、被害が起きていても見ないふり、逃れられない危機があと数年先にせまり解決策がわかっているのに、各国の政治はそれを阻んできました。気候が変わってきたことは大変な危機ですが、正しく対応していればその危機はなかった。将来世代への責任を放棄し、人類の生存より目先の利益獲得に走り、気が付いたらもう時間がない。こうした悲しい人類の「さが」が、自ら招いた「気候危機」の真因なのです。
⑫1.5℃以下では止められない?:脱炭素化の動きが遅々として進まない状況にあるため、研究者や専門家の間では、とても1.5℃上昇以下で安定化することはできないのではないかとの懸念が出始めています。もちろん1.5℃になった途端にそれまでと異なる変動パターンに切り替わるというわけでなく、地球温度は粛々と上がり続け、被害はそれとともに拡大し続けます。今のところ、これまでと同じく「可能な限り早く温室効果ガスの排出を減らす」こと以外に、危機を逃れるための特効薬はありません。こんなことを続けていると2℃上昇も通過して対応はますます困難になっていきます。その先に何が待っているかはわかりません。おそらく、気候に関する惑星限界(プラネタリーバウンダリー)を超えてしまい、気候システムが暴走しはじめて人為的には止められなくなっているかもしれません。そうなってからではもう間にあいません。

「気候危機が重大」なのは気候が生態系の唯一無二の生存基盤であることにつきます。 毎日の生活が脅かされるだけでなく、人類の持続可能性にかかることなので、1.5℃を超えたとしても手を緩めるわけにはいきません。あてにしていた国連交渉がまとまらず諸国の施策がいい加減な結果、酷暑や災害にさいなまれるのは我々生活者市民とその子孫です。そして温暖化の元凶二酸化炭素排出の栓を握っているのも我々生活者市民です。ならばまず少々張り込んで断熱リフォームし、再エネ電力に切り替え、EVにのりかえなど手近の対策をやり、有志を糾合して企業や行政や政治に声を上げ、一緒になって脱炭素社会転換を進めないと、この危機は逃れられません。(西岡秀三)