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4.暮らしの基盤の持続性~特に食料の観点から
①異常気象の農作物への影響は深刻
CO2濃度の上昇や気温上昇に伴い、作物の収穫時期や栽培適地が変化するとともに、作物の収穫量や品質にも大きな影響を及ぼしている。例えば、水稲(米)は近年の高温の影響で白未熟粒の被害が増加傾向にあり、西日本では5~6割、東日本では3~4割の地域でその影響が見られる。また高温年には品質の低下や一等米の比率が著しく低下しており、猛暑となった2023年には一等米比率が全国平均で60.9%となり、現行の農産物検査制度が始まった2004年以降で最低を記録した。
一方果実・野菜も高温障害として、果物の着色不良、野菜の奇形果・生育不良などが発生し、例えば、高温・少雨の影響でトマトなどに、果樹ではリンゴ、ぶどう、ミカンなどに、収穫量の減少だけでなく、規格外で販売できないなど大きな影響が出ている。そのほかにも、栽培適地が移動し特産物が作れなくなったり、温暖化に伴い病害虫(カメムシなど)の発生数や活動期間が増大したための被害も増加している(農水省「地球温暖化影響調査レポート」、環境省「気候変動影響評価報告書」より)。
高温だけでなく、大雨の頻度と降水量の増加により、農業生産基盤の被害も発生しており、例えば、2023年6月末からの大雨では、日本全国の農地・農業用施設に約690億円の被害が生じた。また日本全国の農業用ため池では、直近10年間(2014~2023年)で6000件(被災金額800億円超)の被害が報告されており、そのうち大雨が原因のものは94%に及んでいる(環境省)。こうした状況に対して、品種改良や農地の湛水被害等の防止・ハザードマップ策定などのリスク評価の実施も進められているが、今後も夏の猛暑や豪雨、冬の豪雪や乾燥などの異常気象が続くことが予測されており、国内での農作物生産は十分には行えなくなる可能性が高いと考えられる。
⓶気候変動が続けば、日本への食料輸入は価格高騰や品不足により滞り、食料自給率の低い日本では食糧不足に陥る
異常気象に伴う国内産の農産物の生産量減少に加えて、日本の食料自給率の低さは、日本の食の持続性の観点から大きな課題である。日本の食料自給率は、1965(昭和40)年には約73%だったが、それ以降年々減少し、2024(令和6年)時点では38%である。これを補うために、米国、中国、オーストラリアなど海外からの農産物輸入は増えているが、これらの大量・遠距離輸送は増加傾向にあり、これに伴うCO2排出量も(輸送手段にもよるが)懸念されるところである。また最近の円安も影響して、農産物輸入額は近年急増し、2020年は6兆2129億円だったのが、23年の実績では9兆536億円となり、わずか3年間で4割以上も増加している(「食料・農業・農村白書」2023年版)。
食料自給率が低いことは、私たちの暮らしの持続性に大きく影響する。なぜなら、気候変動の影響は日本のみならず、輸入元である米国、中国、オーストラリアなどでも異常気象に伴う影響は拡大しており、今後それらの国の食料が不足する事態になれば、価格高騰や品不足などにより、日本への輸出は大幅に減少するか最悪な場合は輸出できなくなることが予測され、日本の現在の自給率では、食糧不足の事態はさらに深刻になる。
また、海外からの食料輸入は輸送段階でのCO2排出量が大きいだけでなく、生産地の土地利用形態の変化に伴うCO2の排出は、現地の温暖化を進める要因にもなっている。例えば、牛肉の生育は鶏肉や豚肉と比べ環境負荷が多いことは知られているが、その原因として、牛のゲップや排泄物等に由来するメタンは世界全体の温室効果ガス(GHG)の5%をしめるが、それ以上に牛を飼育するために、森林を伐採して農地や放牧地などに土地利用形態を変えることによるGHG排出は、牛肉生産によるGHG排出の約9割を占めると言われる(世界資源研究所/WRI)。こうしたことは直接的には目に見えないが、牛肉を食べるといった日常的な行為にも、温暖化を進める要因があることを忘れないようにする必要があろう。
③温暖化に伴う気温上昇は、高齢化がすすむ農業人口の減少にさらに拍車をかける
農業を営む「農業経営体」全体は2025年で82万8000件となり、5年前から24万7000経営体、10年前から54万9000の経営体が減少している。これに加えて農業従事者の高齢化も進んでいる。
一方日本全体で気候変動に伴う高温による死亡者数は2000年代に入り毎年数百人から1000人を超え、特に高齢者の死亡者数は増加傾向にある。
屋外作業が多い農業従事者・特に高齢の農業従事者にとって、気候変動に伴う気温上昇により日中の作業はますます困難になることに加えて、前述した生産量の変動などが続けば農業を止めてしまう者も増え、現状が続けば、農作物の生産自体が困難になることが予想される。
④林業、水産業への影響も深刻である
近年国内でも温暖化による気温上昇と乾燥が一つの原因と考えられる森林火災が頻発しており、地域住民の暮らしに大きな影響を与えるとともに、火災により大量のCO2が大気中に排出され、温暖化をさらに加速するという悪循環が見られる。
また、大気の乾燥化による影響で、特に夏期には葉への水供給が不足して光合成速度が低下し、一部の地域ではスギの衰退被害も見られる。さらに気温上昇に伴い、植物の生育に適した環境が極地や高地に移動し、本来の植生が維持できず、特定の動植物の生息環境が脅かされている。近年頻発するクマの被害もこれが一つの要因ではないかと考えられる。また冬の気温上昇により、これまで寒さで死滅した害虫の生存や繁殖が助長されたり、異常気象により樹木自体の生命力が低下して病害虫による立ち枯れが発生し、特にマツ材線虫病及びナラ枯れ被害が各地に広がるなど深刻な状況にある。
こうした温暖化による自然、特に森林環境への影響は、森林本来の二酸化炭素吸収・固定能力の低下を招き、気候変動を抑える力を弱めるだけでなく、農業同様に、人手不足と高齢化、採算性の悪化など人為的な課題もあり、林業と言う産業としての持続性も危ぶまれる状況にある。
一方水産業については、日本近海の平均海面水温は、長期的に上昇しており、2024年までの上昇率は100年当たり+1.33℃の割合となっているものの、経年的な水温上昇が見られない沿岸域の報告もある。
しかし世界全体では、海水温上昇により、漁獲可能量は減少し、日本周辺の海域でも主要な水産資源である魚介類の分布域の変化が見られる。例えば、温暖化による海水温上昇に伴い、サンマの道東海域での漁獲量が減少し、サケも海洋生活初期の高温水により回帰率が減少するなどの影響が出ている。その一方で、プリが日本海や東北地方の太平洋沿岸で大量に獲れるなど、漁獲可能な地域とその量が大きく変化している。
また、養殖業では、高温水によるホタテ貝やカキの大量死なども各地で見られる。日本近海での漁獲量の減少の要因として資源管理が適切に行われてこなかったことも挙げられるが、これまで獲れていた地域で獲れなくなったり、その逆の現象もあることで、漁業関係者だけでなく水産物加工業にも大きな影響を及ぼし始めている。
今後については、日本近海の平均海面水温は、21世紀末には20世紀末と比較して、2℃上昇シナリオでは1.13℃上昇すると予測されているほか、海水の酸性化、貧酸素水塊の早期拡大なども予測されていることから、水産業の今後にも大きな影響が及ぶものと考えられる。