5.様々なインフラ・ライフライン等への影響

(森谷 賢)

 
気象災害が主要インフラ・ライフラインに及ぼす影響

5-1. 現在の状況(工業化以前から約1℃上昇)

近年、国内各地で、大雨、台風等による各種インフラ・ライフラインへの影響が生じており、特に鉄道、道路の被害、それに伴う孤立集落の発生、電気・水道、通信、廃棄物処理のライフラインへの障害が発生している。この障害により一時数十万戸に停電や断水の被害が出るケースが複数生じているほか、水道インフラでは、取水制限の実施などの渇水被害が全国各地で発生している。主な事例等をインフラの種類ごとに述べる。

【鉄道】

鉄道事業者が被害を受けた気象災害を分析した結果、近年、降水の時空間分布の変化により、土砂流入・土石流及び落石による被害の割合が増加していることが報告されている。 2019年東日本台風では、北陸新幹線の車両基地の浸水被害が発生した。大阪市内の地下鉄路線を対象とした研究では、局所的な集中豪雨により内水・外水氾濫が生じれば、地下鉄駅が浸水し、地下鉄利用者の安全に影響が生じる可能性が指摘されている。さらに、気象災害が契機となって路線廃止となった事例も報告されている。

【道路】

海面水位の上昇や高潮・高波の増加により、海岸道路に来襲する高波の頻度が増加傾向にあり、高潮による道路の交通障害や越波による事故の発生が報告されている。また、大雨や台風による影響として、高速道路の切土斜面の崩壊、流木による道路の通行障害の発生などが報告されている。 全国の複数のバス事業者を対象に調査した結果では、全国のバスの営業所の約42%(998営業所)が、洪水や土砂災害等のリスクにさらされていることが明らかになった。

【電力】

強い台風等により、電力設備の損壊など、エネルギー供給インフラが被害を受け、電力やガスの安定供給に影響が生じた事例が報告されている。水力発電所においては、豪雨災害による被害事例がその他の災害・事故に比べて多く、設備の冠水や放水路の埋没などの被害が報告されている。2019年房総半島台風では、記録的な暴風により、送電線の鉄塔や電柱の倒壊、倒木や飛散物による配電設備の故障等が発生し、首都圏をはじめとして最大約93万4,900戸の大規模な停電が発生した。現場の被害状況の確認や倒木の処理に時間を要したこと等により、復旧作業が長期化した。

【水道】

 大雨や台風による浄水場施設の冠水、水没や水管橋などの破断などの施設そのものへの影響が確認されている。近年では、毎年1万戸以上の断水被害が発生、その原因は、送電線鉄塔や電柱の倒壊に伴う大規模な停電、浄水場等の冠水、土砂崩れによる配水管の破損等とされている。2018年7月豪雨では、広島県、岡山県、愛媛県等、18道府県80市町村の111水道事業体で26万4千戸に断水被害が発生、この断水は最大8月13日まで続いた。  上述の台風等に伴う影響の他に、給水制限等を伴う渇水がほぼ毎年発生しているとの報告がある。2008年の渇水では,全国のダムで取水制限が行われ、144万人が影響を受けたと報告されている。2013年夏は、関東、中部、四国地方を中心に、平年に比べ降水量が少ない状況が続き、全国18水系23河川の一級河川で取水制限が実施された。

【通信】

2019年房総半島台風において、強風による倒木等の影響により電柱の倒壊、通信線の断線等が多数発生した。また、停電が長期間に及んだため、携帯電話基地局等における非常用電源が維持できない等の理由により、千葉県をはじめとして通信障害が広範囲・長期間にわたり発生した。

【廃棄物処理】

2018年7月豪雨、2019年房総半島台風や同年東日本台風では、家屋損壊等に伴う災害廃棄物が大量に発生し、固形廃棄物処理施設・廃棄物焼却施設・リサイクル施設・し尿処理施設の浸水、設備破損、施設稼働率の低下に加え、これら施設や最終処分場への搬入路の寸断等の影響が生じている。

5-2. 将来予測(工業化以前から約1.5~2℃上昇時、または約3~4℃上昇時)

将来現状より更に気温が上昇した場合、気候変動による豪雨の頻発化と激甚化により、斜面崩壊に伴う道路途絶を通じて孤立地域の発生可能性が増加すると予測されている。鉄道ネットワークにおける水害リスクは、SSP5-8.5シナリオ(注5)では21世紀末におけるリスクが基準気候と比較して最大で約1.37倍に増加し、特に、主要都市間を結ぶ幹線路線や新幹線でリスクが顕著に増加することが予測されている。
道路のメンテナンス、改修、復旧に必要な費用が増加することが予測されている。また、極端な降雨による鉄道の軌道への影響、洪水・土砂災害による道路網への影響、鉄道輸送の安定性への影響が予測されている。電力インフラに関して、台風や海面水位の上昇等による発電施設への直接的被害や冷却水として利用する海水温上昇による発電出力の低下等の影響が予測されている。その他、水道インフラでは河川の微細浮遊土砂の増加による水質管理への影響、気候変動に伴う降水パターンの変化や積雪量の減少、融雪時期の早期化等により渇水が頻発化、長期化、深刻化すること等、渇水被害のさらなる拡大や、気象災害による廃棄物の適正処理への影響洪水氾濫による水害廃棄物の発生等も予測されている。

注釈

(注1)上下水道 災害にどう備えるか NHK時論公論、2026年9月1日
(注2)河川整備基本方針の変更の考え方についてhttps://www.mlit.go.jp/river/shinngikai_blog/shaseishin/kasenbunkakai/shouiinkai/kihonhoushin/dai126kai/03_siryou1.pdf
(注3)気候変動を踏まえた治水計画のあり方 提言 改訂版https://www.mlit.go.jp/river/shinngikai_blog/chisui_kentoukai/index.html
(注4)気候変動を踏まえた下水道による都市浸水対策の推進について 提言 https://www.mlit.go.jp/mizukokudo/sewerage/content/001402868.pdf
(注5)SSP5-8.5シナリオとは、化石燃料依存型の発展の下で気候政策を導入しないシナリオ。
このシナリオでは2050年までにCO2排出量が現在の2倍に。これに近いRCPシナリオはRCP8.5。
なお、見出しの工業化以前からの気温上昇幅(約1℃、約1.5~2℃または約3~4℃)は、1850~1900年を基準とした世界平均気温上昇幅であり、日本域における気温上昇幅とは必ずしも一致しないことに留意が必要である。現状気温上昇幅は、IPCC第6次評価報告書の記載に基づく。